ジェムストーンズ1人目【ガーディマン】〜大切な人を護る為に甘えん坊は立ち上がる〜

七乃はふと

第1章 第1話 タイムリミットは目覚ましが鳴るまで

 僕の小さい頃の夢はガーディマンのようなヒーローになる事だった。


  今も覚えているのは、小学校の授業参観でそのことを発表した時の事だ。


  一際大きな拍手が聞こえて振り向くと、母さんが目尻に大きな涙を浮かべて笑顔で拍手していた。


  何も知らない小学生の僕は、とても喜んでくれていると思ったけど……。


 その涙の真意を知るのは、もっとずっと後のことだった。




  星空勇太ホシゾラユウタは夢を見ている。


  なぜ夢だと認識しているのかというと、自分の大好きなヒーローに姿が変わっているから。


  そのヒーローの名はガーディマンという。


 ユウタが子供の頃に放映され、二〇七〇年現在も絶大な人気を誇る特撮番組結晶鋼人ガーディマンだ。


  銀の装甲を纏う巨人に姿を変えたユウタが対峙するのは、全長七〇メートルを超えるワニのような怪獣だ。


  名前はメカキョウボラス。地球征服を狙うバッド帝国が送り込んできた最終兵器だ。


  なんでも噛み砕けそうな乱杭歯を生やした大きな口に、鋭い爪の生えた二本の手足と長い尻尾。


  最大の特徴は頭部に付けられたヘルメットのような制御装置だ。


  この夢、最終話さらばガーディマンだ。きっと寝る前に見たから夢にまで出てきちゃったんだな。


  ユウタはそんな事を考えながら、最終決戦で何が起きるか思い出し、そのシーンの通りに動く。


  大股で近づき、メカキョウボラスの頭部に鉤爪のようなパンチを左右交互に繰り出していく。


  ユウタの攻撃で、メカキョウボラスの頭部の機械にヒビが入り破損する。


  この後のパンチは受け止められるっと。


  予想通りに槍のような真っ直ぐな右パンチは受け止められてしまった。


 で、右手の爪で引っ掻いてくるっと……ほら来た!


  何度も見たシーンを間違えるはずもなく、顔に迫る攻撃を左肘で弾き飛ばす。


  次に左のチョップでメカキョウボラスの左腕を打ち、掴まれていた自分の右手を解放させた。


  メカキョウボラスが口を大きく開けた。


 噛みついてくるな。よし来い!


  それをしゃがんで避けると、そのままバネのように跳ね上がって渾身の左アッパー。


  左拳は見事に下顎を打ち抜いた。


  メカキョウボラスはよろけて後退する。距離が離れた隙にユウタは透視して弱点を探る。


  頭部の制御装置なのは分かってるけど……うんやっぱり。


  弱点を見つけ、ユウタは周りにいる防衛軍に指示を出す。


「頭部が弱点です。攻撃してください!」


  周りで戦いを見守っていた防衛軍が攻撃を開始し、爆煙に包まれたメカキョウボラスの頭部が砕け散った。


 でも、これで終わりじゃないよね。


  その後の展開を知っているので、爆煙が晴れる前にそこに左手を突っ込む。そして予想通りの物を見つけて、掴み、思いっきり引きちぎった。


  左手に持っていたのは、マッチ棒の先端のような光線発射装置だ。


  それを握りつぶして地面に捨てる。


  危ない危ない。これ撃たれると、テレビのユウタかなりダメージ受けてたからね。痛いのは勘弁。


  最後の攻撃方法を失ったメカキョウボラスは動かなくなったが、もちろんユウタはそれで終わりでない事を知っている。


  この怪獣は自爆するから……よっと。


  周りで勝利を確信する防衛軍兵士たちを尻目に、ユウタは棒立ちのメカキョウボラスを持ち上げ、夕陽の空に向かって飛び上がった。


  高度十万メートルで停止し、メカキョウボラスを上に向かって投げつける。


「これを食らえ。ミドラルビーム!!!」


  左腕に全身のエネルギーを溜め込み、胸の前で両手を打ち合わせる。


  すると、目の前に緑色の凝縮されたエネルギーの球体リームボールが現れた。

 

  その球体に向かって、両手を勢いよく前に突き出す。


  発射されたエメラルドグリーンのビームが、夕陽に染まる空を切り裂きながらメカキョウボラスの体を包み込み、これを爆砕した。


  怪獣を倒してもまだ終わりではない。ユウタは高度四〇万メートルに鎮座する敵の母船に急行する。




 熱圏にいたのは、楕円形の鏡のように磨き込まれた円盤だった。バッド帝国の母船である。


  母船はユウタの事など眼中にないように、空間に穴を開けてそこに逃げ込もうとしていた。


  逃すか!


「来い。拳銃戦艦ガーディバスター!」

 

  ユウタの呼びかけに応じて現れたのは、全長一〇〇メートルの大型飛行戦艦だ。


  その赤い船体はリボルバーを巨大化させ、グリップやハンマーの代わりに三つのブースターが縦に付いている。


 船体中央にはスペシャルウェポンを格納整備する銀色に輝くシリンダーハンガー。


 銃口はスペシャルウェポンを射出するレールカタパルトになっている。


  ガーディバスターは、戦艦形態から拳銃形態に変形、後部ブースターの上部側面にT字の形をした銀色のハンドルが現れた。


  ユウタはそのハンドルを力の限りに引っ張る。


  完全に引き切ると、銀色のシリンダーが高速回転を始めエネルギーをチャージし始める。


  次に船体下部に現れたのは、猛禽類の爪のような形をしたシルバーのトリガーだ。それを左手で握り、ガーディバスター本体を肩に担ぐようにして固定する。


  「これで終わりだバッド帝国! ファイナル、ガーディ、バスター!」


  ユウタが左手でトリガーを引くと、チャージしたエネルギーが銃口から発射。


  放たれた青白い光線は、ユウタを飲み込むほどの大きさで、ワープしようとしていた母船に直撃し、中心部に大穴を開ける。


  各所から小爆発を起こして穴だらけになったバッド帝国の母船は、光を放出しながら大爆発を起こした。


  太陽のような閃光が消えた後には、真空の宇宙空間に破片一つ残っていなかった。


  どうだバッド帝国め! 正義は必ず勝つんだ!


  自分の行動に満足感を覚えていたユウタの耳に聞こえてきたのは、現実に呼び戻すアラームだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る