第1話【俺の罪歌は世界最強らしいです】

 2025年。10月10日。18時42分


【クラウン】というゲーム会社が、とあるオンラインゲームを販売することになった。


 そのオンラインゲームの名前は【ロスト・クライ・ワールド】


 通称L・C・Wだ。


 このゲームのストーリーは至ってシンプルで、最初の初回ガチャで引くことが出来る罪歌ギルティと言う擬人化した武器と共に異世界に巣食う魔物——魔獣デイズを倒していく王道RPGだ。


 これだけ聞けばこのゲームの面白さはあまり伝わらないと思う。


 かくゆう俺ーー柊木禊ひいらぎみそぎも友達にゲームの説明を受けた時は、「いや、そんなんどこにでもあるマイナーゲームじゃんか」とグチグチと悪態をついたものだ


 ただ、このゲームには他のゲームにはない、ある“特殊”な機能が搭載されていた。


 その機能とは最新のVR設備を搭載することにより、自分の意識ごとゲームの中に入って遊べるという特殊なものだった。


 もちろんプレイにかかる費用は課金機能を除けば購入などの初期費用のみ。


 このゲームが発売された当時は世界中の人々が我先にとLCWの購入に走った。


 その甲斐あってか現在LCWは社会現象にもなり、このゲームの存在が世界中に認知されていった。


 もちろんミーハーな俺がそんな面白そうなゲームに飛びつかない訳がない。


 お年玉やお小遣いを貯めた豚の貯金箱を持ってゲーム屋に走っていき「ここにあるのぜーんぶちょうだい」と店員の前で一つしか残っていないゲームを指差すと同時に豚を破裂させたのは今となっては良い思い出だ。


 そして現在2025年12月10日。18時42分。


 俺が買ってきたばかりのゲームをプレイして五分程経過した頃——ある問題は起きたのだ。


「あっ」


「えっ?」


 ゲームのチュートリアルを終えようやく初回ガチャのイベントが発生。


 俺はゲームをプレイする中で、この瞬間が何よりも楽しみだった。


 何故なら初回ガチャは言わば旅の始まりの醍醐味。


 これから続いていく長い旅路の中で、最高の相棒と出会う運命的な瞬間なのだから。


 ・・・そう。この時の俺は、そう思っていたんだけどな。


「あっれー。おっかしいなー・・・」


 LCWの案内人と名乗る女ーーベルは虹色のメッシュヘアを揺らし、顎に手を当て頭上に?を浮かべている。


 続けてギミック仕掛けの魔法陣の上でステイ。


 不思議そうに魔法陣を見下ろし、キョロキョロと四方から確認するように周囲を歩き回っている。


 一体、何をしているんだろう。この人は。


 あれか?これは新手のNow loadingってやつか?


 そうだとしたらスキップボタンを連打だ。


 俺は膝を曲げ、膝のお皿を連打するように何度もパンパンと叩きまくる。


 パンパンパンパンパンパン・・・!


「あの、ごめん。うるさいから少し黙ってて」


「あ、はい」


 怒られた・・・。


「おっかしーなー・・・ガチャで☆1ばっかり出る時はあっても、ガチャでキャラが出てこないなんて今まで無かったのに、どっか内部で詰まってるのかな?」


 バンバンッ!


 壊れたテレビを直す時みたいに魔法陣にスパンキングを始めるベルさん。


 そんな壊れた機械じゃないんだから・・・


「ごめん、まだ時間かかりそうだわー。今から工具とか使ってなんとかするから、もう少しだけ待っててね」


 そう言い、ベルさんが取り出したのは家庭科で使う針を綺麗に通す道具とお酢。


 この二つで一体どうやって魔法陣を直すつもりなんだろう。


 すごく気になったけど、説明聞くの面倒くさそうだから見なかったことにしよう。


 チョコンと体育座りで遠目でベルさんを眺める俺。


 あー、なんか出鼻から挫かれたな。


 俺の予想では今頃☆5の最強キャラを引き連れて始まりの街に向かい、美少女プレイヤーに「あの、良かったらでいいんですけど・・・」ってフレ交(フレンド交換)を申し込まれていたはずなのに。


 そういえば☆5と言えば・・・このゲームのキャラ割合って、どれくらいなんだろ。


「あの、ベルさん。ちょっと聞きたいことがあるんすけど、いいすか?」


「んー? なにー? あと、別にベルって呼んでくれていいし、タメ口で構わないよー」


 案外フレンドリーだな。


「・・・じゃぁ、ベル。聞きたいんだけど、このゲームのガチャのキャラ割合はどんなもんなんだ?出来れば人気キャラとかも教えてくれたら助かるんだけど」


 カンカンッ。


 トンカチで魔法陣を叩きながら、ベルは視線をこちらに向けず俺の質問に答える。


「基本的にガチャで出てくるギルティの割合は☆5は3%。☆4は7%。☆3は20%。☆2は30%。☆1は40%ってところかな。人気キャラはやっぱりレア中のレアであるヴァルキリーやサタン。あとはフェニックスやリリスとか回復系も人気かな。とは言え、LCWは初回ガチャでしかギルティを引けない代わりにどんなキャラでも最強になれる可能性を秘めているからねー。☆1が☆5のキャラに勝つ時だってあるから、あんまりレアリティに重きは置かない方が良いと思うよ」


 そういえば最初のチュートリアル映像でも、同じことを言っていたな。


 そう。今ベルが口にした通りLCWは他のゲームとは異なり、ガチャが初回の一度しか引くことが出来ない。


 その代わりどんなキャラクターでも鍛え方や努力次第で最強になれる可能性を秘めている。


 その理由は初回ガチャで☆1を引いた人達が即ヤメしたりするのを防ぐためだろう。


 それに実際にチュートリアルで見た映像では☆1のキャラが☆5に勝つシーンも見かけたし、まぁ、レアリティは言わば飾りのようなもので、LCWにとって一番大事なのは本人の努力やそのキャラの個性をマスターがどう上手く扱うかにかかっているんだろう。


 それにLCWはギルティを自分と同化トゥラストさせて戦わせるわけだから、どれだけ強いキャラでも自分が上手く扱えなければそれこそ宝の持ち腐れってわけ。


 え?トゥラストってなにかって?


 まぁ、トゥラストについての詳しい説明は後程することにするわ。なげえし。


「--他に質問は?今私がガチャを直してる間に色々聞いておいた方が後々得だとは思うよー」


 そうだな・・・あと気になっている点と言えば、キャラに関しての重複くらいか。


「--じゃぁ、もし別のプレイヤー同士が同じギルティを当てたらどうなるんだ?ギルティの見た目や性格なんかも一緒になるのか?」


「いや、LCWプレイヤーが同じキャラを当ててもそのキャラの見た目が一緒になるわけじゃぁないわ。仮にプレイヤーAとBが共に初回ガチャでヴァルキリーを当てたとする。その二人のヴァルキリーは見た目や性格が全く違い、性別だって違う時もあるの。例えるなら人間という括りの中でも色々な性別や性格や容姿があるのと一緒。まぁ、種族みたいなものと思ってもらえれば分かりやすいかな」


 なるほど。


 だが、この話を聞けば安心だ。もしギルティが一人限定っていうのなら、俺がお目当てのギルティを手に入れることが出来ないかもしれないからな。



「フッフッフ・・・よし、完璧だ」


 ここまで説明すればもうお分りだろうが、俺のお目当はヴァルキリーだ。


 なんたってヴァルキリーはLCWで一番人気のギルティ・・・初回ガチャでコイツを引いてしまえば、最早上位LCWプレイヤーは確定ってわけ!


 また俺の好奇心に続くように、魔法陣を修理するベルから歓喜の声が上がる。


「あっ、治るかも!」


 ドボドボドボッ!


 魔法陣にお酢をぶっかけながらベルが嬉しそうに口にする。


 俺は見て見ぬ振りをして直った事実だけを喜ぶことにしようと心に決めた。


「--よっしゃぁ!ベル!それじゃぁ、早速ガチャを引かせてくれ!」


「任せなさい!あと、もうお酢使わないからあげる!旅のアイテムとして持っていきなさい!」


「いらん!」


 ベルはプンプンと口を膨らませていたが、誰も異世界の旅にお酢など持っていきたくない。


 俺は魔法陣の上に立ち、手の平を前に。


 その瞬間魔法陣のラインをなぞるように光が発せられ、俺の身の回りを眩い光が包み込んでいく。


 先程まで心の中にあった不安や迷いは、今となっては途方も無い希望やワクワクに変わっている。こんな喜びを味わったら、もう現実世界なんかいらないとすら思うだろう。


「さぁ、、、来い!俺のベスト・パートナー!!」


 ドンッ・・・!


 激しい音を立て、白い煙が俺の目前を包み込む。


 そして時間が経つにつれて薄れていく白煙。


 俺はこの時、正直な本音を言えばヴァルキリーは来ないだろうなと思っていた。


 引き寄せの法則しかり。自分が欲しいと思ったのものが来ないのはガチャの鉄則だ。


 だからこそ俺はこの時来ないと思い込むことにした。


 絶対来ない。いや、ほんと来るわけがない。俺の元にヴァルキリーが来るなんてほんと夢みたいな話しだからマジで。ハハッ。絶対☆1が来るから。


 シュゥゥゥッ・・・ハッキリと露わになっていく人影。腰まである長い髪。身体中を包み込む鎧のような衣服。そして背中からひょっこりと覗かせる、大きな太刀。


 おいおおいおいおいおい。


 これ、マジで来たんじゃねえか?


「お前がヴァルキリーか。・・・俺の名前は柊木禊。今日からお前のマスターだ。よろしくな」


 まだ姿も見えていないのに早とちりかもしれないが、俺は早めの挨拶でマスターとしての余裕をアピールすることにした。


 白煙の中に手を突っ込み、ヴァルキリーの肩を俺は優しく掴む。


 ・・・そう。この時までは、俺はヴァルキリーの肩を掴んだつもりでいたんだけどな。


「ひっく・・・ひぐっ、、、あだまうっだ・・・ででぐるどぎにあだまうっだぁぁぁぁ!!!!」


 けど、実際はなんかよく分からん変な奴が来た。

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