第67話 定番

「ギルドに登録しないでこれで依頼を受けたい」


 俺は金貨三枚を机の上におく。


「ほ、本当に登録しなくてよろしいですか?」

「ああ、問題ない」

「そうですか……分かりました!」


 受付女性は金貨を受け取るという。


「預り金が金貨三枚ですと、魔獣の討伐依頼となります」

「ああ、構わない」

「でしたら……このコカトリス討伐でいかがでしょうか?」


 魔獣の絵が描かれた依頼書を見せてくれる。

 大きな、にわとりのような魔獣だ。

 人間の絵も描いてあるのでサイズが分かる。


「期間は一週間となります」

「なるほど。倒せばいいのか?」

「はい。それで問題ありません」

「分かったこれを受けよう」

「承知しました。最後に確認いたしますが、ギルド登録は本当にしないでよろしいですか?」


 最後通告か受付女性は聞いてくる。

 まあマニュアルなのだろう。


「ああ、大丈夫だ」

「分かりました。こちらが仮のギルドカードとなります。ご武運をお祈りいたします」

「ありがとう」


 ギルドカードと依頼の内容が書かれた紙が渡された。

 この世界に来て初の依頼だな。

 もちろん、アヤメの依頼も忘れてはいない。

 一段落したら受けようとおもう。


「コカトリスですか。ワイバーンよりは小さいみたいですわね」

「ああ、そうだな」


 ギルド会員と非会員の依頼は違うのだろう。

 非会員にはギルドにとって後腐れない依頼しか渡さないはず。

 依頼者もそんなに期待していないのかもしれない。


「ここからそんなに遠くないみたいだ。今から行ってみるか」

「そうですわね」

「はい。行きましょう」


 魔獣を倒しにいくわけだが二人の態度は冷静だ。

 薬草を取りに行くだけ、みたいな余裕を感じる。

 それだけ修行した自分達の強さを信じているのだろう。


「おいおい兄さん達。未登録者なんだってな!」


 近くで聞いていたのか男が話しかけてきた。

 男は強面で威圧感がある。

 武器も装備しているので冒険者なのだろう。


 受付女性が目配せしていたので男は関係者だとおもう。

 未登録者への洗礼ってところか。

 

「ああ、そうだけど」


 一応答えておく。


「美人なお姉さん達もそんな男はやめて俺のパーティーに入らないか」


 おお! 異世界でのギルド絡まれ率は、かなり高いと聞いていたけど実際にあるんだな。


「弱い男には興味ありませんわ」

「そうですね。隙が多すぎますね」


 たしかにそうなのだけど、女性陣は辛辣だ。

 男の顔がヒクっとなる。


「ということなんで、どいてもらえるか?」


 俺は言った。


「ああん! なめてんのか兄ちゃん!」


 男は腰の剣に手をかける。

 俺は受付女性の顔を見たけど知らん顔だ。

 周りの人間も止めないところをみると、やはり未登録者への力量試しなのだろう。


「まあ、そうだな」


 俺がそう答えると近くにいた男二人も立ち上がり男に加勢する。


「ずいぶんと調子に乗っているな兄ちゃん!」

「やっちまうか!」


 演技なのか本気なのか分からないので悩むところだ。

 男達はいきり立っている。

 まあ未登録者でも冒険者と同じぐらい強いところを見せろってことなのだろう。

 だから俺は唱えた―――


「―――『ハコニワ』!!」


 現れた光輝くキューブ。

 俺の前に現れたそれは小人さん達の世界。

 いつもせっせと働いている。

 俺にとって優しい存在。


 ―――でも周りにとっては違う。

 圧倒的力の存在。

 

「ひ、ひいいい!」

「なっ!」

「うわあああっ!」


 すさまじい圧力に押されその場に立っていられるものはいない。

 絡んできた男達は皆、尻餅をつき怯えている。

 周りにいる人間もそうだ。

 誰も動けない。

 無理もないだろう。


 魔導具やスキルが産み出せる『ハコニワ』が矮小な存在であろうはずがない。

 そんな存在を前に怯えない者はいないだろう。


 おっと、シーナとネネは頑張っているけど今にも倒れそうだ。

 俺は『ハコニワ』をしまい二人を支える。


「大丈夫か、二人とも」

「は、はい……レ、レンヤさん今まで本気なんて出していなかったのですわね……」


 ん? まあスキルメインの戦いだったしな。

 本気といえば本気ではなかったのだろう。


「し、信じられません。こ、こんな存在があるなんて……」


 シーナもネネも大したものだ。

 そんな中でもなんとか立っていた。

 俺は落ち着かせるように、二人の背中を撫でてやる。

 二人は嬉しそうに目を閉じた。


 すこし間をおいていう。


「じゃあ行こうか」

「「は、はい」」


 二人も落ち着いてきたようだ。


「俺たちは依頼に行ってくる。それで問題ないな?」


 尻餅をついている男に手を貸しながらいう。


「あ、ああ問題ない……」


 その男が答えた。

 どうやら合格のようだな。


「とんでもないな兄さん。何者だ?」


 何者か。考えたこともなかったけどな。

 女神によってこの世界に飛ばされた存在。

 無慈悲に飛ばされたけど、今はこの世界を楽しんでいる。

 ……だから答えた。


「ただの旅人さ」


 俺達はドアを開け颯爽と出ていく。

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