踊る信長24(2)

 一方の服部半蔵は、作戦内容を聞いた部下たちからブーイングを浴びた。


「二つの軍を相手に陽動をかけるなんて、無謀ですよ! せめて一つに絞りませんか?」


 鉄砲を抱えながら走る音羽陽花は、何とか負担を減らそうと意見する。

 他の忍者達も、以下同文。

 伊賀忍者は意識の高いプロフェッショナル集団なので、労働環境にはとっても敏感なのである。

 雇用主が扱いを間違えた場合、重要情報を持ち逃げして相手に寝返る事も厭わない。

 服部半蔵の仕事は、まず彼らを納得させる事から始まる。


「砦まで接近する必要はない。二つの砦から見える中間地点の村を焼いて、注意を引く」


 戦が起きれば村が焼かれるのは、この時代の常識なので、危険エリアの村人は既に逃げているか逃げ支度を終えている。この作業での手間は、忍者なら全く掛からない。


「砦から織田の兵が出たのを確認したら、我々は今川の本隊がいる方向へ逃げる。そうすれば、相手は深追いをしない」


 危険度は低めだと分からせた頃合で、淵沢夏美が一番物騒な場合を持ち出す。


「深追いをしてくるような、迂闊な武将が相手だったら、どうします?」


 嫌がらせでも疑り深いのでもなく、すぐに最悪のケースを考え付いてしまう性分なのだ。忍者にとっては、重宝される。


「大丈夫。小細工は用意してある」



 服部隊が無人を確認した上で村の家屋を派手に燃やすと、織田軍は機敏に反応した。

 実のところ、二つの砦の武将達は、攻守の役割分担を決めていたので、一方しか兵を出して来なかったが。


「丸根砦から、佐久間盛重の軍が。鷲津砦は、全く動いていません」


 下半身褌一丁で物見に行っていた更紗が、駆け戻って報告する。


「陽動対策は、想定済みか。此方も、その出方は想定済みだ」


 ハッタリではなく、服部半蔵は勝ち誇る。


「総員、最後の服装点検!」


 服部隊の面々は全員、足軽スタイルに朝比奈家の家紋『左三つ巴』の旗を背中に差している。


「敵に背中を見せながら逃げる。合図があるまで、全力では走るなよ」


 皆が、態度でもう一声求める。

 視線が更紗に集まったので、言わんとする事は分かる。


「下を履け、更紗」

「いやだ」


 今回の戦闘でも、更紗は褌(今日は赤と白の縞模様)シマパン一丁だった。


「下半身褌一丁では、服部隊だとバレる」


 そんな破廉恥な格好で戦闘に加わるアホな女忍者は、少なくとも東海道では服部隊にしかいない。


「陽動だと見抜かれたら、三河衆が危険に晒される」

「この下柘植更紗の戦闘様式美を変える程の問題ではない」


 更紗は、無表情かつ無駄に言い張る。

 月乃が押し倒して喉元に手裏剣を突き付けるが、更紗は歯で手裏剣を奪おうと足掻く。

 月乃は、殺せないのであれば、せめて目立つ縞褌シマパンを斬り裂こうとするが、シマパンからシマシマの布が飛び出て手裏剣に巻き付き、そこから月乃の腕にも巻き付く。


「更紗。解きなさい」

「このまま縞褌シマパンで全身を侵食する。月乃は新しい縞褌シマパン人間として、再生するのだ。語尾はシマになるシマ」


 更紗の虚言に、月乃はマジ頭突きで応える。

 更紗は仰け反りながら、シマシマ布の攻撃を月乃の股間に集中させる。

 イカの触手のような動きで、シマシマ布が月乃の褌を引っ張る。

 

 半蔵の耳に、織田兵の足音が聞こえて来る。


「仕様がない」


 服部半蔵は、非常の決断を下す。

 更紗の腰を掴むと、縞褌シマパンを一気に引き剥がす。

 無理に引っ張ったので、月乃の褌まで引き抜いてしまった。

 縞褌シマパンと月乃の桜色褌が絡まったモノで、半蔵は更紗を簀巻きにする。

 更紗は、観念した。


「ついに、仕事中でも束縛プレイでハメたくなる程に、更紗中毒に成り果てたか…致し方ない。更紗がセフレとして優秀過ぎる故だ。カモン、二度目の野外プレイ」

「この馬鹿は俺が担いで行くから、任務続行!」

「ハメながら移動すれば、何の問題もないぞ」


 簀巻き状態で半蔵の肩に担がれても煩い更紗の口に、月乃は竹水筒を噛ませて黙らせた。

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