第83話 ダンジョンボス戦
「さあ、おそらくこのボス部屋が最後だよな。
悔いの無い様に、張り切って行こう。」
と俺は、両手で頬を叩き、気合いを入れた。
今朝は朝から、入念にさっちゃんとお腹の子を愛でて、愛情成分を身体と心に満たしてやって来た。
さっちゃんと兄上には、今夜は徹夜になるかも知れないと言ってある。
ボス部屋の扉を開け、中に入ると、神殿風の広い部屋だった。
ボス部屋の扉が閉まると、部屋の真ん中に魔方陣が光り、魔方陣の中心から頭が見えて来た。
そして、舞台がせり上がって来る様に全身を洗わしたボスを見て思わず呟く。
「わぁ……またまたこれは厄介なのが。」
背中には蝙蝠の様な黒い羽を持ち、整った西洋人の様な顔つき。
頭は黒髪でオールバック、頭部に小さい角を2つ生やしている。
服は黒のタキシードを着ており、鏃の様な黒い尻尾が生えている。
「悪魔か。」
「どうも、最下層へようこそ。私がこのダンジョンのボスをやっております、アスモデウスと申します。
以後お見知り置きを…… ふふふ、いや貴方はここでお亡くなりになるから、無理ですね。」
と慇懃無礼に微笑む。
「しかし、驚きました。
まさか、こんなに早くこの部屋に到達する者が居るとは。しかもソロで。
いやぁ~、長生きはするものですね。
「いや、俺も驚いたよ。まさか言葉を解する者が、ボスとして出て来るとはね。
しかも、あんた……アスモデウスだっけ? マジで強いな。ビリビリと感じるよ。
おそらく、俺が過去に対峙した者よりも強いな。」
と俺は臆する事無く、話掛けた。
そう、こいつには、鑑定が効かなかった。
カサンドラスで魔王と対峙した時よりも、強烈なプレッシャーを感じている。
果たして今の俺で勝てるのか? と言うと正直な所、かなりヤバいと感じている。
これが、魔物であれば、まだ色々遣りようがあるのだが、知能を持っている強者となると、話は別だ。
魔物の様に本能だけで戦う物とは、根本から違う。
「ほうほう! これは驚きました。 なるほど! 貴方は元勇者なのですね?
今流行の、異世界召喚帰りと言う所でしょうか? それとも転生ですか? 珍しいですねぇ。」
と俺をジッと見つめていたアスモデウスが、顔を綻ばせながら、言い当てて来た。
「なるほど、そっちはこっちのステータスが見える訳か。」
と俺が苦い顔をすると、
「まあ、なかなか阻害されて、全てが見られる訳ではないですがね。多少は見れましたよ。」
と面白そうに笑う。
「私も久々に人間と話しをしたものだから、ついつい長話をしてしまいました。
さあ、そろそろ始めますか? 最初の一撃は、ここまで来た最初の人間と言う事で、敬意を表して受けてあげますよ。」
とニヤリと笑いやがった。
よし、じゃあ、お言葉に甘え、出し惜しみ無しのデカいのを100発程お見舞いしておくか。
息つく暇も無い程にな。
既にこの部屋に入る時から全開にしている身体強化、身体加速、並列処理、思考加速をもう1段無理矢理上げて、刀にも付与を重ね掛けし、自分へのシールドを掛けつつ、面白そうなので、『スタン・グレネード』を10発発動し、着弾と同時にゲートを発動し、奴の真後ろにから制の構えからの斬撃を一太刀入れた。
ドカッピーーーーーーーーーーー!!
と通常であれば、失明必死の目映い光と、脳さえ揺らす超高周波の音波がボス部屋を充満し、背中から胴体を切断しつつ、超高温の青白いファイヤーランスを20発その上下に分かれた胴体にぶち込んだ。
ドッッカーーーーーンと言う炸裂音が高周波の音に混じり、更に袈裟斬りに刀を振り抜いた。
うん、手応えはあった。
更に、空間魔法で直径2m程の亜空間に閉じ込め、闇魔法のドレインで魔力を吸い上げた。
急激に大量の魔力がドンドンと入って来て、アイテムボックスにある空の魔石へとチャージを繰り返す。
その間も、アブソリュートゼロで絶対零度に温度を下げたり、ファイヤーレーザーでズタズタに焼き切ったりと魔法攻撃の手を緩めない。
「ウギャーー!」
とアスモデウスの叫び声が響き渡る。
実は、カサンドラスでも悪魔を討伐した事があった。
アスモデウスよりは弱い、上級悪魔であったが、悪魔種の厄介な所は、膨大な魔力量と、耐魔法攻撃の耐性、それに俺のエクストラ・ヒールを上回る超回復スピードである。
その経験から、俺は、悪魔共が知らないであろう『スタン・グレネード』で、度肝を抜きつつ、怯んだ隙に、弱い物理攻撃でバラバラにし、その断面から、内部を破壊する魔法攻撃を仕掛け、回復を阻害する様にと、魔力を吸い取っている訳である。
傷口が引っ付いてしまうと、内部へ魔法攻撃を直接仕掛ける事が出来なくなる。
だから、途切れる事の無い攻撃を仕掛ける必要があるのだ。
幸いな事に、俺のステータスを確認して『くれた』事で、奴は俺を格下認定し、最初の一手を俺に開放した。
その奢りが奴の敗因となる。
単純な実力勝負であれば、多分俺に勝ち目は無かっただろうが、プライドの高い悪魔種、しかも最上位に近い存在である事が災いしたと言う事だ。
俺は亜空間への攻撃と魔力の吸引を続けつつ、更に亜空間へ小さいゲートを繋いで刀による攻撃もチクチクと続けた。
「ギャーー!!」
とギャーギャー五月蠅い悪魔君の叫び声は、かれこれ10分以上続いている。
さて、そろそろチャージする空の魔石が少なくなって来た。
アスモデウスから感じる魔力が、当初の1/10以下になり、さっちゃんよりも少なくなって居るのが判る。
「ギャー、も、もう死ぬから!! もう死んじゃうから! 参った! こ、降参するから!」
とアスモデウスが必死に叫んでいる。
「本当に降参するか? そんな事を言って、油断した所をヤル気じゃないよな? 誇り高い悪魔さんよ。」
と俺が手を緩めずに聞くと、
「う、嘘じゃない。悪魔のプライドに掛けて降参だ!」
と叫んだので、
「じゃあ、従魔契約するか?」
と俺が言うと、
「ギャーー、す、するから! 本当にヤバいって! もうヤバいからーー!」
とアスモデウスが必死に叫ぶ。
アスモデウスの魔力が殆ど感じられなくなり、声も小さくなって来た。
俺は、攻撃を止めて、従魔契約の魔法を飛ばした。
<ピロン♪ アスモデウスが従魔になりました。>
と頭の中にアナウンスが流れた。
と同時に、
<ピロン♪ レベル99になりました。>
とレベルアップも完了した。
うん、残念だ。こいつを討伐したら、100は堅かったのにな。
俺はアスモデウスを亜空間から出して、エクストラ・ヒールを掛けてやった。
バラバラの身体が引っ付いて、元の身体のミニチュアサイズで復活した。
「あっぶねぇーー!! マジで消滅する寸前だった。」
と身体が小さくなったアスモデウスが冷や汗を拭きながら、目の前に跪いていた。
「くっ……約束は約束だ。これから末永く仕えようぞ。」
「何か、負けた割に強気な感じだな。こっちは、せっかくの経験値を諦めてまで従魔にしてやったのにな。」
と俺が嫌味を言うと、大汗を掻きながら、
「寛大なる対応、ありがとうございました。
誠心誠意仕えさせて頂きます。マスター」
と改めて、片膝を付いて、頭を下げた。
「ああ、よろしくな。」
と俺が笑うと、やっとホッとした表情となった。
ボス部屋の奥で、宝箱が2つと、ダンジョンコアが出て来た。
更にその隣には、帰還用の魔方陣が光っている。
取りあえず、宝箱2を開けて、その中身を収納した。
「さてと、どうするかな……ダンジョンコア。」
と暫し考える俺。
このダンジョンコアを破壊したり、台座から持ち帰ったりすると、ダンジョンは死滅する。
つまり、ダンジョンからの恩恵が無くなるのだ。
態々資源の宝庫を潰すのもなぁ~。
と言う事で、ダンジョンはこのまま存在させる事にしたのだった。
「さて、俺は地上に帰るけど、お前はどうするの?」
とアスモデウスに問いかけると、
「え?まさか、置いて行かれる気ではないですよね?」
と驚愕の顔をしている。
「だってお前、ダンジョンボスじゃん。ダンジョンから出られるの?」
と聞くと、どうやら、負けを認めた段階で、ダンジョンボスの座から降りた扱いになるらしい。
なので、何処にでも自由に行けるとの事だし、寧ろ外の世界を見たいと。
じゃあ、何でボスの座に居たのか? もっと早くにボス止めて出て行けば良いんじゃない?と問うと、どうやらダンジョンボスと設定された事で、本能にボス部屋の死守を擦り込まれて居たらしい。
「へー、アスモデウス程の力を持っていても、抗う事が出来ないのか。」
と感心していると、
「ええ、完全に本能に擦り込みされるので、下手な新興宗教よりも質が悪いです。
いやぁ~、救って頂き、感謝致します。」
とアスモデウスが、ミニチュアサイズのまま宙に浮いて、恭しく片手を腹に当てて頭を下げていた。
「所で、アスモデウス、そのサイズが気に入ったのか?」
と聞くと、魔力がある程度戻れば前のサイズ戻れると。
それまでは、省エネサイズで過ごすらしい。
と言う事で、話は纏まり、俺達は宝箱の横に現れた、転移魔方陣で第1階層まで戻るのだった。
そして、ダンジョン外のバリケードにある自動改札にて、少々問題が発生した。
「あ、佐々木さん! 今日はお早いお帰りですね。 あ? あれ?? その後ろに居る小さい人の様な羽の生えた物は??」
と笑顔で敬礼しつつ、挨拶してきた自衛官の表情が徐々に曇る。
「ああ、こいつは、ダンジョンボスだった、アスモデウスです。
降伏するからってので、俺の従魔にしました。」
と俺がサラッと説明すると、滅茶滅茶驚かれ、更に
「少々お待ちを! 今上官を呼んで参ります!」
と慌てて無線機で連絡し始めた。
2分掛からずに、このダンジョン警備の責任者が飛んで来て、改札から出て、詰め所の応接間へと、連行されてしまった。
そうか、そう言えば、従魔の定義を首相やギルド本部に教えて無かったな。
と思い出して、うーん……と頭を捻っていた。
自衛官達に、『従魔』についてを説明し、その場で首相とギルド本部の長に連絡し、『従魔』についてを説明して、協議の結果、やっと承認して貰う事が出来た。
そして俺は、後日ギルドカードの仕様をアップデートして、従魔用のカードを作る事となった。
そんなやり取りで、約1時間程掛かってしまったが、気を取り直して、ギルドの方へ足を運び、ダンジョン攻略完了を報告した。
この報告で、ギルド支部は大騒ぎになった。
で、俺の隣でプカプカ浮いてるアスモデウスがダンジョンボスだった事を知って、再度大騒ぎ。
しかし、ギルド本部からの通達が廻って来て、従魔と言う事で丸く収まった?感じだ。
まあ、買取の品々を出すと、また青い顔をしていたのは、ご愛敬だろう。
その間、当のアスモデウスはと言うと、減った魔力の所為で空腹を訴えたので、サンドイッチや飲み物を与えてやると、
「ほほー!これは!」
等と、何やら嬉し気に味わいつつ、モグモグ食べていた。
どうやら、この世界の食べ物が気に入ったらしい。
ギルドでも小一時間程、足止めされたが、無事全てが終わった。
買取品の合計金額等は、後日纏めて報告してくれる事となった。
そして、アスモデウスを連れて、自宅に戻ると、
「あ、旦那様……何かイヨイヨ来たみたいです……」とお腹を擦っているさっちゃんが居た。
慌てて、俺は母上と病院に連絡して、さっちゃんが予め用意していたバッグを持ち、さっちゃんをお姫様抱っこして、産院の入り口前にゲートで移動した。
そして、受付で産気づいている事を伝えると、既に用意されていたストレッチャーにさっちゃんを寝かせ、看護婦さんが急いで運んで行った。
「ご主人はこちらへ! 今分娩室に入りましたので、分娩室の前でお待ち下さい。」
と分娩室の前に連れて行かれた。
さっちゃんが必死に耐えてる声が聞こえる。
「頑張れ!」
と心の中でさっちゃんにエールを送る。
何十分か過ぎた頃、「おんぎゃー!」と泣き声が聞こえた!!
声を聞いてホッと少し落ち着く。
ハッと気付くと、何十分も握っていた拳が真っ白になっていた。
俺は立ち上がって、分娩室が開くのを待って居ると、中から看護婦さんが出て来て、呼ばれた。
ちょっと疲れた顔のさっちゃんが、嬉しそうに腕に抱いた我が子を眺めている。
「ああ、さっちゃん、子供も無事で、本当にありがとう。」
とさっちゃんの頭を撫でつつヒールを掛けた。
そして、ライト・ヒールを掛けつつ、恐る恐る我が子の頭を撫でてやる。
「うきゃ」
と小さく声を発して、少し顔の表情が微笑んだ様に見えた。
「はじめまして、お前のお父さんだよ。」
一応、その直後に子供の手足の指の数を数えてしまいました。
大丈夫、手足の指は、ちゃんと各5本、可愛い指が20本ありました。
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