サクラが咲いた。

 ある日突然、何の前触れも予告もなくサクラが咲いた。街中がピンク色に彩られる姿はとても美しい。にも拘わらず人々はサクラを見上げて茫然とするしかなかった。


 公園のベンチに二人の女生徒が座っている。二人とも厚手のコートをまとい、手袋にマフラー、防寒対策を施している。今朝は今年一番の寒さとなった。吐く息が白い。


「ねえ、なんでサクラなの?冬なのに」


「不気味だよね。銀杏の木もモミジの木も、松の木だってサクラが咲いているんだよ」


「意味わかんない。そんなの有りなの」


「世界中の木にサクラが咲いたらしいよ」


「バナナとかパイナップルの木とかも」


「そうらしいわ。サクラのおかげで果物は全滅だってさ」


「ええー、ショック。私、フルーツ大好きだったのに」


 ピロ、リロ、リン。


 そう答えた少女のスマートフォンが鳴る。彼女は急いで画面を覗き込む。


「ねえ、野菜もダメみたいだよ。温室のレタスもトマトもサクラの花が咲いたってさ」


「野菜って木じゃないよね。何でそうなるのよ」


 もう一人の女生徒が彼女のスマートフォンを覗き込む。


「キノコにもサクラが咲いてんじゃん・・・。これからどうなるんだろ」


「大丈夫、サクランボがあるじゃん」


「あんたバカなの。サクラの木にはサクランボ、ならないから」


「うっそ、そうなの。じゃあ、食べるものないじゃない。うわっ、海外では稲も麦もサクラが咲いたってさ」


「サクラを眺めながら人類滅亡だなんて・・・」


「地球温暖化ってやつかな」


「そんなわけないでしょ。異常すぎるわ」


「んじゃ、異常気象」


「もう、そんなレベルじゃないって。全部サクラだよ」


「それじゃ、オカルトとか魔術・・・。花咲かじいさんとか」


「何、のん気なこと言ってんのよ」


「でもほらアレ」


「うっそ・・・」


公園横の小川に巨大な桃の実がドンブラコと流れていく。


カチ、カチ


「ちょっと、あんた。背中、燃えているじゃん」






おしまい。

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