第24話

「つまり、教官殿も長州の御仲間も、全く反省も後悔もしていないという事ですね。

 あの時と同じように、天皇陛下の御政道が気に喰わなければ、宮城に砲撃を加える気持ちに変わりはない。

 そう断言なさるのですね!

 他の教官殿達も、同意見なのですね!

 校長殿も、天皇陛下の御政道が気に喰わなければ宮城に砲撃を加える、長州の私兵士官を育てる教育方針なのですね」


「黙れ、黙れ、黙れ!

 賊軍が聞いた風な口を利くな!

 貴様らは叛乱軍で、我ら長州が皇軍なのだ!

 朝敵はこの場で斬り殺してくれる!」


 長州っぽの目に狂気が見える。

 この身勝手な狂気ので、孝明天皇陛下を謀殺し、この国を奪ったのだ。

 このまま座していれば、無為に殺されてしまう。

 この身はこの場で果てようとも、一人でも多くの腐れ外道を道連れにする!


「叛乱だ!

 士官学校教官による叛乱計画だ!

 蛤御門の変のように、宮城を攻撃する心算なのだ!

 我ら生徒を騙し、今上陛下に銃を向けさせる心算なのだ!

 真に今上陛下と皇国に忠誠を誓う者は、謀叛を扇動する教官を許すな!」


 戸田が生徒達に檄を飛ばした!

 俺を見殺しにしないためなのか?

 それとも幕閥として今が勢力を伸ばす好機と考えたのか?

 俺にとってはどちらでも構わない。

 こんな所で無駄死にしたくないから、戸田を頭にして動こう。


「そうだ!

 我らは今上陛下と皇国の臣下であって、長州の私兵ではない!

 宮城を砲撃すると公言する教官を許すな!」


「待てえぇぇぇ!

 井上の言う事は井上の私見だ!

 我ら教官の総意ではない!

 校長の考えでもない!

 軽挙妄動は止めよ!」


 長崎教官が止めに入ったが、口先だけの事だろう。

 長崎教官も長州閥の一員だ。

 奴らは士官学校と幼年学校を牛耳り、自分達に都合がいい思想で生徒を洗脳する心算なのだ。

 だが戸田の舌鋒がそれを許さなかった。


「詭弁は止めていただきたい、長崎教官殿。

 教官殿達が本気で井上の教官の意見が間違っていると思っているのなら、宮城を砲撃すると言った井上教官を拘束すべきでしょう!

 それを拘束もせず、我ら生徒だけを止めようとする。

 長崎教官もここにいる他の教官も、全員井上教官と一味同心でしょう。

 今上陛下が自分達の意にそわない時は、蛤御門の変と同じように、宮城に砲弾を撃ち込む心算なのでしょう!」


「違う!

 我々は絶対にそんな事はせん!

 我々教官団は、今上陛下と皇国に役立つ士官を養成しようと努力してる」


「では何故、宮城に砲撃したのが正義だという井上教官を拘束しないのですか!?

 一味同心の叛乱団だからでしょう!

 長崎教官殿の縁者にも、宮城に砲撃してた蛤御門の変に加わった、謀叛人がいるのではありませんか!

 しかも未だにそれを誇っているのではありませんか!

 それは今上陛下と皇国に忠誠を尽くしているのではなく、長州の私利私欲以外の何物でもない!」

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