百年紀のカレンダーⅠ 蓬莱グランドツァー 【ノーマル版】

ミスター愛妻

百年紀のカレンダー1 蓬莱グランドツァー 【ノーマル版】

プロローグ

クリームヒルト・ニーチェ


 クリームヒルト・ニーチェは、思わぬ幸運に小躍りしていた。

 憧れの主、ミコ様と一年間、一緒に過ごせるというのだ。

 しかも、姉とも母とも慕う、イシス様と一緒に……


 『最後の審判戦争』が終わり、なんでもテラとそっくりの世界、蓬莱という惑星が見つかったとかで、ミコ様とイシス様のお二人が視察、というより、その世界で休養を取られるというのだ。


 直接の上司というより、うっかりするとミコ様やイシス様より偉い、ハウスキーパーのサリー様が、クリームヒルトをお供にすることで、お二人の一年間の休養を承諾したのだ。


 しかもクリームヒルトは、側女としては珍しく佳人待遇となり、佳人以上に説明される主たち、アスラ族の世界を説明されたのだ。


 お二人とも名前やお年を、多少は滞在先の状況に合わされるとか。

 ミコ様は吉川美子、イシス様は吉川茜、お年もお身体も、女学生になられるという……


 惑星テラのパラグアイ、新ゲルマニアの出身でもあるクリームヒルト・ニーチェは、金髪碧眼、典型的なドイツ美少女。

 しかも超人(ユーベルメンシュ)――アドルフ・ヒットラーの夢見た新人類――であるクリームヒルトは、生まれた村で両親が死ぬと、村人に捕まり、太陽を望遠鏡で無理やり見せられて、目を潰された過去をもっている。


 その時、右目は失明、左はつぶれた振りをして、何とか失明を免れたが弱視になってしまった。

 その後、村から必死で逃げだして、物乞いをしながらパラグアイの首都アスンシオンにたどり着いた。


 そして当時テラの世界的企業、裏から世界を支配すると目されていた、ナーキッドのオーナー、吉川ミコの事を知り、この人なら超人(ユーベルメンシュ)の自分を受け入れてくれると、探し求めてそしてすがりついたのである。


 クリームヒルトは、その時の出来事を鮮明に覚えている。


 みすぼらしい身なりで、垢まみれの私を、ミコ様は黙って抱きしめてくれた。


 ホテルの部屋で、お風呂に入れといわれた時、傷だらけ膿だらけの身体を見せると、ミコ様に嫌われ捨てられると思った。

 再び居場所がなくなると思った時の恐怖……


 でも杞憂に過ぎなかった。

 ミコ様はそのたぐい稀なるお力で、私の目と身体の傷を簡単に直してくれた、その時のうれしさ……

 そしておやつを頂き、お風呂に入り、ミコ様が自ら垢まみれの私を洗ってくれた……


 以来、クリームヒルトは、吉川ミコを主と認識している。


 イシスとの出会いは厳しいものだったが、意外にもクリームヒルトを可愛がってくれる。

 そしてイシスの口添えで、クリームヒルトは側女という位を授かったのだ。


 そして女の印が来て……ある夜、身も心も女になった……

 今、十四の春を迎えている。

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