第98話 俺、皇帝に謁見する

 新帝国の帝都に通されたので、トコトコと歩いていくことにする。

 壁の中は、中世ヨーロッパ!みたいなステレオタイプな風景だった。

 なので詳しくは語らないぞ。


『ホー、風光明媚デス』


 ダミアンGがキョロキョロしていると、それを見た人達が悲鳴を上げた。


「うわあ、鋼鉄兵だ!」


「街の中まで入ってきたのか!」


「今日は天空の大盆が来てないのに!」


「待て、なんでインペリアルガードは鋼鉄兵を退治しないんだ!?」


 おや?

 ダミアンGが怖がられている。

 これはひょっとすると……。


『ロボット差別デス!』


 ダミアンGが頭の蓋からプピーッと蒸気を吹いて怒った。

 おい待てお前、中には食料と水しか入れてないはずなのになんで蒸気が出るの?


 俺が真剣な顔でダミアンの蓋を開けて中を確認していると、先行していたインペリアルガードが戻ってきた。


「何を道草を食っているんだ。皇帝陛下の元に君達を連れて行かねばならないんだぞ」


 インペリアルガードのリーダー、ジェラルドが呆れている。


「うむ、すまんな。ちょっと目の前で理不尽な状況が起きたもので。ふむ、ダミアンの中にしまった食料は加熱されてないな。なんだったんだあの蒸気……」


 パタンと蓋を閉じる。


『細カイコトヲ気ニシテハイケマセン』


「それはお前が言うセリフじゃない気がするなあ」


 そして俺達がまた道を行く。

 すると、今度はみんなフタマタを怖がるのだ。


「きゃあ! 双首のモンスター犬が!」


「街の中まで入ってきたのか!」


「今日はモンスターの襲撃は無いというのに」


「待て、なんでインペリアルガードはモンスターを退治しないんだ?」


 さっきと同じこと言ってない、この人達?


 まあ、それだけインペリアルガードが信頼されているということなんだろう。

 ちなみに、グリズや小柄なインペリアルガードの男は、ちらちら俺を見ている。

 なんだろう。


「おい、君。どこでその技を習い覚えた」


 小柄な男が寄ってきた。

 恐ろしくキレのある体術を使うやつだったな。

 日向の上位互換みたいなやつだ。


「僕はミルマス。君の流儀に合わせ、打撃で勝負してみたが、いやはや参った。打撃では勝負にならないな。一撃の重さが違う」


「あんたの技も恐ろしいキレだったな。っていうかあんた、もしかしてメインは空中殺法では……?」


「分かるか! 君もメインは投げだな?」


「分かるかー」


 ミルマスから、プロレス者の気配を感じる……!!

 まさか世界を超えて同好の士に会えるとはな。


「俺もメインは武器だぞ!」


 グリズが割って入ってきた。


「知ってる」


「なんで知ってるんだ!!」


「体術使いはあんな分かりやすいパンチはしないぞ。うちの仲間にも打撃系の体術使いがいるが、もっとこう、えぐりこむような芯に響く一撃をだな」


「くっそー。大剣を持てば負けねえのに……!!」


「あっ、大剣使いか! なるほど、あんたの体格だと映えるなあ」


 男同士、三人でキャッキャしていると、ルリアとカリナが羨ましそうにそれを見ているのである。


「混ざればいいのに」


「ええー。男の子だけで騒いでるところにはちょっとねえ」


「入って行きづらいです!」


「俺とイクサやオルカがキャッキャしてるところには平気で入ってくるのに」


「だってその人達、いんぺりあるなんとかなんでしょ? なんか偉い人っぽいじゃん」


 なるほど。

 ルリアは村娘だった。

 カリナも遊牧民の娘だから、こういう権力側の人間とは相性がよろしくない。

 なるほどなあ。


 ちなみにそんな彼らにも、インペリアルガードの中の女性が話しかけてくるのだが。


「あなた達、武器をもっているけれど彼の仲間なの? それで戦えるわけ? 戦いに向いた体格じゃないのに」


「むかーっ、やれるよー!」


「わたし達は強いのですよ」


 銀色の長髪を横で結んだ、背の高い女がルリア達に絡んでいる。

 まー、確かにパッと見、ルリアもカリナも強そうに見えないもんなあ。


 この世界、おそらくじっくりレベルを上げていけば実力と見た目が比例する。

 しかし、俺達みたいに超高速で世界を駆け回って、戦闘を繰り返して速攻でレベル上げをすると、外見が実力に追いつかないのだ。

 俺?

 俺は最前線で攻撃を受け止め続けたので、外見の方が先に変化した気がする……!!


「ミシェール! ご婦人方をからかうんじゃない」


「ごめんなさいジェラルド。でもあの娘達がどう戦うのか興味はない?」


 濃いなー、インペリアルガード。

 俺達の方が地味みたいじゃないか。


「なあイクサ」


「うむ」


 イクサが返事をしたが、多分何も考えてない。

 ちなみに、イクサのことは、最初に出会った普通っぽい印象のインペリアルガードがチラチラ見ている。

 五人のガードでは、一番地味な男だ。

 でもきっと実力があるんだろうな。


「ついたよ。皇帝陛下は寛大なお方だが、そこに甘えないように。礼を尽くしてもらえるかな」


「ああ。この国で一番えらい人だもんな。そこはちゃんとやる」


 ジェラルドに応じる俺である。

 その国の偉い人をバカにするようなのは、つまりその国をバカにすることだからな。

 この世界に来て、それくらいのことは覚えたぞ。


 分厚い扉には、向かい合うドラゴンの紋章が刻まれていた。

 本当にドラゴンいるんだなー。


 扉がまるで自動のように開いていく。

 呪法でも使ってるんだろうか。


 通り過ぎてみたら、扉を開ける係の人がいた。


「お疲れ様」


「こりゃどうも」

 

 ひと声かけたら会釈が返ってきた。

 そして、皇帝の前へ。

 玉座に腰掛けているのは、思っていたよりも若い男だった。


 くすんだ金髪が、ライオンのように広がっている。

 眼光は非常に鋭い。


 イクサの目を猛禽とするなら、こいつは肉食獣の目だ。


「控えよ!」


 皇帝の脇に立っている男が告げた。

 とりあえず、腰を下ろすことにする。

 皇帝より頭の位置が低ければいいだろう。


 頭を下げたりするのは文化が違うかも知れないからやらない。


 すると、皇帝の横の人は満足そうに頷いた。

 合ってるらしい。


「よい。楽にしろ」


 皇帝が口を開いた。


「余は新帝国皇帝ファイナル。そなたは何者か? 双頭のモンスターと鋼鉄兵を従える戦士よ」


「俺はオクノだ。傭兵団オクタマ戦団の団長をしている」


「傭兵団? 女ばかり四人と、モンスターと鋼鉄兵とヤギ飼い……ヤギもおるのか」


 いっけね!

 ペドロ連れて来ちまった!!

 振り返ったら、ペドロが難しい顔をしている。


「ノリでついて来たけどさ、俺、場違いじゃない?」


「めええ」


 ヤギが鳴いたので、謁見の間にどよめきが走った。


「ペドロごめんな。あ、これガイドの報酬。もう帰っていいから。ガイド助かったわ。ホワイトシチュー美味かった」


「なんのなんの。また近くまで来たら使ってくれ」


 ということで、謁見の場でガイド料金の精算を終え、ヤギ飼いのペドロと別れる俺達なのである。


「ぜ、前代未聞だ」


 皇帝の横に立っている人が唖然としている。


「ああ、あとファイナル皇帝」


「うむ」


「他にイクサ。それから、他の仲間達は船を使って俺達と並行して進んでるんだ」


「ほう、そうか。つまりそなたらは、外の大陸から来たのだな」


「そういうことだ」


「目的は何だ」


 いきなり核心を突いてきたぞ。

 ジェラルドたちインペリアルガードが、俺に注目する。


「天空の大盆を落とす。あれに腐れ縁の敵が乗ってる」


 俺の言葉に、謁見の間に集まっていた連中が息を呑んだようだった。

 皇帝ファイナルだけが笑う。


「ほう……。ならば、我らと目的は同じだな。新帝国は、偉大なる帝国の末裔。そして古代人の末裔よ。我らは、長きにわたる混沌の裁定者との戦いに決着をつけようとしている」


 おや、ここで聞いたことがあるフレーズが!


「えーと、じゃあもしかして北の凍った城は既に?」


「手が足りん。大盆を落としてからあれも攻略するつもりだ」


「なるほど」


 まだだった。


「傭兵団と言ったな、オクノ。そなたら、我が新帝国が雇おう。天空の大盆を落とす。手を貸せ」


 いきなりの仕事の依頼だった。

 俺をフタマタをちらっと見る。

 フタマタ、分かってますよって顔を俺に向けた。


 よし、これでイーサワに伝わるだろう。

 アイツが直接こっちにやって来るはずだ。


「よし、手を貸そう」


「即断……!!」


 ジェラルドが呟いた。

 そりゃそうだ。

 目的が一緒だからな、迷う理由がないのだ。


 

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