第308話:パーティ部門・四日目③
魔法競技会にしては珍しすぎる展開と、鳴り響く金属音。
シエラが放つ二振りのナイフがアースアーマーにぶつかっては弾き返される。
ゴッシュはただ守りを固めただけではなく、アースアーマーを纏ったその身で軽快に動きながら格闘戦を繰り広げ始めた。
鋭く振り抜かれる土の拳が風切り音を放ち、それが大振りの一度ではなく連撃で二度、三度と繰り出される。
それを最小限の動きで回避したシエラは間髪入れずに反撃を放つ。
「がははははっ! アルではなかったが、なかなかに楽しい試合なのである!」
「こっちは、さっさと片付けたいんだけどね!」
その繰り返しが五分程続くと、アルも二人だけを見ているだけでは済まなくなってきた。
魔法の撃ち合いにも変化が起き始めている。
元々はシエラも加わって五対五で撃ち合っていたのだが、今では四対五で撃ち合っていた。
最初こそ均衡を保っていたが、四人で無理をしていたからか徐々に押され始めている。
現状では二人の戦いに介入する必要性を感じないため、アルは一つの魔法をゼリンドル魔法学園の後衛に放つことにした。
「アースウェーブ」
土属性レベル3の魔法。
ゼリンドル魔法学園の後衛が立つ地面が小さく揺らぐと、一気にぬかるみへと変わっていく。
「うわあっ!」
「ちょっと、移動するぞ、移動だ!」
「急に言われても!」
「ぶべっ!」
「躓くなー!」
突然のぬかるみに足を取られて魔法に集中できなくなると、魔法の撃ち合いは一気にユージュラッド魔法学園側が優位に変わる。
「ちょっと、弟君!」
「あーもう! アル君に魔法を使わせちゃったー!」
「申し訳ございません、アル様!」
「もう少しだったのにな~」
別に魔法を使う事がダメとは言われていないのだが、一回魔法を使っただけでリリーナたちから酷く残念がられてしまう。
「……いや、俺も代表者なんだが?」
昨日の今日である。自ら動くのも魔法を使うのも別に構わないではないかと思うのだが、それを仲間が嫌がるのであれば極力避ける事にしようと溜息をつく。
だが、アルの魔法で戦況が変わったのも確かだ。
魔法の撃ち合いではユージュラッド魔法学園が優勢となり、接近戦では今もなお戦いが続いている。
このまま見ているだけでもいいのだが、それだけではつまらない。
アルはシエラが使っているナイフを見つめながら、ふと思いついたことを実行へ移すことにした。
「シエラ! 受け取れ!」
「アル!?」
「がははははっ! 今度は何をしてくれるのであるか!」
突然名前を呼ばれたシエラは大きく飛び退いてゴッシュから距離を取る。
追撃を仕掛けるかと思われたゴッシュだが、シエラとの戦いを楽しんでいるのか笑い声をあげるだけで様子を窺っていた。
そして、シエラが飛び退いた先では一振りのナイフが宙を舞い、その手の中に納まった。
「……アル、これは?」
「俺の師匠から貰った最高のナイフ――
「……美しいわね」
「あげるわけじゃないからな。斬鉄を使って、さっさと終わらせてくれ」
「がははははっ! 武器を変えたところで私のアースアーマーを破れると思っているのか!」
拳を打ち鳴らしたゴッシュ。土の鎧で顔まで覆われているので見た目には分からないが、アルにもシエラにも、その表情が笑っているように思えた。
「……いいわ、終わらせてあげる」
「さあ! 最終ラウンドだ! アースドーム!」
今度は逃がしはしないという意思表明だろうか、ゴッシュは防御で多用される事が多いアースドームで自らとシエラを覆ってしまった。
観客からすると何が起きているのか見えないので不満が生まれそうだが、接近戦には興味がないため気にも留めてもらえず、視線は魔法の撃ち合いに集中している。
唯一、アルに好感を持っているノワール家や一部王族の視線はアースドームにも注がれていた。
「がははははっ! さあ、楽しもうぞ!」
「そんな暇は与えないわ。ライトボール、そして――ミラージュ」
「ここにきて、幻覚魔法だと!?」
土に覆われた事により光が遮られたが、シエラは自らの魔法で光源を生み出した。
そして、光の屈折を利用した幻覚魔法のミラージュにより狭い空間の中にはシエラが四人存在している。
「「「「逃げ場がないのはどちらかしら?」」」」
「……いいぞ……いいぞっ! これでこそ戦いなのである! シエラ・クロケット、絶対に倒してみせるのである!」
雄叫びをあげたゴッシュはアースドームを利用して土属性魔法を放ちながら、自らも突進を仕掛けて攻撃を始めた。
その全てをシエラは回避し、時にはナイフで切り裂き、攻撃を受ける事なくやり過ごしていく。
互いが互いの間合いに踏み込んだその瞬間、渾身の一撃がそれぞれから放たれた。
「……」
「……む、無念」
一切の刃こぼれも起こさなかった斬鉄がアースアーマーの強固な鎧を切り裂き、シエラの狙い通りに首を刈り取った。
自動治癒があるとはいえ痛みはあっただろう。だが、ゴッシュは苦痛に声をあげるでもなく、負けた事に悔しさを滲ませながらその身を舞台に横たえた。
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