好きな人
1
カトリーナが攫われた――
カトリーナの侍女であるアリッサが、真っ青な顔をして王家の別荘地にやってきたとき、レオンハルトはカトリーナにプレゼントするための宝石を物色中だった。
泣きはらした目をしてやってきたアリッサに、カトリーナが乗った馬車が帰宅途中に襲われて、彼女が連れ去らわれてしまったと聞いたレオンハルトは、手に持っていたブルーサファイアの石を取り落とした。
「なんだって! どういうことだ!」
レオンハルトはすごい剣幕でアリッサに詰め寄る。
そばに控えていたエドガーは慌ててアリッサをかばうように間に入ると、アリッサをソファに座らせて、事情を聞き出した。
アリッサが言うには、隣町に買い物に出かけた帰り、馬車が何者かに襲われたという。
唯一の男手である御者は昏倒しており、馬は馬車から切り離されてパニックになって走り去って、数人の男に取り囲まれたカトリーナとアリッサはなすすべがなかった。
狙いははじめからカトリーナだったらしい。
カトリーナは男たちに、自分はついて行くからアリッサはおいて行けと告げて、取りすがるアリッサをなだめて一人で男たちについて行ってしまったそうだ。
「なんてことだ!」
事情を聞き終えたレオンハルトはソファを殴りつけて立ち上がった。
「案内しろ、その場に行く! エドガー!」
「はい、馬車を準備してきます」
エドガーは表情を緊張にこわばらせたまま居間を出て行こうとして、
「どうしました?」
高齢の家令は、ぜーぜーと肩で息をしながら、震える手でエドガーにぐしゃぐしゃに握りしめられた紙を手渡した。
エドガーは皺だらけの紙を広げて中に書かれていた文字を読むと、ぐっと眉間に皺を寄せた。
「殿下―――」
居間の中で檻の中の肉食獣のように落ち着きなく歩き回るレオンハルトに紙を差し出すと、レオンハルトはその文面に視線を走らせ、ぐしゃっと紙を握りしめた。
紙には、カトリーナを返してほしければ王太子の座を返上して国外に消えろと書いてあった。
「あいつか―――!」
レオンハルトは、握りしめた紙を、力いっぱい壁に向かって投げつけた。
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