第17話 動いた本棚

「そうか。まあ、現場で解ることと解らないことがあるからな。月岡、お前はどうだ」

 さっきからどこを見ているだと、麻央が訊く。すると本棚の位置が昨日と違うと指摘した。

「本棚」

「あ、本当だ」

 昨日、しんどい思いをして運んだから覚えている。本棚は入り口近くに置いたはずだった。それが今、どういうわけか被害者の倒れている部屋の真ん中寄りにある。どうしてだろうか。動いたのは三十センチほどか。

「本棚か。凶器に使えるが、しかし本は綺麗に入ったままだな」

「ああ。だからなぜかと思っただけだ」

 犯罪に関係あるとは言っていないと、翼は冷たい。しかし何かに気づいているのか、目が鋭かった。翼は不確かなことを口にしたがらない傾向がある。

「警部」

 そこに先ほど派手に転んだ洋平が、何かを抱えてやって来た。それはバケツと砂の入った黒いビニール袋だった。

「それは何だ」

「はっ。この校舎から少し離れた場所に落ちていました。何やら不審物ということで、大学の関係者が知らせてきたものですが、中身はこのように砂です」

 洋平は中身を手袋した手で開示してみる。その中身はたしかに砂だ。それもその辺から拾ってきたものをビニール袋に詰め込んだのだろう、落ち葉や根っこも含まれている。

「窓が割れているからな。関係あるかもしれない。鑑識に回しておけ。これが凶器かもしれないからな。よし。こんなものだな。では関係者の聴取と行くか」

 現場の状況は頭に入ったなと、麻央はバケツを見て黙り込んだ翼と、状況が飲み込めないなと首を捻る昴に向けて、取り調べにも付き合うように言うのだった。




 取り調べには会議室が使われることになった。麻央が真ん中に陣取り、その横に昴と翼が座ることとなった。そして三人から少し離れたところに利晴が立つ。

 今回の事件の関係者及び被害者のプロフィールは、取り調べの前の麻央がざっと見せてくれた。それによると、被害者の菊池藍はここの研究員である。つまり学生ではなかったのだ。見た目が若々しかったので学生かと昴は思っていた。

 そして研究員の長である二宮慶太郎。翼と同い年の三十二歳。ショックが大きいようで、酷く落ち込んでいた。それは当然だろう。他にも色々な思いがあるのかもしれない。

 そして第一発見者の宮崎崇司はこの研究室で卒業研究をしている四年生だ。他にも大学院生や学部生がいるのだが、取り敢えずは事件に関係があるのは彼だけである。

 もう一人は山田信輔という研究員で、研究室の中では年長の二十七歳。ポスドクであり、もうすぐ任期が迫っているということで、朝から研究に追われる予定だったということだった。

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