第100話 ファーストコンタクト

 俺達が初めてこの大陸で訪れた集落は、粗末な柵で周囲を囲まれてはいたものの、弥生時代かよ!? と言いたくなる程の酷く粗末な小屋が10軒程あり、しかもその内の2件はほぼ倒壊していた。


「あれ? 何か思っておったのと、ちと違うようじゃのぉ。何か様子が変じゃが?」

 と清兄ぃも俺も首を傾げていると、


 酷く痩せこけた杖を突いた片足の男の子……12歳ぐらいだろうか? が小屋からフラフラしながら出て来た。

 よく見ると、頭に耳が生えていて、しかし片方は千切れていた。

 見るからに、数日満足に食べてないのが見て判る状態だった。


「じゃあ、母ちゃん、俺、何か食べられそうな物を探してくるから、頼むから、元気になってくれよ?

 サチ、母ちゃんの事、頼んだぞ!」

 と小屋に向かって声を掛け、またヨタヨタと歩き始めて居る。


「何やら、かなり困窮しているみたいだな。

 ちょっと話をしてみよう。」



「こんにちは。旅の者なんだけど、ちょっと良いかな?」

 と声を掛けると、少年がビクッとして、


「何だよ! また俺らから奪おうってのか? もう何も食い物なんかねーよ!」

 と少年が射る様な目つきでこっちを睨んで来た。



 ふむ。まあ、言葉は通じるか。


「清兄ぃ、この子の言葉は理解出来てるか? 俺は言語理解ってスキルあるから、理解出来て居るが。」

 と聞くと、何故か大丈夫との事だった。


 つまり、日本語を喋っている様に聞こえると。


 ふむ……。



「あ、いや、本当に旅の者だって。安心して。何も奪う気はないから。

 と言うか、ちょっとここら辺の事に疎いから、色々教えてくれないかと思ってさ。

 あ、いや、タダでとは言わないよ? ちゃんと報酬として、食料とか、ポーションとかも出すから、仕事として受け止めてくれると助かるんだけど。」

 と俺が、敢えて恵んでやるのではなく、正当な仕事の報酬として提示すると、驚いていた。


「え? それ本当か?」と。


 俺はすかさず、肉串を2本出して、見せると、少年の目がギンギンに輝き、肉串にロックオンしていた。

 肉串が右に揺れると、視線が肉串を追う。


「嘘じゃ無いぞ。ちゃんと沢山食料もあるし。」

 と俺が答える。


 すると、その時、

「兄ちゃん、誰か来てるの?」

 と小さい4歳ぐらいの女の子が、小屋の壁を手で伝いながら、出て来た。


 何と、女の子の目には薄汚れた布が巻いてあり、目が見えない様な状況だった。


「サチ、危ないから、出てきちゃ駄目だ!」

 と途端に血相を変えて、女の子の方へと戻ろうとして、バランスを崩し、少年が転んだ。


 少年の声を聞いた他の小屋からも、片腕で腹に血を滲ませた布を巻いた老人が、槍を杖代わりにして、這えずる様に出て来た。


「どうしたんじゃ? また奴らか?」と言いながら……。


「こんにちは、旅の者なんですが、この村はどうしたんですか? 何か皆さん怪我してらっしゃるみたいですが?

 幸い、回復魔法も使えますし、ポーションや食料もありますので、色々とここのを教えて頂ければ、その報酬として、お渡しする事が出来ます。

 如何でしょうか?」

 とその老人に向き、俺が話しかけてみた。


「あ、申し遅れました。私、佐々木徳士と申します。 アツシと読んで頂ければと。」

 と頭を下げた。


「ワシは、この集落の纏め役をやっておる、サンガと言う。

 ワシらが、あんたの欲しい事を知っとるかは判らんのじゃが、本当に食べ物やポーションを別けてくれるんかいのぉ?

 ワシらは、見ての通り、何も持っとらん。全部奪われてしもうた。もう既に何日もまともな物を食っておらん。」

 と纏め役の老人が聞いて来た。


「ええ、私らは全くこの国というか、こちらに関しての情報を知らないので、国の事や知ってる範囲で結構なんで、教えて頂ければ助かります。

 まあ、それはともかく、先に皆さんの治療と、食事を急ぎましょう。

 話は、その後で十分ですから。」

 と言うと、


「判った。どうせワシらには、もう頼る所も縋る所もないんじゃ。

 あんたらを信じよう。宜しく頼む。」

 と頭を下げられた。



 聞くところによると、この集落は、この大陸があった世界の裏側にあった大陸のバカがとある魔動兵器の実験で、環境が激変して、作物が減り、食物を求め野盗化した奴らから、現在の場所に逃れて来たが、それも先日襲撃に逢って、9名が亡くなったたしい。

 残った者は、子供や怪我人、病人と老人だけなのだと。

 僅かに耕して畑にした所は、踏み荒らされ、食べる物も奪われ、残された13名は死を待つのみの状態だったらしい。


 ふむ……なかなか悲惨な状態だな。


 そして、俺と清兄ぃは手分けして、怪我人や病人を一箇所に集め、ポーションや回復魔法を掛けていった。

 と言うか、部位欠損者や病人しかおらず、上級ポーションで治せる範囲が殆ど居なかった。

 なので、12名に俺がエクストラ・ヒールを掛けて廻り、久々に魔力をゴッソリ持っていかれた。

 治療が終わり、魔力ポーションを飲んで一息着いて、今度は、直ぐに食べられる食事をドンドンだして、全員に良く噛んで食べる様に言ったのだが、流石はケモ耳の村の住民。

 そんな忠告に従う者はおらず、ガツガツと涙を流しながら食べていた。



 備蓄用の食料も別けてやり、落ち着いた所で、やっと情報収集を開始したのだった。



 ◇◇◇◇



 この大陸(ユグドラシル大陸と言うらしい)には、大神様達の情報通り、人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、魔人族の5種族が住んでいるらしい。

 獣人族は、特に国と言う単位では纏まっておらず、中央にあるエルフの森以外にある程度の単位で住んでいるらしい。


 人族は、ドライスラー王国とジャンセン王国と言う2つの国があり、大半はその何れかに属するらしい。

 エルフは大陸中央にあるエルフの森に、エルフハイランド王国と言う国を作り、エルフの森全体が領土と言うか聖域らしく、多種属は滅多に国内に入れないとの事だった。

 ドワーフは、エルフの森の南東にあるマグネリア山脈に、マグネリア王国と言う国に住んでおり、やはりテンプレ通りに、鍛冶や加工業をメインに行っているとの事。

 そして、バンパイアは、ゲッテンドルン魔帝国と言う国があり、そこで豊富な魔力や知識を活かした魔道具の生産等で栄えているそうな。


 ちなみに、聞いた所、魔人族といっても、魔王とその配下とか的な感じではなく、魔人族とはバンパイア、サキュバス、と言っても、普通の人族とあまり生活は変わらず、主食は普通の食事で、戦時や特に魔力を必要とするケースでは吸血というか、血を飲むらしい。

 ニンニクも十字架も聖水も効かないんだって。


 以上を纏めると、種族的な特徴はほぼカサンドラスと同じで、細かい法律なんかは国毎に違いはあるけど、概ね日本人の常識の範疇だと。

 もっともブラックボックス的なのはやはりエルフのエルフハイランド王国で、国交のある一部の国や商人以外は国内に入った事すら無いらしい。


 あ、あとこの大陸は基本的に種族による差別は無く、戦争もほぼ無いらしい。今までは……。

 ただ、今回の天変地異による環境の変化等で、食物が不足していて、それに伴い、治安も悪化し、その結果国と国との関係がギクシャクしていると言う事だとか。


 ふむ……。

 腹が減ると、イライラするからなぁ。


 ちなみに、この集落を荒らしていった野盗だが、人族と獣人の混成部隊だったそうで、特に人族が悪いと言う訳ではないとの事だった。


 まあ、そうか。じゃなかったら、初対面の時、もっと警戒されているよな。




「なるほど。お陰様で良く判りました。

 俺達の事なんですが、実は昨夜から今朝にかけて、こちらに大陸が転移して来たので、やって来たこの世界の日本と言う国の冒険者なんです。

 まあ、事前に神様よりこの大陸が転移して来る事は聞いておりましたので、第一陣として、我々が国からの指名依頼を受けてやってきた感じです。」

 と告げると、自分らの大陸が異世界に転移していた事すら気付いてなかったそうで、大層驚いていた。


 そして、侵略しにやって来るんじゃないかと、ビビり始めたので、

「ああ、そこはご安心下さい。そんな侵略とかは全く考えてないですよ。

 ご近所さん同士なので、仲良くしましょうよ!って感じです。」

 と言うと、ホッとした表情に変わっていた。



 まあ、兎も角、その各国へと赴き、文化レベルを含め直に見てみるべきだろうな……。

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