ゲーム制限条例で闇ゲーミングカフェが繁盛してゲーム文化が発展してしまったらしい
五月晴くく
本編
近頃「闇ゲーミングカフェ」がブームだ。
闇ゲーミングカフェでは若い才能たちが切磋琢磨しており、最近出てきたあのプロゲーマーやこのプロゲーマーは闇ゲーミングカフェ出身という噂も聞くことだろう。
ところで、なぜプロゲーマーたちがプロゲーミングハウスなんてものを作って共同生活をするのかご存知だろうか。それは余計な手間を省けることに加えて、ゲームに関しての議論がしやすいからだ。
闇ゲーミングカフェはオフラインで若者が集まる。中には才能あるプレイヤーが多くいるだろう。そういったプレイヤーが集まることで、才能が腐ることなく切磋琢磨できるのだ。
そんな才能を支援すべく、プロの中には闇ゲーミングカフェに出資している者もいるらしいという話は聞くんじゃないだろうか。
元プロゲーマーの私は、そんな闇ゲーミングカフェの実態に多少詳しい。だから今回は、私が独自に闇ゲーミングカフェについて調査したことをまとめよう。
まず、闇ゲーミングカフェなんてものが必要になったのは、ゲーム制限条例なるものが全国的に制定され始めたことが原因だ。
あるとき突然、全国的にゲーム制限条例が施行され、未成年者のゲームプレイに時間制限が設けられた。未成年者のゲーム時間を制限するようにゲーム会社や親権者に求めるものだ。企業が守れなかった場合の罰則規定まで設けられていた。
これはゲーム依存症問題の表面化に伴い施行されたものだが、実情とは大きく異なるとの批判も若者を中心として多かった。
しかし、往々にしてこういった意見は黙殺される。ゲーム制限条例もそうだ。子どもたちの親世代や、ビデオゲームと馴染みの無い世代の意見が尊重された。
若者を守るためという理由は、世間のコンセンサスを得るのには良いお題目であったのだ。思考への真剣さを欠くと、科学的根拠より耳あたりの良い言葉を求めてしまう。どうしようもない人間の性だった。
これに困ったのはゲーム業界だ。ゲーム時間制限への対応に追われた。そしてゲームをプレイするためには年齢確認が必要となり、未成年は一日一時間以上ゲームをプレイすることができなくなった。
ゲーム業界の中でも、eスポーツ業界は特に難しい状況へと陥った。なぜならeスポーツのプロプレイヤーには未成年のプレイヤーが多くいたからだ。
当時の私のチームメイトにも未成年がいた。そのため対応に苦労した。
未成年のプレイヤーを多く抱えるプロゲーミングチームは、次々とゲーム制限条例を制定しないことを宣言した自治体へと避難を進めることとなる。
制定しないことを宣言したのは鹿児島県、兵庫県、群馬県、青森県。宣言はしていないが今のところ制定していないのが沖縄県、宮崎県、奈良県、京都府、長野県、北海道だ。
兵庫県などではゲーミングハウスが乱立し、ささやかな発展を見せた地域もあった程だという。
一方で、eスポーツ産業の世界的な発展は、日本のお偉方も無視できないほどの経済規模となった。
この流れを見て、日本のゲーム業界は閃いた。ゲーム制限条例の撤廃への切り口として、eスポーツを推進することにしたのだ。
eスポーツは爽やかで、夢のあるスポーツという印象を宣伝し続ける。子どもの将来の夢のトップに、プロゲーマーという項目があることも好都合だった。
日本を代表するコンシューマーゲーム機のメーカー複数が中心となって全力で宣伝したのだ。若者からある程度上の世代まで人気のコンテンツを抱えた企業の影響力は強かった。
外国資本も日本での市場開拓のために盛大に協力した。
ゲーム制限条例の制定ラッシュから一年も経たず、これまで日本でのeスポーツ発展を大きく妨げていた複数の法律が改正された。景品表示法、賭博に関する刑法などだ。これにより、これまで困難だった高額賞金のeスポーツ大会が行えるようになった。
ゲーム業界からの圧力や経済に関する必要性が考慮された結果と言えよう。
ゲーム業界は一時期株価の大幅な低迷が続いていたこともあり、この法改正によってひと安心したという。
しかし、ゲーム制限条例に関してはなかなか改正の流れを作ることができなかった。ゲーム依存症の原因を根っこから抑えるという方針は、さほど間違っていなかったのだ。
公園に滑り台がなければ怪我をしない。川で遊ばなければ溺れない。ゲームに触れなければゲーム依存症にならない。
ある意味当たり前で残酷な事実だ。娯楽を取るか、安全を取るかという選択。
あるいは、お酒を飲まなければアルコール依存症にならない、と言うのが良いかもしれない。ゲームとは害であるという認識が、中高年層を中心に一般化していたのだ。
こうして、大規模で熱狂的なゲーム大会が開催される一方、それをプレイすることは困難という歪な状況が続いた。eスポーツによる動員人数は増える。プレイヤーも増える。しかし、それとともにプレイヤーの不満も増えた。なぜ自分たちは一時間しかゲームができないのだ、と。
経済規模の広がりは各界が注目する。徐々にサッカーや野球などのスポーツと同様に扱われ始める。
本来はサッカーや野球よりも遊ぶことが簡単なはずのゲーム。家の中から気軽に一人で楽しめるはずのゲーム。あるいは遠くにいる友人とだって楽しめるはずのゲームが、ゲーム制限条例に基づく規制で困難になっていた。
そんな中、ゲーム制限条例が施行された自治体で密かに流行り始めたお店があった。
それが「闇ゲーミングカフェ」である。
表向きは普通のゲーミングカフェやインターネットカフェである。時間でスペースや高スペックのパソコンを借りて、ゲームやインターネットサーフィンを楽しめるお店だ。
しかし、闇ゲーミングカフェは裏で未成年者を対象として時間制限が解除された状態でゲームプレイができるようにしていた。
闇ゲーミングカフェにとって幸運だったのは、この闇ゲーミングカフェという事業が反社会的勢力のしのぎとして目を付けられなかったことだ。
実は大手のゲーム企業が闇ゲーミングカフェの裏で暗躍していたなんて話も聞くが、真相は闇の中だ。反社会的勢力が割り込めなかったのは、このあたりで何か事情があるのかもしれない。
私は懸命なので、この件については深く立ち入らないことにしたからよくわからないが。
さて、こういった実態に対して、自治体側は取り締まることができなかった。なぜならゲーム制限条例で罰則の規定を設けたのはゲーム会社に対してのみだったからだ。他に関しては、責務としての記載のみであった。
闇ゲーミングカフェは確かに違法にゲームをいじっていたが、それはゲーム会社が訴えなければなんの問題もない範囲でのみ。そして、もちろんゲーム会社は訴えることをしない。
やがて、プロゲーミングチームなどは闇ゲーミングカフェを周り、有望なプレイヤーをスカウトするようになった。そしてスカウトの噂が立つと、さらに闇ゲーミングカフェの人気が出る、という次第だ。
もともとアングラの気があったゲームという文化と、闇ゲーミングカフェの相性はとても良かった。
さて、もしも君がプロゲーマーになりたいなら闇ゲーミングカフェに行くと良い。ときにはビックリするほど強いプレイヤーがいるだろう。そんな人たちと切磋琢磨をするんだ。
なに、お金がないだって?
いい話があるんだ。これは内緒の話なんだが、もしも君に才能がありそうなら闇ゲーミングカフェの使用料を私たちが支援しよう。
興味があったら、ぜひ応募してほしい。
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