第337話:進化する魔獣⑩
闇の眷族の相手をしなくて済んだアルは全ての神経をデヴォルガンデに注いでいく。
マリノワーナ流剣術を如何なく発揮して攻め続けていくアルだが、それでももう一歩デヴォルガンデには届かない。
それも全てはデヴォルガンデが纏う魔力量が桁違いに多いからだった。
『傷を付けるだけ、ただそれだけだ!』
「だが、確実にダメージは通っている!」
『ふはははは! 本当にそう思っているならば、貴様も小物だという事だな!』
「何を言って……ちっ、そういう事か」
体に受けた傷が纏っている魔力を受けて塞がっていく。
このままではダメージがなかったことになると判断したアルは、手数よりも一撃の重みを重視した戦法へ変更する。
「
――ドンッ!
『大振りだな!』
「裏・大破斬!」
『ぐはっ!』
大破斬はあくまでも囮であり、当たれば運が良いといったものだ。アルの本命は裏・大破斬であった。
地面を剣身が抉り、反動を利用した強烈な一撃はデヴォルガンデの胸を切り上げる。
薄い傷ではなく、深く抉り取った胸の傷からはどす黒い血が飛び散った。
「まだまだ! 針点!」
『させんわ!』
「流線弧閃・烈風!」
『ふっ! ぬおっ! は、離れろおおおおっ!』
「うおぉっ!?」
後ろによろけたデヴォルガンデ目掛けて鋭い突きである針点を放ったものの、両腕を重ねて受け止める。二重の魔力で守られた腕に傷を付ける事はできず弾かれたアルディソードだが、その流れを殺す事なく流線弧閃にシルフブレイドを纏わせた剣戟を放つ。
切れ味が増した連撃を受けて再び劣勢に立たされたデヴォルガンデだったが、アルと距離を取るために纏わせていた膨大な魔力を放出して吹き飛ばした。
大きく吹き飛ばされたアルだったが、単なる魔力の暴風を受けたくらいで傷を負う事はなく着地から再び前に出ようとした。だが――
「うおっ!?」
『我にこれだけの傷を負わせたのは貴様が初めてだ! 本気で相手をしてやろう!』
「……動きが、重い。これは、フィジカルダウン!」
レイリアとの決勝戦で身をもって体感した五感の感覚を奪ってしまう闇属性レベル5のフィジカルダウン。
足元がふらつき、眩暈がする程度だったレイリアのフィジカルダウンとは違い、デヴォルガンデのものは明らかに威力が桁違いだ。
立っているだけでも疲労感を覚え、全身から汗が噴き出してくる。
吐き気まで催してしまい、戦況は一転してデヴォルガンデ優位に移り変わってしまう。
(俺の魔力では押し返す事ができないか。だが、このままではデヴォルガンデを倒す事ができな――)
「ちっ!」
『ふはははは! さっきまでの勢いはどこに行ったのだ!』
両腕から繰り出される乱打によって防戦一方となったアルは、直撃は避けているものの防具が吹き飛ばされていき、衣服を割いて傷はドンドンと増えていく。
ジワリと滲み出てくる血の量が増えていくと、アルディソードを握る腕の力が弱まってしまう。
「ぐはあっ!」
踏ん張りも利かなくなったアルは、なんとかアルディソードで受け止めたものの大きく後方へ吹き飛ばされてしまう。
その身で大木を粉砕しながら飛んでいくと、硬く巨大な岩石にぶつかってようやく止まった。
岩石には巨大なひびが広がり、肺に溜まった酸素を全て吐き出しながら同時に吐血する。
ズルズルとずり落ちながら尻を地面に付けたアルは、何とか顔を上げてデヴォルガンデを睨みつけた。
『……ほほう? まだそのような目を向ける事ができるか』
「……俺が……貴様を……斬る……」
『斬るだと? 貴様が、この我を? ……ふはははは! 笑止! そのような状態でまだそのような減らず口を叩けるとはな!』
一歩、また一歩と近づいてくるデヴォルガンデを睨みつけているもののアルの体は全く動かない。どれだけ力を込めても意思通りに動いてくれないのだ。
(……まあ、前世よりはましな人生だったか。戦場で死ねるのだからな)
自室で政権争い巻き込まれての毒殺。前世の死因を思い返したアルは思わず笑ってしまった。
「――これで終わりか? アル・ノワール」
「……え?」
『何者だ――むおっ!?』
――ドゴオオオオォォン。
聞き覚えのある声がしたかと思った直後、デヴォルガンデの足元から巨大な火柱が舞い上がった。
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