第39話 もう一人の学園一 ④

 俺たちは後ろの席のドア付近に集まっているせいか、廊下側の音も良く聞こえてくるようで、聞き覚えのある声が教室に近付いてくるのが分かった。


「ねえ、上級生の教室にいきなり行くのは止めようよ」


「美冬ちゃんのぉ、お兄さんもいるんだしぃ大丈夫ですよう」


 ――ん? 今、美冬って聞こえたような……気のせいか?


「冬人せんぱあーい、遊びにきましたあ」


 教室の後ろのドアから躊躇なく一人の女子生徒が教室内に飛び込んで来た。緩いパーマをかけた見覚えのある可愛い女子生徒が俺の腕にしがみ付いてくる。


「夏原⁉︎ 美冬も? 二人とも何しに来たんだよ?」


 妹の美冬は教室のドアに隠れて廊下側からこちらを伺っている。


「もちろん、冬人先輩に会いに来ましたあ」


「私は止めようって言ったんだよ? でも奏音ちゃん冬にいがいるから大丈夫って」


 美冬は申し訳なさそうに周囲を気にしながら教室に入って来た。うちの妹は身内贔屓みうちびいきを差し引いても美少女だ。教室に入ってくるなり男子生徒の注目の的となった。


「あの二人メチャ可愛いけど何?」

「咲間に続いて、またアイツのとこかよ」

「一年生みたいだけど、どういう関係? アイツの彼女? 腕組んでるぞ」


 突然乱入してきた美少女二人に再び教室内が騒ぎ始めた。


 春陽、美冬、夏原とタダでさえ注目度が高い美少女が三人も揃ってしまい大介、誠士を加えて、秋月、桐嶋に続き俺の周りは第三の人集ひとだかりになってしまった。


 何気なく秋月を囲む集団に目を向けると……彼女と目が合う。その目はジト目というのだろうか、呆れてものが言えないといった感情が込められているように感じた。


 その直後、ガタンとイスを鳴らし秋月が席を立った。


「ごめんなさい。ちょっと席外します」


 そう言って秋月は教室から出て行ってしまった。トイレかなんかだろうか?


「あ、美冬ちゃん久しぶり! 同じ高校に入学したって話は聞いてたよ! また一緒に遊びましょう!」


 春陽は中学生の頃に何度も妹と一緒に遊んだ事があり、美冬との再会に喜んでいるようだ。


「春陽さんお久しぶりです! これから一緒の学校なのでまた仲良くして下さいね!」


「うん! よろしくね! ところで……あの子は誰かな?」


 春陽が俺の腕にしがみ付いている夏原を指差す。


「私のクラスメイトです。お兄ちゃんと同じ教室に通ってて同じコースを受けてるって言ってました」


「あーイラスト教室の……またライバル増えちゃうのかあ……」


「春陽さん何か言いました? ごめんなさい……ちょっと聞き取れませんでした」


「う、ううん、何でもないよ。気にしないで」


 春陽が俺と夏原に歩み寄り近付いてきた。


「初めまして。私は咲間春陽っていうの。冬人の幼馴染みみたいなものかな?」


 夏原に幼馴染みと自己紹介する春陽だが、中学からの付き合いだから幼馴染みっていうほどでも無いような気がする。


「はじめましてぇ、夏原奏音なつはらかのんでえす! 春陽さんですかあ……素敵なぁお名前でえす! それにい、ショートカットがとてもお似合いですう!」


「奏音ちゃんて言うんだ? 奏音ちゃんもすっごくカワイイね!」


 春陽はショートが似合ってると夏原に言われてご機嫌のようだ。


「はあい、高校にぃ入学する前わあ、結構地味だったんですけどお、冬人先輩の為にぃ頑張りましたぁ!」


「そっかあ、冬人の為に……奏音ちゃんはカワイイけど……負けないからね!」


「春陽先輩だってえ素敵ですけどぉ、私もぉ負けませんからあ!」


 お互い何に対抗心を燃やしているのか分からないが、キャッキャと女子トークに華を咲かせる二人は、秋月の時と違って相性が良さそうで安心だ。


「春陽さんといい奏音ちゃんまで……冬にいが知らない間にモテモテに……」


 美冬が何か勘違いしているようなので、誤解が無いようにキチンと説明しておく必要がありそうだ。


「美冬、勘違いするなよ。夏原のアレはイラストの技量に対してのクリエイター特有の憧れみたいなもんだからな。春陽は幼馴染みの腐れ縁みたいなやつだよ」


「はあ……春陽さんも苦労しそう……冬にいの朴念仁ぶりも大したもんだよね」


 美冬にまで朴念仁呼ばわりされた上に、溜息まで吐かれるとは少し悲しくなってきた。

 このままだと実際の自分とかけ離れた俺のイメージが、友達やクラスメイトに定着しそうだ。それは平穏な学園生活を送る為にも絶対に阻止しなければいけない。そう固く心に誓う。

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