第340話:討伐して、その後……
カーザリアに戻ってきたアルたちは大喝采を浴びた。
誰もが知っている大隊長のグレンならまだしも、カーザリアを拠点にしている冒険者たち、そしてアルたちにも喝采は浴びせられている。
魔法競技会では罵声を浴びていた事もあったが、徐々に戦い方が認められていき、極めつけは魔法師隊や冒険者が対処に苦慮していた魔獣を討伐してしまった。
ここまで来るとずっと罵声を浴びせていたり認めて来なかった者も、アルたちを認めざるを得なかった。
ただし、デヴォルガンデとの死闘を潜り抜けてきたアルたちは大喝采に対して手を振る事しかできなかった。
早く休みたいと思っていてもユージュラッド魔法学園が貸し切っていた宿屋の周辺にも人が集まっていたので、グレンの機転でアルたちは王城へと案内されていた。
「も、申し訳ありません、大隊長」
「気にするな、キリアン。国の英雄を守るのは我々の仕事だからな」
そんな会話が耳に届いており反論したかったが、そんな元気すら残っていなかった。
あてがわれた部屋に通されたアルは光魔法で体の清潔を確保すると、用意されていた着替えにそでを通してすぐにベッドへ寝転がる。
「……あぁー、疲れた。今日はマジで疲れたし、ヤバかったなぁ」
ウトウトしながらそんな事を呟いていると、頭の中で今日の戦いを思い返していた。
(……堕神デヴォルガンデ。一個体としての実力は脅威だった。一対一で相対していたら、サモンを含めて俺は圧倒されていただろう。今回の勝利はやはり、みんながいてくれたおかげだったな)
そう考えると、意識せずにアルは拳を握りしめていた。
(……何が最強の剣士を目指すだ。たった一匹の魔獣に圧倒されていては最強を目指せるはずもない!)
あまりの悔しさに拳に込められる力はドンドンと強くなり、体が震える程だ。
アルベルトからアルに転生したのも最強の剣士になるためだった。
(フェルモニアを単独討伐できたから天狗になっていたのかもしれない。俺はまだまだなんだとデヴォルガンデが教えてくれた。そう考えなければ、折れてしまいそうだ)
剣術を鍛えるのが難しいこの国での限界を感じ始めたアルは、これからどうするべきかを考えてもいいのではと思い始めていた。
(……だが、今は……もう……頭が……回ら、ない……)
徐々に瞼が重くなり、理性に逆らえず完全に閉じた途端、アルは深い眠りに誘われたのだった。
※※※※
翌日、デヴォルガンデ討伐に参加した者たちから代表者を募り陛下であるラヴァールとの謁見の場が用意された。
実際にデヴォルガンデと相対したアルは名指しされており、他にもユージュラッドから参加したシエラとジャミールの参加も決まっている。
カーザリアの面々からは一緒に行動していたレイリアと冒険者ギルドの代表としてリルレイと数名の冒険者が入城していた。
「――カーザリアは過去に類を見ないような危機に陥っていた。堕神という神の力を有する魔獣を前にしても屈せず、多くの者が討伐に参加してくれた。感謝するぞ!」
ラヴァールの言葉には自然と威厳が込められており、視線が集まり全員の心を打ち続けている。
話は進んでいきラヴァールの言葉が終わると、最後に大臣から報奨金の話が始まった。
まずは参加してくれた冒険者への報酬の話だったが、これらは全て冒険者ギルドを経由して渡されることになり、そこへリルレイへの報奨金も含まれる。
次に個人への話となり、最初にレイリアが受け取る報奨金の額が口にされた。
「レイリア・アーゲナスには50万ゼンスの報奨金を与える」
その額が発表されると集まった全員からどよめきがあがった。
五年は遊んで暮らせるだけの額を一学生に支払うのかという驚きもあったが、個人への報奨金はレイリアが最初である。
この後にまだ三人も残っているとなれば、確実にレイリア以上の報奨金が支払われると誰もが考えたのだ。
そして、その考えは間違っておらずシエラとジャミールにはそれぞれ70万ゼンスの報奨金が与えられると口にされると、最後に残されたのはアルだった。
「最後にアル・ノワールへの報奨金であるが……うぅん? へ、陛下、これは本当に?」
アルの報奨金の時にだけ大臣が渋い顔を浮かべ、一度ラヴァールに確認を求めた。
報奨金の額を決めたのはラヴァールであり、他の者に確認するのは憚られたのだ。
「間違いないぞ」
「……わ、分かりました」
佇まいを直した大臣は一度咳ばらいを挟むと、改めてアルに与えられる報奨金を口にした。
「ゴホン! ……最後にアル・ノワールへの報奨金は――200万ゼンスである!」
200万ゼンスという金額が口にされると、集められた者たちだけではなく会場にいた他の大臣たちも驚きの声を漏らしていた。
そして、一番驚いていたのはそれだけの大金を与えられると言われたアルであり、口を開けたまま固まってしまった。
「以上! それではこれより――慰労会へと移ってまいります」
「本日は今より無礼講である! 礼儀も作法も気にするでない! 大いに食べて飲み、疲れを癒すのだ!」
最後にラヴァールが締めると、場所を変わっての慰労会へ移っていくのだった。
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