第84話 竜人
まあ、迷子といっても帰れないわけではない。
何種類かの帰還方法は思いつく。
飛行して帰るのは難しいって感じってだけだ。
でもまだ時間もあるようだし練習しながら帰りたい。
時間は『ハコニワ』に作って貰った時計で分かる。
シーナとネネにも同じものを持たせているので集合時間はお互い大丈夫なはずだ。
飛んでいると山々に囲まれた集落が見えた。
(こんなところに人が住んでいるのか?)
山深い奥地に人目を避けるようにある。
とりあえず俺は近くに降りた。
ふわっと綺麗に着地。
飛行スキルにも大分なれてきた。
ほぼ思った通りの操作ができている。
降り立った先には家が数軒あり誰かが住んでいるみたいだ。
『探知』によると5人ほどの気配がある。
ゆっくりと近づいていくと開けた場所に出た。
「あー、人間だ!」
「人間だー!」
二人の子供に指を指される。
子供たちは急いで家の中に駆けていく。
しばらくすると男がドアを開けて子供たちと出てくる。
「おおー、本当だな。人間の少年、こんな所に何しに来たんだ?」
二人の子供たちは男の陰に隠れこちらを伺っている。
この男の子供なのかもしれない。
驚くべきことに彼らは人間ではない。
獣人って奴だ。
背中には翼があり尻尾も見える。
ベースは人間だけど明らかに人ではない。
「ああ、すまない。実は迷子でな」
「迷子?」
「この人間空を飛んでたよー」
「そうそう、飛んでたー」
ん? 『隠蔽』で姿を隠していたはずなんだけど、見えたのか?
「ほう、たしか人間は飛べないはずだが?」
「ああ、スキルで飛んできたんだ」
「器用な人間もいたもんだな」
男は感心したようにいう。
異形だけど仕草は人間と変わらない感じだ。
「茶でも出そう。こちらに来るがいい」
俺を家に誘う。
「そんなに簡単に信じていいのか? 強盗かもしれないぞ」
「悪い奴には見えないからな」
何を見て判断したのか分からないけど信じたみたいだ。
「強盗なのー」
「強盗、強盗ー」
子供たちは強盗扱いだ。
「じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔するよ」
「ああ、久々の客人だ。俺は竜人のライド。君の名前はなんというんだ?」
「俺はレンヤという。人間だ」
やっぱり竜人だったんだな。
そうじゃないかと思っていた。
しかし異種人種間の挨拶って変だな。
「でこいつらが俺の娘のナリーとマリーだ。二人共挨拶を!」
「……ナリーだよ」
「……マリーだよ」
「レンヤだ、よろしく」
「「……よろしく」」
二人は俺に興味津々みたいだけど、少し警戒もしているようだ。
「リザ、客人だ。お茶でも入れてやってくれ」
ライドは奥に声をかける。
「はーい。珍しいわね。……って、人間!」
奥から出てきたその人は俺を見て驚くも挨拶をしてくれる。
ライドの奥さんのようだ。
「私の名前はリザ、よろしく。ゆっくりしてってね」
「ありがとう。俺はレンヤという、よろしく」
お茶を飲みながらライドにこれまでの経緯を話す。
飛行スキルを使って迷子になり、偶然この家を発見したことを。
「トレイル王国か、ずいぶん遠くから来たんだな」
「ここからどれぐらいの距離があるんだ?」
「そうだな、街道に出て馬車で行けば3日ぐらいってところか」
たしかに距離はありそうだ。
それをあっという間に来ることができるのだから飛行スキルは優秀だ。
「ライド達はここに住んで長いのか?」
「いや、まだ7年だな。子供を環境のいいところで育てようと思ってここに来た」
「そうか。二人は双子だよな」
「ああそうだ。可愛い娘たちだ」
顔も行動もそっくりだからそうだとはおもった。
「そういえばさっき俺の姿が見えないはずなのに見えていたみたいなんだが……」
「ああ、それなら二人は『竜眼』をもっているからな。まやかしの類は効かないはずだ」
そういうことか。
『鑑定』で見てみると特別スキルに『竜眼』があった。
『竜眼』真実を見ることができる。
なんか凄そうだな。
俺の『隠蔽』を上回るのだから凄い能力だ。
こんなスキルがあるなんて世界は広いな。
『分析』しておこう。
「ナリーとマリーは凄いんだな」
二人はお互いに顔を見合わせてから俺に言う。
「そうだよ、ナリーは凄いんだよ」
「そうだよ、マリーは凄いんだよ」
にっこりと嬉しそうな顔を二人はする。
「レンヤも人間なのに凄い。空を飛んでた!」
「飛んでた、飛んでた!」
「ああ、まだ練習中だけどな」
「「凄い凄い!」」
少し打ち解けたようだ。
「レンヤ、外で二人と遊んでやってくれないか? 遊びたい時期でな」
「ん、まあ少しぐらいなら」
「レンヤなら遊び相手に調度いいと思うからな」
「?」
そんなことをライドはいう。
「「遊ぼう遊ぼう! レンヤ!」」
ぐいぐいと俺の手を引っ張る二人。
「なにをするんだ?」
「「パンチ!」」
「パンチ?」
とりあえずやってみることになった。
「ナリーからいくよー」
ナリーは大きく振りかぶり飛び上がるように俺に向かって拳を突き出す。
「えい!」
可愛らしい掛け声と共に繰り出される拳を反射的に俺は躱す。
「ガガガガガガ」
「!?」
繰り出された拳の衝撃は俺の後ろの地面をえぐり、木々をなぎ倒おす。
竜人の子供は普通ではなかった。
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