第62話:ダンジョン・七階層④
作り出すのはアルの体でも扱うことができる諸刃の短剣。
両手で素材を手にして成形していく。
だが、成形が終わるまでブラックウルフが待ってくれるはずもなく、動きが鈍ったなら遠距離攻撃をとその場でブレスを吐き出した。
成形には多大な集中力が必要となる。それもレベル1のアルがナイフやフォークなどの小さな食器ではなく、短剣という今までで一番大きな武器を成形するのだから、他の魔法と並行して作業することはできず、また回避行動をとりながらの作業も難しい。
それでもアルは成形を続けている。それは──仲間を信じているから。
「──アースウォール!」
今までで一番の厚みを持った土の壁がアルとブラックウルフの間でせり上がりブレスを遮る。
それでもブレスは土を溶かして徐々に破壊していくと、今度はブラックウルフ目掛けて巨大な火の玉が撃ち出された。
「──メガフレイム!」
大量の魔力が込められたメガフレイムは直径5メートルほどもあり、直撃すれば致命傷は避けられない。
ブレスを中断したブラックウルフは呼吸を荒くしながらもその場から移動してメガフレイムをやり過ごす。
『ウオオオオオオオッ!!』
ザコに用はないと言わんばかりに威圧を掛け、溶け出している土の壁を回り込みアルを目指す。
「──ウォーターカッター!」
「──フレイムランス!」
『グルアッ!』
威圧を受けて動けなくなると読んでいたブラックウルフにとって、二人は即座に魔法を発動させたのは予想外だった。
急ブレーキからの回避行動は間一発間に合ったものの、力を込めた分傷口からはさらに血が溢れ出し、着地と同時にわずかによろめくのが見て取れた。
「私たちが!」
「アルを守る!」
二人が守ってくれると信じていたからこそ、アルは成形に集中することができた。
「──助かったぞ、リリーナ! クルル!」
だからこそ、今できる最高の一振りを完成させることができた。
『……グルルゥゥ』
「俺の初めての作品、名前は──ソードゼロ」
片手直剣、ブラックウルフの体毛に対抗すべく斬れ味をより重視した一振りは、とても細く作られている。
ブラックウルフはダンジョンに生まれ落ちて以来、魔法師を相手にしたことしかなかった。
それはこのダンジョンを管理しているのが魔法学園だからであり、目の前で剣を握るアルの姿は異質な存在に見えていた。
もちろん魔法師が剣を持つなど考えられないことであり、リリーナとクルルからみても今のアルは異質な存在に写るはずなのだが、ナイフを片手に大立ち回りをしていたアルを目の当たりにしていることもあり期待の眼差しを向けていた。
「さて、そろそろ終わらせようか」
『ゥゥゥゥ……グルアアアアアアアアッ!』
アルの挑発が通じたのか、ブラックウルフは死を覚悟して全力で駆け出した。
だが、覚悟した死はアルに斬られて死ぬものではなく、失血多量による死である。
故に、目の前にいる敵を殺すだけの力はまだまだ残されていた。
「アル様!」
すでに傷だらけのブラックウルフの加速に驚愕したリリーナが悲鳴にも似た声をあげる。
「──魔力融合、ファイアソード」
しかし、アルの魔力融合はそんなリリーナの驚愕をも上回る衝撃を二人に与えていた。
「……あ、あれは、なんなのですか?」
「……剣が、燃えている?」
アルは魔力融合を習得した時から、一つの可能性について考えていた。
魔法学園において、剣術は評価されることはなく、逆にマイナス査定になってしまう。
ならば、剣術に魔法を纏わせてみてはどうだろうかと。
これも一種の魔法であると判断されれば、魔法と剣術の両方を使って剣の道を極めることができるのではないだろうかと。
「まずは、その邪魔な機動力を奪わせてもらおう──弧閃!」
『──! ガルアアアアッ!』
ソードゼロによる最速の一振りが、ブラックウルフの右前脚の肉を断ち、さらには炎により内側から焦げつかせていく。
「流線孤閃!」
『グガア! ガルグゥ、グルアアアアッ!』
脚を傷つけられたブラックウルフは距離を取ることもできず、その場での打ち合いに転じたのだが、アルの動きについていくことができずにさらなるダメージを蓄積させていく。
残る脚を傷つけられたれ、胴体を貫かれ、片目を燃やされた。
それでも、魔獣としての本能が目の前で剣を振る殺すと決めた相手に背を向けて逃げることを拒ませ続ける。
「これで、終わりだ!」
その結果が──最大の勝機を見出した。
──バキンッ!
振り上げたアルの両手から、砕けたソードゼロの剣身がこぼれ落ちていく。
何が起こったのか理解できなかったリリーナとクルルの時間が止まり、動くことのできなかったブラックウルフの時間が動き出した。
『ガルアアアアッ!』
最後の力を振り絞り、ブラックウルフはアルの喉元へと噛みついた。
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