第21話 俺、斧の技を閃く
「ここが開拓村かあ……」
周囲にあふれるモンスターの群れを排除し、俺たちは荒れ果てた村へと踏み込んだ。
「まだそんなに経ってないはずなのに……めちゃくちゃにされてる……」
アミラがふらふらと村の中に進んでいく。
危ない、超危ない。
「アミラストーップ!!」
俺は後ろから組み付いて、アミラをリフトアップした。
持ち上げたってことね。
おほー、プロレス技ばかり使ってたお蔭か、めちゃくちゃ力がついてる。軽々と持ち上げられるぞ!
「きゃーっ、オクノくん何するのーっ!?」
「一人で村の中入ったら危ないでしょー」
ということで、とりあえず彼女をお姫様抱っこの体勢に確保。
彼女はじたばた暴れるが、パワーがそもそも違うので問題ない。
「んもうー……。オクノくん、過保護過ぎよ。私、子供じゃないんだから。年上なのよ?」
「いいの、いいの。気にしないで。女子は常にお姫様みたいなもんでしょー。ふはーっ、いい匂いがして大変柔らかいです」
「お姫様!? うふふ、そう言われて悪い気はしないわねえ。きゃっ、指先をもぞもぞさせないでー! くすぐったーい!」
よしよし、アミラの機嫌が直ったぞ。
暴れるのもやめたみたいだ。
この間、周囲のモンスターはイクサとカリナが撃退している。
「えーと、終わった? 終わったよね? アミラずるくない? そこは私が予約している席なんですけどぉー」
ルリアが口をとがらせて抗議してきた。
前衛の君がどうして戦わずに嫉妬しているのかね……!!
「うーん、見た限り、村の中に残っているモンスターの数はそこまで多くないみたい。ここから溢れ出して、外に向かっていくみたいねえ」
ラムハはカリナの横に立ち、フロンティアを隅々まで見渡している。
そう、まともな建物は一つも残っていない。
柱やひしゃげた家屋ばかり。
「それって、モンスターの核は村の中には無いってこと?」
「無いわね。モンスターの核はね、モンスターの形をしているの。そして無限にモンスターを産み落とすのよ」
「随分詳しいな」
イクサが飛翔斬をぶっ放しながら寄ってきた。
「尋常な詳しさではないぞ」
「それは……」
ラムハが言い淀む。
あっ、あれでしょ。俺知ってる。
絶対あの禍々しいステータス関係で、知らないはずの記憶が蘇ってくるやつでしょ。
ゲームとかマンガでよくあるんだよな。
どれ、ラムハのステータスを見てみようじゃないか。
名前:ラムハ
レベル:18/■8■
職業:記憶を失った女/黒曜の女■
力 :16/■2■■6
身の守り:17/■■■9■
素早さ :38/■7■■■
賢さ :73/■■1■■
運の良さ: 3/1■■
HP141/6■■■6■
MP192/■■666■
闇の呪法9レベル
・スペルエンハンス・パワーエンハンス・アンチマジック
◯闇の炎◯闇の障壁◯闇の衝撃
◯闇の支配◯闇の呪縛
ほらぁー!!
なんかバグってる数値がところどころ見えるようになってきてるし!
お蔭で色々詳しくなってるんだなー。
ちなみにイクサにもステータスは見えているが、こいつはおバカなのでよく分からないらしい。
「ラムハ、それならモンスターの核がいるところも分かるだろ?」
「……ええ。地の底よ。アミラ、開拓村の地面が崩れたりしなかった?」
ラムハに聞かれて、アミラが少しの間考え込んだ。
「あ、そう言えば……。襲撃が起こった夜に、村長の家から『アリだー!!』っていう叫び声が聞こえて……そこから、モンスターが溢れ出してきたの」
「アリ……!?」
意外過ぎる単語を聞いて、俺はちょっと戸惑った。
なんでアリ? アリなんで?
「おいオクノ! 戸惑っている暇はない! 少ないとは言っても次々にモンスターが現れているのだぞ! 決断しろ!」
「お、おう! アミラ、村長の家ってどこだ? 案内してくれ!」
「あっちよ!」
うちのパーティのスピード感に、アミラもかなり慣れてきたらしい。
お姫様抱っこされたまま、村の奥を指差す。
「露払いします。アローレイン!!」
カリナが雑魚モンスターを矢の雨で一掃していく。
彼女の技も強くなってる。
レベルが上って、ちょっと硬そうなモンスターにも決定打が出るようになったんだなあ。
敵が射抜かれて隙ができたところで、みんなで一斉にダッシュだ。
開拓村は、村と言うだけあってそこまで広くない。
あっという間に村長の家が見えてきた。
「潰れてるなー」
「そりゃ、そうでしょう、よ!」
ルリアはぜいぜい言ってる。
もっと体力をつけねばならないのでは?
「入るわよ! とつげーき!!」
ラムハが吠える。
「うおーっ!! 押し通る!! ダッシュ円月斬!!」
疾走するイクサが、立ちはだかるモンスターを切り払う。
「アミラ、そろそろ俺も戦いたいので、とてもとても名残惜しいけど降りてもらっていい?」
「あら、ごめんあそばせ」
アミラはクスッと笑うと、ちょっと身を起こして俺の頬に口づけた。
「ファファファッ!?」
「頑張ってね、オクノくん」
「が、頑張るっ!」
村長の家の跡地からは、俺たちを迎撃するようにモンスターが飛び出してきた。
それはばかでかい、樹木のモンスターだ。
いきなり、ぬぼーっと生えてきた。
「六欲天くらいのでかさがあるぞ! ってか、敵が木ならこれだな!」
俺はずーっと死蔵していた斧を取り出した。
樹木モンスターは、俺目掛けて枝を振り下ろしてくる。
「ブロッキング!!」
こいつを受け止め、俺は力づくでそれを跳ね返す。
「なんのぉーっ!! 叩き切ってやる!」
『もがあーっ!!』
絶叫する樹木モンスター。
その叫び声が、物理的なパワーを持って俺たちに襲いかかってくる。
うるせえー!
「くうっ、そいつの叫び声、魔法攻撃になっているわ!! 前衛も後衛も意味がないみたい!」
ラムハの言葉で現状を把握した。
つまりこいつがいると、後ろの女子たちも危ないってことだな。
よーし、さっさとぶっ倒してやろうじゃないか。
「おらあっ!」
斧を振り上げて、俺はモンスターに襲いかかる。
その時だ。
ピコーン!
『大木断』
来ましたよ来ましたよー!!
大斧に不思議な力が宿ったのが分かる。
樹木モンスターは俺を妨害しようとして、枝を振り回してくるが……。
「飛翔斬!」
それを斬撃を飛ばして跳ね返すイクサ。
「感謝!! おらおらおらーっ!!」
俺の斧は樹木モンスターの幹に炸裂する。
すると、まるで何発も斧の攻撃を叩き込んだような衝撃が生まれた。
幹にめきめきと刃が食い込み、食い込み、食い込み……!
「斬っと!!」
『もがあーっ!?』
樹木モンスターは、半ばからぶった切られて宙を舞った。
「よおーし、道は開いた! 地下にゴーゴーゴー!」
モンスターの下半身をさらなる大木斬で叩き割りながら、地下への道を切り開く。
「はーい、みんな並んで! 怪我を治すから! 癒やしの水、癒やしの水ーっ!」
アミラが大急ぎで、ルリアとカリナ、ラムハの傷を治す。
イクサはいつも通り、自分でなんとかする奴だ。
無傷のまま俺の横を駆け抜けていく。
「露払いはやってやる! さっさと女たちを連れて地下に潜れ!」
まだまだ出てこようとするモンスターに向かって、イクサは突撃。
地下に落下しながらの円月斬でそいつらをぶった切っていく。
頼りになるなー。
「じゃあ、お言葉に甘えて……。みんな行くぞー!」
「おー!」
すっかり元気になった女子たちが、俺について来る。
さあ、フロンティアを襲ったモンスターの核と対決なのだ!
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