第9話 あくびが出ちゃうほどにつまらない演説だぜ
二人の白衣を着た男は、机に座った初老の老人に向かい合うように並んで立っていた。
至る所にいろんな額縁やトロフィーが並んだ四隅で小さく囲まれた会議室の空間。
一人の白衣を着た男は、丸メガネにぼさぼさの髪と生気を感じられぬ目をしていて時折、頭をぼりぼりと搔いていた。
もう一人の白衣を着た男は、キツネみたいな細い目つきだが、その細い目つきの奥には何か分からぬ妖艶さを感じさせていた。丸メガネの男とは違い、きれいに整えた黒いロングヘアーをしていて、初老の男にきちんとした姿勢で話を聞く体制をしていた。
初老の男は、口を開けた。
初老の男「君たちに集まってもらったのは、今度行うとあるプロジェクトについてだ。そこで新しく行うプロジェクト、東大テンダー計画東大合格者10人排出プロジェクトに対する二人の意気込みを聞きたい。まず、新海くん君の意見だ。」
初老の男は、キツネみたいな目つきをした男、新海に話を振った。
新海「企画書はすでに読んであります。要するに、進学校でもなんともない高校や予備校から、自分の判断で生徒10人を選出し1年間で10人の東大合格者を選出しろって事プロジェクトですよね?金田名誉教授」
新海は、初老の金田名誉教授に質問を返した。
金田名誉教授「さすが、新海教授だね。良く企画書を読まれてる。ただね。私は質問したのは、企画書に書いてあった事をまとめろって事ではなく、意気込みを聞いているのだが、つくづく君は嫌味なやつだね」
新海は軽く頭を下げた。
新海「失礼しました。私のこのプロジェクトに対する意気込みは、東大合格者の私の観点から見た、東大合格に必要な最短の効率的な指導の下、東大合格者10人を達成しみます。過去の東大受験の過去問から不必要な勉強を除き、私がこのプロジェクトの為に作った最短距離効率的東大合格テキストを使った指導の下、このプロジェクトの成功を金田名誉教授にプレゼントしたいと思います」
新海は金田名誉教授に向けて流暢に語った。
それを隣で聞いていた、丸メガネの男があくびをしながら言った。
「なんか、新海ちゃんの演説聞いててつまんなくてあくびでちゃった」
その言葉聞いて、新海と金田名誉教授は、丸メガネの男に強い視線を向けた。
金田名誉教授「じゃあ、八木教授。君のこのプロジェクトに対する意気込みを教えてくれないか?」
金田名誉教授は、丸メガネの八木教授に問いかけた。
八木教授「新海ちゃんのやり方はさ。聞いてて、なんか東大合格ロボット製造工場みたいなやり方じゃないすかあ。僕なら、そんなロボット製造工場みたいなやり方じゃなくて、なんかほかの人がやったことのないようなユニークなやり方で、勉強の本当の楽しさを感じてもらいながら、気づいたら私、東大合格しちゃいましたー。的なやり方やりますよー。だって、新海ちゃんみたいなやり方で東大合格したとしても、クイズ番組に東大生代表として出ても通用しなそうじゃないすかー」
八木教授は、気だるそうな感じで新海教授と金田名誉教授に向けて語った。
それを聞いた、金田名誉教授は笑いをこらえきれなくなったのか
噴出して笑った。
新海教授は唇を噛みしめて、拳を力強く握りしめて、小刻みに震えていた。
金田名誉教授「本当に君は面白い。この東大テンダー計画の指導者は、八木教授君に任せた」
それを聞いた、八木教授は気だるそうな感じで
「はーい」
とだけ返事をした。
隣で、新海教授は、何も言葉を発せず、拳を力強く握り締める事しか出来なかった。
こうして、東大テンダー計画は始動した。
1年後のプロジェクトのたった一つの失敗が出てきて
そのたった一つの失敗が、白衣のプライドの塊を粉々に砕くとは、この時、誰も思わなかったであろう。
つづく
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