第44話 機微

 とりあえず『探知』で引っかかる海賊は船にいないので安心だろう。

 全員倒せたようだ。


「一応こいつは捕まえておいたけど、役人に突き出すか?」


 海賊の親分を『束縛』で捕まえておいた。

 襲われた証拠にもなるだろう。


「せやね。殺してしまいたいけど、渡して裁きを受けてもらわんとね」


 まあ海賊は縛り首って言ってたしどちらにせよ、命はないだろう。

 気を取り直して俺はいう。


「荷物はこの船に乗っているんだろ」

「そうやね。根こそぎ持っていこうとしてたんよ。だから全部乗ってるはずやね」


 周囲を見回すと何個かロープでしばられた荷物が見える。

 これが奪われた荷物なのだろう。


 男性陣を殺して荷物を奪い女性を拉致する。

 まったく、あくどい事をする連中だ。

 まあ欲張った結果すべてを失ってしまったんだけどな。


「うちは商人やからね。荷物が助かっただけでもありがたいんよ」


 仲間を亡くしているけど、気丈にも明るく振舞おうとしているのだろう。

 

「マルティーロさんは商人なんだな。ここにいたのは荷物の買い付けだったのか?」

「ふふ、アヤメでええんよ。そうやね、他国に買い付けにいった帰りに海賊におうてもうて」


 シーナやネネと同じでこの世界の人は下の名前で呼ばれたいみたいだ。


「そうか、大変だったな」

「レンヤはんは船で来たんやろ? あっちでどんぱちやっとたね」

「ああ、船には仲間もいるからな」


 《魔導船》は探知の範囲内なら操作可能なので、今は少し離れたところで待機している。

 戦いの最中でも『並列』で操作をすることも可能だ。


「そうなんやね。レンヤはん空から降ってきたもんな」

「船からこっちに飛び乗ろうとしたら飛び過ぎてな。上から落ちてきたみたいになった」

「ふふ、凄いんやね。魔法も使えるみたいだし一体何者なん?」


 左手で耳にかかる髪をかき上げながら、そんなことを聞いてくる。

 なんだか仕草がいちいち、色っぽいのだが。


「何者と言われてもな。通りすがりの冒険者?」

「うそやん! なんで疑問形なんよ」

「漂流中の船乗り?」

「わかったわ。これ以上詮索せえへん。レンヤはんは命の恩人やしね」


 アヤメは両手を上げて降参みたいなポーズをする。


「でも、異国の人やろ? 何か珍しい物があったら高値で買い取るんよ? もちろん今回のお礼はさせてもらうつもりやし」


 商人魂に火が付いたのかそんなことを聞いてくる。

 たぶん俺の着ている物が珍しかったのかもしれない。

 商談を持ちかけてきた。


 通貨とかここら辺の情報が得られるのはありがたい。

 シーナとネネの国の情報も分かるかもしれないしな。

 商人と知り合えたのはよかった。


「そうだな。ぜひお願いしたい」


 『ハコニワ』に頼んで今まで獲れたもので、使用していないドロップアイテムをインベントリに移しておいてもらおう。

 こちらで売れる物があればいいけど。


「まあその前に王都に戻りたいんよ。王都にはうちの店があるん。そこでお礼させて欲しいね」


 買い付けた荷物もあるし、海賊に襲われた報告も必要だろう。

 俺も王都に興味あるしな。


「じゃあ俺達の船に乗っていくか? これぐらいの荷物なら乗ると思うぞ」

「ほんまに! ええんか? そうしてもらえるとありがたいね。お礼は弾むわ」

「ああ、いいぞ」


 アヤメは両手を合わせ礼をいう。


 甲板に荷物は置けるし二人ぐらい増えても問題ないだろう。

 あっ、捕らえた海賊の親分もいたか。


「たぶん大丈夫だと思うけど仲間に確認してくる。しばらく待っていてくれ」

「了解や、よろしゅう」


 俺は少し離れたところにいる船を遠隔で操作する。

 近くまできたところで飛び乗る。

 今度は飛びすぎないように注意した。

 

「レンヤさんおかえりなさい。急に飛び出して行くからびっくりしましたわ」   

「ただいま。船は問題なかっただろう?」

「はい。距離を保って勝手に止まりましたわ。レンヤさんが操作してたのですわね」


 遠隔で操縦できるのは便利だ。

 一応俺が探知可能な範囲でしか動かせないけど十分便利だろう。


「海賊の討伐も上手くいかれたようですわね」

「ああ。全員問題なく倒せたよ」

「さすがですねレンヤさん」


「それで人質になっていた人達を王都に送り届けることになってな」

「王都ですか」

「ああ、荷物と商人の二人をこの船に乗せようと思う」

「ええ、レンヤさんの船ですし、それは問題ありませんわ」

「荷物を運ぶのをお手伝いしましょうか?」


 ネネは気を使ってか、俺に聞いてくれる。


「いやインベントリもあるし俺一人で大丈夫だ」


 インベントリに入れてしまえば積み込むのも降ろすのも簡単だろう。

 こんな時は非常に便利な能力だ。

 サッと行って片付けてこよう。


「ここがどこか教えてもらえれば、シーナとネネの故郷にも帰れるな」


 二人も一度は故郷に帰りたいと言っていたしな。

 情報が得られれば戻れるだろう。


「そうですわね。ところで人質の人達は女性の方なのでしょうか?」


 シーナがそんなことを聞いてきた。


「ああ、二人とも女の人だぞ」


 アヤメの後ろに控えていた人も女の人だ。

 付き人とか侍女と言われる人なのだろう。


「……そうなのですわね」

「そうですか……」


 その時シーナとネネの目が怪しく光ったように見えたのは気のせいだろう。

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