第61話 俺、水上戦を行う
イクサにばかり良い格好をさせているのも悔しいので、俺もちょっといいところを見せようと思ったのだった。
「よしオルカ、次は俺と勝負……」
「待て、こいつの後で連戦は辛い。中年は疲れやすいんだぞ」
「ぬっ、ぐうの音も出ない正論」
ならここはイクサか……?
満足げな顔をした賢さ3の剣士をじっと見ると、向こうもやる気になったようだ。
「やるか」
「やろう」
「やろう」
そういうことになった。
だが、好きなことをやろうとすると邪魔が多いもんである。
「か、海賊だーっ!! 海賊王国の連中だー!!」
港の方から大声が聞こえた。
「海賊って港の方まで押しかけてくるのか」
「俺らが海の上でばかり仕事をしている訳がないだろうが。陸にだって上がるし、そこで略奪をすることもあらあな」
俺が疑問を口にしたら、オルカが教えてくれた。
なるほどなるほど。
ちなみにオルカの話では、彼は別に義賊ということも無くて、単純に誰かに従うのが大嫌いなだけらしい。
それで海賊王国に逆らいまくっていたら、都市国家から英雄みたいに祭り上げられたと。
「やり辛いったらねえぜ。俺らが接舷すると、都市国家の連中はみんな諸手を挙げて歓迎しやがる。どうぞどうぞって食い物やらなにやらを差し出してきてな。そりゃあ、略奪の必要はなくなるが……なんかなあ。俺も海賊を廃業したかったんだが、それだと海賊王国に負けたようでな」
「キャプテンは負けず嫌いですから。我々はキャプテンの意地に引っ張られて海賊をしていたのですが、先日海賊王国に協力する七勇者なるものが出現し、船を沈められてしまいました」
グルムルが補足して来るけど、この副長、オルカに容赦ないな。
「ま、終わった話はいい。受けた借りは奴らに万倍にして返してやりゃあいいからな! それより、奴らは船の上から大型の弓で攻撃してくるぞ。まずは飛び道具がなけりゃ話にならねえ。お前の仲間で飛び道具を使える奴はいるのか?」
オルカの話を聞いて、カリナが得意げな顔をして追いついてきた。
「わたしですよ。ムフー」
鼻息も荒くドヤ顔を見せてくる。
オルカがあんぐりと口を開いた。
「ええー……。子供じゃんか……。お前、オクノなあ。子供を戦わせるのは良くねえぞ……」
「こいつ、海賊のくせにまっとうなこと言いやがる!」
そこを言われると弱いだろ!
だが、これに怒るのはカリナなのだ。
「わたしは子供ではありません! 遊牧民では十二歳といえばもう大人と一緒で……」
その嘘はもう通用しないぞ!
遊牧民にも子供扱いだったではないか。
「遊牧民の成人は十五歳だったよな……?」
「……はい……! ですがわたしの心はもう十五歳なので大丈夫です!! それに弓は大人より上手いです!」
「これは本当だぞ。ということで、若いがカリナはやるやつなので俺も推薦する」
「そうかあ……? まあ、実力で判断するのが海賊流だ。そこまででかい口を叩くなら、見せてもらおうじゃねえかお嬢ちゃん」
というわけで、俺を挟んでカリナとオルカが並ぶ。
親子ほども年が離れているな。
桟橋から、襲ってきた海賊船に差し向かう。
船の数は四隻。
商船が次々に襲われている。
「オクノ。さっきお前のステータスを見たが、陣形を使えるんだな? なら、俺には使いこなせなかったこいつをお前ならやれるかも知れん」
オルカが懐から、羊皮紙の切れ端を取り出した。
俺に投げてよこす。
なんだろう。受け取ってアイテム欄に登録してみた。
すると……。
ピコーン!
『陣形:マリーナスタンス3』
うおっ!
陣形が閃いた!
三人用、それもどうやらこれは、水上戦をするための陣形らしい。
「マリーナスタンス!」
俺が宣言すると、オルカ、カリナの体を青い光が包む。
そして、桟橋から続く水上に、光のステージみたいなものが出現した。
「降りられるっぽいな」
俺がつま先でつんつんとステージをつつくと、しっかりした足場である。
「この上で移動しながら戦えるっぽいぞ」
「はい!」
俺に続いて、カリナが光の上に降りた。
オルカが難しい顔をしている。
「ええ……? 海の上に立つの……? 俺の常識にはそういうの無いなー」
めんどくさいなこの海賊!
「海賊なのに常識に縛られるのか?」
「海賊みたいなアウトローほど、常識とか言い伝えをちゃんと活かしてやっていかねえとすぐ死ぬんだよ。生き残ってる海賊は基本的に慎重だぞ」
オルカがぐずぐず言っている。
おじさんは常識が凝り固まっているな!
「おい、あそこにいるのはオルカじゃねえか?」
「生きてやがったかオルカ!」
「だが七勇者に負けたお前は負け犬だ! 負け犬オルカ!」
「海の上なのに犬かよ! ぎゃはははは!」
どうやってオルカを動かしてやろうかと思っていたら、海賊船から罵声が飛んだ。
「オクノ、海賊は慎重さが大事だ。だがな、もっと大事なものがあってな。そりゃあ」
オルカが懐から銃を抜き、笑った男たちに向けて放つ。
銃声とともに、「ウグワーッ」と叫んで海賊が一人海に落ちた。
「てめえのプライドよ。もう許せねえ! やつらぶっ殺してやる!!」
オルカが光のステージの上に飛び乗ってきた。
そう来なくっちゃな!
「本気になるのが遅いのです! ですけど、強いってところをみせてもらいます!」
「お嬢ちゃんが一丁前な口を叩きやがる。だが、実力を見てから判断するのが海賊流だ。やってみろよ!」
「おお、いい感じっぽい」
俺はちょっと嬉しくなった。
そして、俺も銃を抜く。
「いきなり連携で一隻ぶっ倒すぞ!」
「はい!」
「連携?」
「オルカ、やれば分かる」
早速、銃技を使用だ。
「集中射撃!」
銃弾が連射される。
俺から光の線が伸び、カリナに届いた。
「アローレイン!」
カリナも上空に矢を連射する。
これが矢の雨になって降り注いできた。
そこから光の線が伸び、オルカを包み込む。
「なんだこりゃあ!? すげえ力が溢れてきやがる! おっしゃ! 集中射撃!!」
オルカ、初の銃技だ。
連射された銃弾が海賊船へと向かった。
『集中アロー射撃』
まるで矢を集中射撃しているような名前だ!
弾丸と矢の雨はその威力を倍加させ、海賊船へと突き刺さる……!
「ウグワーッ!?」
海賊たちの叫び声が聞こえた。
一瞬で船が粉砕され、マストは折れ、甲板が砕け散り、無数の木片が飛び散る。
マリーナスタンス、おそらく水上で戦うと連携の威力が上がるんだな、これ。
「なんだこの威力!? 凄えな……!!」
「これが連携だ……!」
「オクノさん、すっごいドヤ顔です。ですけど、見ましたかおじさん。わたしも強いんです」
「ああ、悪かったな、子供扱いして。お前は立派な海賊だぜ!」
「いや、海賊じゃないです」
そしてそんなことをしてたら、向こうで小舟が海賊船目掛けて突っ走っていく。
おお、イクサとフタマタとルリアが乗ってるな。
泣きそうな顔をした船乗りたちが必死に漕いでる。
ボートが海賊船に横付けすると、イクサが船を駆け上がって乗り込んでいった。
ルリアはフタマタに掴まって乗り込む。
そしてなんか連携を使ったな。
こっちにも「ウグワーッ」という声が聞こえ……。
アッ、海賊船が真っ二つになって燃え上がった!
二人と一匹が速攻で引き上げてきてボートに乗る。
「あの剣士が化け物なのは分かってたが……。犬とあっちの嬢ちゃんもやるようだな」
「おう。うちのメンバーはイーサワ以外全員強いぞ」
そこは断言できる。
さあ、それじゃあ残り二隻の掃討戦だ。
ここでいいところを見せとけば、海賊王国と戦うために船を手に入れる助けになるかも知れない。
少なくとも、そういう商売で強いイーサワが戦うための材料になるだろう。
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