それでも少女は、死体を連れて
笠緖
序章
< 壱 >
満月に限りなく近い
透明な夜の南の空に、三ツ星が上がっていき、その近くで煌々と輝くのは
大陸のほぼ全土を支配する王朝・
月明りも満足に届かぬほどの深い森は、ホー、ホー、と梟の鳴く声が木霊しており、空駆ける冷たい風が気まぐれにザ、と強く吹く。立ち並ぶ木々の葉が、まるで何かに怯えたかのようにその身を大きく揺らしざわめいた。
街道から外れた森のほど近くにある小高い丘の上に、そんな木々の隙間を縫うように視線を潜らせている影があった。暗い森の中にちらりちらりと小さく集団を捉えた瞳はすぅ、と細まる。
時折、風に運ばれてくる音は、チリンと涼やかな鐘の音色。
そして、その音に負けないほどの、細く――けれど、響く声。
――
少女のようにも、未だ声変わりをしていない男児のようにも聞こえる甲高いその声は、暗い森に吸われ、その語尾をすぅっと溶かしていく。
――生きている者は、道を開けろー!
傲慢にも聞こえるその言の葉は、既に「魂」が抜けた「魄」のみの死の行進ともいうべき集団の穢れに生者が触れないようにするためだとも、すでに死者となった者たちを敬うためのものだとも聞く。
鐘と音と、その甲高い声に導かれるかのように、後に続く集団は
くん、と鳴らした鼻に、風に伴われたにおいが届く。
そのにおいは、
(これは……)
無意識に、唇の端が持ち上がった。
間違いない。
もう、間違いないだろう。
「やっと、見つけた……」
弧を描く唇が、狂気にも似た感情を孕ませた低い声を、そっと冷たい風に乗せた。
**********
それは、太古――この世界の天と地の境が曖昧だったころの名残ともいわれており、正しく「魄」が埋葬されないまま地上に残されると、凶暴な僵尸となり冥府に旅立つことも出来ず忌むべき存在になるという。
これは、そんな僵尸たちを率いる一族に育ったひとりの少女の、喧噪と愉快を段重ねにした
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