第180話 世界を巡って仲間達を送り届けるぞ(ゲームのエンディング的な場面)

 回復したら、なんだかでっかいモードと高校生モードを使い分けられるようになっていた。

 あっちの世界に戻った時と一緒だな。


「私としてはどちらでもいいんだけど。ただ……オクノは小さい方が体が楽……!」


 ラムハに強く言われてしまった。


「じゃあ、こう、人によって使い分ける方針で」


「是非お願いするわ……!」


 ラムハに強く要望されてしまった!

 まあ何ていうか惚れた弱みみたいなので、じゃあそうしよっかなーと思ってしまう。


 そして小さいモードで甲板に出てきたら、タカフミが走ってきた。


「ちょっとちょっとオクノ氏ー!! 通常モードはダメだよー。あのね、これから世界中を回ってみんなを送り届けるんだよ。その時に、そんなちょこーんと小さいモードでいいと思うのかい? いや、僕よりは背が高いけどさ。あのでかくて筋骨隆々なオクノ氏の方がカリスマあるでしょ」


「なるほど」


 俺は納得した。

 そして大きくなってから着替えて戻ってくる。


「それそれ! いいよー、カリスマが溢れてるよー!」


「そうかなあ」


「あのねえオクノ氏。この世界ってまだまだバーバリアンな世界じゃない。力こそパワーなわけよ。だから、でかくて強いリーダーっていうのは求められてるんだ。ほら、ファイナルさんなんかそれに美形まで加わってるだろ」


「余か?」


 名前を呼ばれて、ファイナル皇帝が出てきた。

 確かに、俺に匹敵する上背と鎧の上からでも分かる堂々たる体格。

 そしてハリウッドスター顔負けの美形。


 完璧超人か。

 いや、完璧超人なんだったな。


「人は人だ。気にすることはない。だが、人は見た目で判断する生き物だ。見目が優れているに越したことはない」


「ほらー」


 タカフミがドヤ顔をした。

 こいつ凄いなあ。

 どうしてこんなに張っ倒したくなる顔ができるんだ。ある意味天才かも知れん。


 こんな話をしていたら、あっという間に新帝国が見えてきた。

 仲間ロボと連結したダミアンは、よく分からないシステムで魔力を発揮できるようになり、ホリデー号は常に飛べるようになったのだ。


 何もかも終わってから、超絶パワーアップするなよなー。


「おお、この辺りでよい。今頃新帝国は、余がいなくなったことで大騒ぎであろうな。戦争の準備をしているかも知れぬぞ」


 わっはっは、と笑うファイナル。


「よし、じゃあここで下ろすわ」


 グルムルに指示をすると、この優秀な操舵手は船全体に命令を伝える。

 ホリデー号がゆっくり、新帝国目掛けて下っていった。


 下の方で、わーっと大騒ぎになる。

 おお、軍隊がわらわら出てきた。


 そこへ、船べりにファイナルが現れて手を振る。

 すると軍隊が一様にポカーンとした。


 俺がファイナルの隣に並んだら、みんな納得したようだ。


「オクノだ」


「皇帝陛下、英雄オクノといっしょにいたのか」


「ってことは、凄い戦いがあったんじゃないのか?」


「そう言えばさっき、何ていうのかな。世界が変わった、みたいな感覚が」


「なんだそれ」


 わいわいがやがやと聞こえてくる。


 ファイナルは俺に手を差し出した。


「いつでも新帝国を訪れるがよい。歓迎してやろう」


「ああ。その時はよろしく。じゃあな、ファイナル皇帝!」


「うむ、達者でな、英雄よ」


 ファイナルはマントを翻し、船から飛び降りた。

 見事に着地し、周囲にインペリアルガードが集まってくる。


 彼らに見送られながら、俺達は新帝国を後にするのだった。


「次はミッタク?」


「なんでだよ。うちは別に送り届けられる必要ねーぞ」


 ミッタクがぶーぶー言った。


「じゃあ残る?」


「もちろん」


 ということは……。

 サンクニージュとはこれでおさらばか。

 船は取って返し、空を進む。


 サンクニージュから海へ出て……。


「この辺りってオルカ達と出会ったところだったよな」


「そういやそうだな。いや、別に俺らも降りねえぞ? 何しろ、ホリデー号は俺達がようやく手に入れた船だからな」


「それもそうか」


 あれえ?

 そうすると、仲間達を送り届けるつもりで世界を巡る予定だったのだが……。

 別に行くところなんかないぞ。


「はいはい!」


「あたしら! 帝国に帰んなきゃ!」


「おお、もう一つの帝国があったっけ!」


 シュウスケとマナミが主張したのでピンと来た。

 じゃあ、もう一つの帝国へ向けて出発だ。


 ぐんぐん進むと、見えてきた。

 速いなーホリデー号。

 世界を一日で縦断できるぞこいつ。


「シュウスケとマナミはさ、帰らないの、元の世界?」


「あー、それも考えたんだけどねえ」


 シュウスケが腕組みする。


「向こうにいる人達には悪いけど、俺達にとっちゃこっちも現実だろ? 俺もマナミも、自分なりに必死に生きて色々切り開いてきたんだよね。それを全部投げ捨てて現実に戻っても、それはそれでどうかなって」


「うんうん。ダーリンといられればどこでも楽しいもんね! それにさ、こっちってあたし達が助けた世界でしょ! 超アツくない? あたし達ヒーローだってば!」


「なるほど」


 二人は戻るつもりがないようだ。


「タカフミはどうなん?」


「僕も戻らないよ。こっちは好きなマンガもアニメもないし、スマホが使えないからソシャゲもできない。だけどまあ、無いことに慣れたよね……。それに僕がいなかったら帝国はどうなるのさ」


「確かに」


 一理ある。


「つまり、誰もあっちには戻らないのか」


「あのう」


 日向がおずおずと手を上げた。


「はい、日向」


「私、フロントくんをお父さんに紹介しないと……。それから、私はちょこちょこ、あっちとこっちを行き来したいなあって」


「なんですって」


 なんと大胆な申し出なのだ。


「こういうのいけるんですかね、月の女神様」


 俺が話を振ると、なんかポケーっとしてたハームラがハッとした。


『いけないいけない、目を開けたまま寝てました! でもわたくしは女神だから、どんな話がされていたか理解しています。いいんじゃないでしょうか。その代わり、お二人にはお仕事をしてもらわないとですけど』


「お仕事?」


「仕事?」


 日向とフロントが並んで首を傾げる。


『世界を守るお仕事です。この世界を狙う勢力はまだまだあちこちにいるんです。コール一人じゃあなかなか追いつきませんから。その報酬としてあちらの世界とこちらを自由に行き来できるようにしましょう』


「本当ですか!? じゃあ、引き受けます!」


「正義を守れるなら、俺もまたやぶさかではない。マキという心強いパートナーもいることだしな」


「フロントくん……」


「マキ……」


 なんか見つめ合い始めたのでこれはこれで。


「じゃあ、以上で戻る組はなしね。はいはい了解……」


「オラァ!」


 いきなり俺の足が蹴られた。


「うわー、なんだー」


「あたしが!! なんで!! 無視されてんだあ!」


「あーっ、あ、あなたは明良川! なんだ、何か話あるの?」


「あたしは戻る!!」


「ええ……」


 俺はタカフミを見た。


「タカフミいるのに?」


「は!? なんであのクソ陰キャに気兼ねしないといけないわけよ! あたしは! 戻る! 戻ってこの力を使って日本で無双するの! ひゃっはー! 明良川ゆずりの痛快世界支配神話があっちで始まるわよーっ!!」


『ダメです』


 ハームラが却下してきたので、明良川は帰れないことになった。


「な、なんでー」


「なんでもクソもねえだろ。すごい性格だなあ。タカフミ、昔からこいつこうなの?」


「なんにも変わってないね、フヒャヒャ」


 タカフミが笑った。


 そんなわけで。

 タカフミとシュウスケ、マナミを帝国に置いて、次は王国へ。


「今だ! こんな船で雑用ばっかしてられるか! あたしは逃げるわよ! ヒャッハー!!」


「ゆずりが逃げたー!」


 ルリアが慌てて走ってくる。

 これこれ、あまり走るとお腹に障る……。

 ……逃げた?


 燃え上がる蛾のような翼を羽ばたかせながら、明良川がタカフミ達ところに向かって行った。

 なんか、タカフミがちょっと嬉しそうに笑ってて、明良川が怒鳴っているな。


 まあ、あれはあれでいいだろう。

 あそこにいれば悪さもしないだろうしな。


 さあ、本格的に王国だ。


 ここでは、ついにあいつと別れる事になる。


「ではな。世話になった、我が友オクノ」


「おう! 俺の初の親友だぜお前」


 俺とイクサはガシッと抱き合った。

 そう。

 イクサはこれから、イーヒン辺境伯のもとで新たな辺境伯となるべく、勉学の日々に入るのだ。


 賢さが4に達したイクサ。

 これならば辺境伯として最低限の勉強は可能であろうと、彼の妻であるアリシアが判断したのだ。


「もちろん、執政についてはわたくしが補助します。ですが、イクサヴァータ様が広い視点を持ち、物事を考えられるようになったことには、あなたのお力添えが大きかったと思うのです。ありがとうございます、オクノ様」


「なんのなんの」


 辺境伯領は、住民総出でお出迎えとなった。


「ばんざい! イクサヴァータ様ばんざい!」


「アリシア様ばんざい! 新辺境伯、ばんざい!」


「英雄オクノ、ばんざい!」


 おおー!

 大歓迎だ!

 俺達はこの地に降りて、一泊していく事にした。


 宴が始まり、かつて一回だけパーティにした騎士アベレッジに「僕も最終決戦呼んでもらえると思ったんですよ」「あ、悪い忘れてたわ!!」とか会話しつつ。

 辺境伯は、娘婿であるイクサの成長に大喜びだ。


「賢さ4か……! 成長されましたな、イクサヴァータ様!!」


「ああ。もっと精進していきたいものだ。これからは剣の時代ではなくなるからな」


 イクサが未来を見据えている!

 これは凄いなあ。

 俺も見習うところがあるかもだ。


 そんな俺の袖口を、ルリアが引っ張った。


「ねえねえオクノくん。次どこ行くの?」


「次ー。次かあ」


「わたしの故郷は行きましたし、そもそも遊牧民は故郷がどんどん移っていくものですからねえ」


 カリナが腕組みしている。

 アミラは既にお酒で酔っ払い、ごきげんだ。


「お姉さんはね、オクノくんといっしょならどこでもいいわよー。それにほら、女神様から正式にお許し出たでしょ。作っちゃおうよ、こ・ど・も!」


「なるほど……」


 ラムハが酒のせいだけでなく頬を赤らめながら、神妙な表情で頷く。


「じゃあそろそろ、あたいも混ぜてもらっていい? 人魚と人の間でどんな子どもができるか興味あったんだよねー」


「揃いも揃って色ボケじゃのう……」


 ロマまで話に加わっていったのを、シーマが鼻を鳴らして外側から見つめている。


「それじゃあさ!」


 ルリアが提案した。


「あたしのふるさとに来なよ! なーんもない田舎の村だけどさ。あんまいいとこでもないけど……みんなと一緒ならきっと楽しいから!」


 なるほど。

 そう言えば、ルリアの故郷にだけは一度も行ったことがなかったな。


「よし、では、次なる目的地はルリアの故郷! 田舎の村だ!」


 おーっ! と、オクタマ戦団から声が上がった。



 世界を騒がせていた、戦いの神メイオーは倒した。

 だが、俺達にはまだまだやること、やりたいことがあるようだ。


 さあ、その次はどうしよう。

 そのまた次は?


 旅は続きそうなのだ。

 


────


 次がラスト。

 

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