……のほうがこわい

 個人的に洒落になっていない話。現在進行形で解決していないし、虫が絡むしその説明がやたら長い話。



 年末よりちょっと前、爆速で過ぎ去った秋終わりから部屋にカメムシが入ってくるようになったんですよね。焦げ茶色で、全長一.五センチから二センチくらい? ありそうなカメムシ。


 蚊くらいのサイズの虫なら躊躇なく叩き潰せるけど、このカメムシくらいの大きさだと潰すのはちょっと……ってなりますよね? なんか、潰したら変な汁とか出てきそうだし。そもそもカメムシだから、叩き潰して部屋が臭くなるのはイヤだし。


 話がちょっと変わりますけど、私の家って山が近いんですよ。住宅街なんですけど家のうしろに山が迫ってて、恐らく都会より色んな虫が家に入ってくる機会って多いんじゃないですかね?


 まあそういうわけで、部屋に入ってきた虫を捕獲して逃がすために、透明のプラカップと小学生時代に使っていたプラの下敷きを手の届きやすい位置に置いてあるんです。プラカップでかぶせて捕まえて、下敷きを滑り込ませてフタをしたあと、プラカップの入り口を下敷きでフタしたまま移動して、外に逃がす。改めて説明するまでもないことかもしれませんが。


 で、カメムシの話に戻るんですが。秋が終わりかけたあたりから、部屋の中でカメムシを見るようになったんですよね。部屋の中でカメムシの姿を見ること自体は、年に一回あるかないかくらいだったんですけど、今回はなんか、めちゃくちゃ部屋の中にいるんですよね。SNSの投稿で「今年はカメムシが大量発生している」とかいうのを見たところでした。


 私の部屋には窓が二か所あって、白いレースカーテンもかけているんですけれど、その裏側、窓に面しているほうのカーテンにカメムシがくっついているんですよ。たぶんそこが部屋の中で一番明るいからか、温かいからなんでしょうね。カメムシの生態については詳しくないのでよくわからないんですけど。まあとにかく、よくカーテンにカメムシがくっついていて。


 それが一度に五匹もいたときは、さすがに参りました。ぜんぶ捕まえて逃がしたんですけど、私って虫が得意じゃないので、カメムシをプラカップで捕まえて逃がすということをしただけでも心臓バクバクで、手がちょっと震えました。


 さすがに一度に五匹も見つけたのは、そのとききりでしたが、以降もカメムシがどこからか部屋に入ってくるんですよ。そのたびに、捕まえて逃がして。


 カメムシがなにかの拍子にくっついていたカーテンから飛ぶと、場所が場所だから窓ガラスに当たるんです。そのときに「ブーン、カッ」という音がするんですね。飛翔する音と、窓ガラスに激突する音。それが何度かあってから、ノイローゼ気味になってしまったんですよね。


 カメムシが飛ぶ音がするんじゃないか、窓ガラスに当たる音がするんじゃないかと気が気でなくて。眠りも浅くなったし、実際にカメムシの「ブーン」という音で飛び起きて、捕まえて逃がした夜もありました。


 色々と対策はしてみました。窓は閉じるようにしましたし、エアコンを侵入経路かと疑ってビニール袋で覆ってみたり、室外機の近くにカメムシにも効くという殺虫剤、というか忌避剤? を噴射したり。まあ、効果はなかったんですけれど……。


 最終的に、できるだけ自分の部屋にはいないようにすることで、カメムシとの接触を減らそうとしました。でもまあ、寝る前にはカーテンの裏側を確認するようにはしていて、そこでカメムシを見つける、なんてことは多々ありました。それで自分の部屋なのに、なかなか心休まらない日々が続いていたんですよ。


 そんな感じで、ちょっとでも異音がすればカーテンの裏側を確認するということを繰り返していたんです。ノイローゼ気味になっていたのと、家鳴りとカメムシが窓ガラスに当たったときの音の区別があんまりついてなくて、家がちょっと軋んでもカーテンの裏側をいちいちチェックしていました。確認しないと心が休まらないので……。


 それで、そのときも異音がしてカーテンをめくって確認したんですよ。


 そしたら、なんかカメムシじゃないものがいて。


 なんというか……私じゃ言葉で表現するのが難しいんですけど。「隙間女」って知ってます? 私が学生だった時代はわりとポピュラーな都市伝説だったんですけど、今はどうなんでしょうか。言葉通り、家具と壁のあいだの隙間を覗いたらペラペラの女が挟まってたっていう都市伝説なんですけど。


 まあ、そんな感じのがいたんですよね。ただ女かどうかはわからなくて。薄っぺらい、人間のせんべいみたいなのが窓とカーテンのあいだにいて、レースカーテンに捕まってるんですよ。薄いから、顔の造形もわからないし。ただ、服は着ていませんでしたね。私に気づいているのかいないのかもわからない。


 あまりにびっくりしすぎて、心臓の拍動が、その挟まっていた幽霊? 妖怪? を見てから一拍置いてバクバクし出したことは鮮明に覚えています。しばらく、じっとその薄っぺらいせんべい人間とでも言うようなものを見ていました。でも、気づかれたらイヤだなって思って、めくっていたカーテンの位置を元通りにして、そのまま部屋から出てリビングに行きました。


 あれはなんだったのか? と思って、もう一度見に行ったときにはいなかったので、白昼夢でも見たのかと思いました。


 でもそれからカメムシかと思ってカーテンの裏側を確認したら、その薄っぺらい幽霊か妖怪かを見るようになってしまったんですよね。


 私は先述した通り、家鳴りとカメムシがぶつかる音との区別がいまいちついていないような人間なので、その薄っぺらなものの気配とカメムシの気配となんて、感じわけることなんてできなくて。カメムシかと思ってカーテンをめくったら、なにもないときと、カメムシがいるときと、薄っぺらい人間モドキがいるときの三パターンの区別は、今もついていないです。


 というか、年が明けてしばらくしたころから、部屋の中でカメムシを見なくなったんですよね。今はノイローゼ気味になっていた神経も落ちついてきて、異音をカメムシと疑ってカーテンをめくる頻度も低くなってます。


 ただ、あの薄っぺらな人間っぽいものはまだ私の部屋にいるのかな……とはたまに考えてしまいますね。


 でもぶっちゃけカメムシのほうが厄介でした。薄っぺらい人間モドキは放っておけば消えますから外に逃がす必要もないですし、臭くもないですし。やっぱり蚊みたいに潰せないカメムシの存在は私にとってはかなりの脅威。


 正直なところ、カメムシのシーズンが再びくるほうが今は怖くて仕方がないです……。

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