第11話:属性増幅
翌日、アルはとてもウキウキした気分でエミリアの到着を待っていた。
今日からは属性の増幅について教えてもらえるのだが、夜にはチグサとの剣術修行が待っているのだから気分が高揚するのも無理はないだろう。
しかし、エミリアと顔を合わせてすぐに注意されるくらいには顔に出ていたようなので気をつけなければならない。
「全く、その調子では旦那様に言いつけなければなりませんよ?」
「そ、それはご勘弁をお願いします」
「でしたら、今日はしっかりと属性増幅について説明いたしますね」
「よろしくお願いします!」
属性増幅というのは、簡単に言うとより大きな質量だったり細かく操れるようになることである。
火属性であれば小さな火ではなく、より激しい炎を操る。
水属性であれば水を清めるだけでなく、聖水を作り上げる。
木属性であれば植物の成長を助けるだけでなく、衰退にまで影響を与える。
土属性であれば土を耕すだけでなく、そこに栄養を与える。
金属性であれば金属の形状を変化させるだけでなく、精緻な変化を行える。
小さな質量や大雑把に操ることは誰にでも可能である。だが、大きな質量や細かな操作は熟練の魔法師でなければ上手くはできないものだ。
「……エミリア先生、一ついいですか?」
「いいですよ」
「大きな質量を操る分には属性増幅っていう言葉が当てはまるんですけど、細かく操るっていうのは当てはまらないかなって」
「言葉だけを当てはめるとそうかもしれませんね。ですが、細かく操るということはそれだけ属性に長く触れているということです。それは、属性を増幅させていなければできません。なぜなら、属性がアル君から離れてしまうからです」
「属性から離れてしまう、ですか?」
頭の中で上手く理解できないアルは首を傾げてしまう。
「うふふ、それでは実際にやってみせましょう。見た目にも分かりやすいのは金属性ですから、今回はこちらの金属を用意しましたよ」
エミリアが取り出したのは一切の加工がされていない鉄。
デコボコであり、とても硬く、素手では形を変えることすらできない。
金属性がなければ形状を変えることもできないことから、金属性が重宝される場面も多くある。
ただし、レベル1では高位の素材を変化させることはできないのでアルにとってはあまり意味がないのだが。
「この鉄をフォークに変えますが、そちらに細かな意匠を施したいと思います」
「でも先生、鉄が二つありますけど?」
「成功と失敗、その両方をお見せしますね。まずは失敗例から」
エミリアが一つの鉄を右手に持ち、左手で軽く撫でている。
すると、不思議なことに鉄がどんどんとエミリアが触れたところから柔らかくなり、デコボコの多い塊だった鉄がフォークの形に変わっていく。
だが、先端の変化を行っている途中で何故だか左手の動きを止めてしまった。
長い間そうしていると、突如として鉄が震え出し、そして――
――パキンッ!
「うわあっ!」
あまりの驚きにアルは声をあげてしまった。
震えていた鉄が突然爆発したかのように破片を飛び散らせたのだ。
アルの方にも破片は飛んできていたのだが、不思議なことに破片は机の上から飛び出すことはなく、端の方でコロコロと転がっていた。
「……いったい、何が?」
「金属性の魔力が足りなくなってしまい、鉄に溜まっていた魔力が暴発したのです」
「暴発ですか?」
「細かく金属の形状を変化させるには、その分魔力を多く使います。それは、変化させることに魔力を使うからです。当然ながら、その魔力が足りなければ変化はできませんし、途中で魔力供給が絶たれてしまうと行き場を失くした魔力が暴発してしまうのですよ」
「……細かな作業をすることは、属性を増幅させることと同義だということは、こういうことなんですね」
飛び散った破片の一つをつまみ上げてまじまじと見つめているアル。
繊細な魔力操作ではなく、繊細な魔力操作をするにはその属性が多く必要になる、ということにもつながるのだ。
「それでは、続いて成功例をお見せしますね」
先ほどと同じように残る鉄を右手に持ち、左手で撫でていく。
今回はフォークの形に完璧な変化を見せると、続いて細かな意匠と宣言した通り、持ち手の周囲には花とノワール家の家紋が施された。
光に当たると意匠の部分が煌きを見せるのでただの鉄がとても高価な品になった気分を味わうことができた。
「うわー! すごくきれいなフォークですね!」
「上手くできて良かったです」
「それにしても……エミリア先生の金属性レベルって相当高いのではないですか?」
これだけ細やかな意匠を施せるのだから、エミリアの金属性レベルは相当なものだろうと質問を口にする。
「私の金属性レベルは5です」
「レベル5ですか!? 最高値じゃないですか!」
属性のレベルは最低値の1から最高値の5まである。
高いとは思っていたものの最高値のレベル5だとは思っていなかったのでまたしても驚きの声をあげてしまう。
「アル君の場合は魔力操作はとても上手ですし時間を掛けずに変化をさせることができれば、細かな意匠までは難しくても実用的な作品を作ることは出来ると思いますよ」
「は、はい! 頑張ります!」
アルはエミリアが作ってくれたノワール家の家紋入りフォークを記念に貰うと、次の授業へと移っていった。
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