ぜひ、あいを一つ

酔喪ウドク

1人では

 少し高い飲食店には学生が来ないことはわかっていた。

 学校帰りに小腹が空いて、友人が「いいカフェがあるから」と連れて行ってくれた、隣町の聞いたことがあるカフェ。

 焼いたパンとコーヒーが美味しかった。

「学生には少し高いんだから、制服を着てる人はあまり見ないの。とても静かだし気に入ってるのよ。」

 そうして一緒に最後のデザートを分けて食べた。あの時はとても楽しかった。


 そういう経験があったものだから、地元だってそうであるだろうと思って、大通りから店内は見えなくて、でも聞いたことはある名前のコーヒーの美味しい店に入って、遅い昼食と一杯を頂いた。

 好きな本を読んで、あの時よりちっとも美味しくないパンを食べて、確かにうるさい声はない場所の、壁に沿った1人席。

 お洒落だ、机が小さい、と1人で楽しくしているけれど、やっぱりどこか咎められてる気がするのはどうしよう。

 制服を着ているわ。勉強しないのかしら。親御さんは。いつまでいるのか。まあ哀れなこと。

 誰も口にしてないことはわかるとも。目をやってないのもわかっておりますけれど。実は私にはやましいことがあって、いっせいにそれを攻撃されている気がする。

 イヤホンを耳につけて静かに本を読む。あの時とは違う、いま私はここで1人、苦いコーヒーを頂いている。


 心の中で言い訳ばかりをしている。

「ごめんなさい、バカみたいでしょう。わがままばかりで情けない。」

 1人で行き先も告げず、カフェの端で1人。

 時間はそろそろ19時になる頃だった。

「もう帰るので、」

 ご飯、用意してもらってるから、私は食べに帰ります。


 本当は用意なんてされてないのかもしれない。いつものようにパパが帰宅して、ママは用がわからない外出をしてしまったからってスーパーで適当にお弁当を買ってきてくれるのかしら。

 それとも、帰った家にはママもパパもいないのかも。

 帰っても、家に1人では、どうしようもない。

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