櫻井龍騎3
兵営に戻って直ぐに、連隊長閣下に御会いしたいと願い出た。
私のような下士官の願いを、連隊長閣下は直ぐに叶えてくださった。
私が父母と共に直接御屋敷に伺って御礼を申し上げたいと言うと、苦笑いを浮かべながら認めてくださった。
後に古参下士官や古参従兵が、連隊長閣下は仰々しい事は嫌いだが、年長者の願いを無碍にしないのだと教えてくれた。
だが同時に、もう二度と連隊長閣下を煩わせるなとも注意された。
連隊長閣下にも色々あるそうだ。
特に会津人を庇っている事は、長州閥の陸軍では知られてはいけない事らしい。
私は激しく自己反省した。
恩人を危地に追い込むなど、人として恥ずべき事だった。
だが一度願い出て許された事を、今更取り止める事などできない。
最初で最後の御礼のため、精一杯の身嗜みを整えた。
近衛師団は、一般師団とは軍服が違っている。
一般師団の将校准士官は、第一種帽のクラウン部が濃紺(黒色)絨。
一般師団の将校准士官下士卒は、第二種帽の鉢巻部が黄色。
一般師団騎兵の下士官兵の胸飾紐(肋骨服)が黄色。
だが近衛を冠する師団は、上記の部分が緋色になっている。
特に近衛騎兵は、観兵式など式典における儀仗部隊とされたいた。
だから一般師団の騎兵下士官兵用のドルマン式ジャケット(肋骨服)が廃止された後も、近衛騎兵下士官兵には近衛騎兵供奉服として、ドルマン式ジャケットが支給され続けていた。
そして支給される軍服も、一般師団が外出や儀式用に程度のよい中古品が第二装として、普段の勤務や訓練用に着古したり傷を補修したりした中古品が第三装が支給されているのに、近衛師団は御守衛勤務があるため、今上陛下の眼に触れても見苦しくないように、一般師団では出征時や戦地の勤務用に支給される、新品または新品同様の第一装が支給されていた。
俺はその第一装を身に付けて、父母は会津人の繋がりで借りた礼装を身に付けて、連隊長閣下の御屋敷に伺う事にした
だがその途中、女衒に攫われそうになっている女の子に出会った。
会津人として、いや、人として絶対に見逃すわけにはいかない。
例え大恩人である連隊長閣下との約束に遅れようともだ!
「貴様ら何をしておる!
それでも日本人か!
恥を知れ、恥を!」
軍隊で鍛え上げた裂帛の気合で気勢を制した。
相手は十数人いる。
軍隊で鍛え上げた肉体は、少々の相手には後れを取らない。
だが、相手も徴兵経験のある予備役兵の可能性がある。
女衒をやっているから、下士官に昇級しているとは思えない。
だが、年齢から言って、日露戦争に従軍している可能性がある。
実戦経験者は気をつけなければならない。
だからこそ、有利に立つために一喝必要なのだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます