平和な一日
「――あ、兄ぃ。イノライダーさんも」
「あれ、カシス。なにしてんの?」
それぞれ意外そうな顔でテーブルに寄ってくる。
「うへへ、今日もエロい腰つき……あれ、隣の美少女ちゃんは知らない顔ッスね?」
「この子はライチ。私の友達で、そこのカシスくんのお姉さんなんですよ」
イノライダーとライチがそれぞれ名乗り合っていた。その間にエイジャがタキシードを抱き上げて、代わりにその席に座る。すると丁度カシスの隣にエイジャが座る形となって、カシスが「こ、こんには。エイジャちゃん」と緊張して声を掛ければ、エイジャも「こんにちは」とにこやかに返すのだった。
すぐにその二人の向かいにイノライダーとライチが座って、五人でテーブルを囲う格好となった。ライチがカシスに向かって不思議そうな顔になる。
「カシス、午後の仕事はいいの?」
「ああ、うん。しばらくは雑草と、来季は寒くなりそうだからその準備だけ。今日はもう終わりだよ」
「サボってると、またお父さんに叱られるかもよ〜」
「仕事はやってるって。ねえちゃんが余計なこと言わなければ大丈夫」
そんな事を話す二人に、イノライダーが声を上げる。
「お、少年はもう仕事終わりッスか? じゃあエイジャちゃん達も帰ってきたことだし、宴会といきますかぁ~っ!」
クァ~ンと、レストレイドが
「――昼からずっと果肉亭におるやん。まだここで飲み食いする気なんか?」
宿敵とはいえ、さすがに
「私達お昼食べてないから、久しぶりに頂上で食べようよ。そしたらレストレイドも遊べるでしょ? ……おじさーん、お弁当二人分くださーい!」
「いいね、いいね。じゃ、あたしちょっと荷物置いてきちゃうわ」
「あ、あ。じゃあ自分、お酒とおつまみが欲しいッス! あとレストレイド用の骨も追加で!」
「なぁなぁ、カシス。キャットニップあらへん? この前貰ったのもう終わってん」
「あー……まだリンゴ畑の近くに少し生えてると思う。取ってくか?」
五人と一匹は、夕方前にベリーヒルの頂上に着き、随分と盛り上がった。
イノライダーがエイジャを酔い潰そうと頑張っていたが、彼女の驚異的な酒の強さの前に、あえなく返り討ちになっていた。
レストレイドは首紐を外され、タキシードと思う存分追いかけっこをしたり、カシスと「取ってこい!」ゲームを堪能していた。
ライチはタキシードを捕まえて撫で回したり、レストレイドで同じ事をしたり、エイジャでも似たようなことをして楽しんでいた。そのじゃれ合いにイノライダーが参入したりと途中から随分と
カシスは飲み物と食い物のパシリにされていたが、その度に身体を動かしたいレストレイドが同伴したので、カシスもそれなりに楽しそうだった。彼は犬が好きなのかも知れない。
タキシードはカシスから貰った新鮮なキャットニップでご満悦。
気が付くと街に明かりが灯り始め、一同はタキシード探偵事務所に場所を移し、しばらく妙なテンションではしゃぎ続けることになった。
やがて、午前中を歩き回っていたライチとエイジャは疲れたのか、ほどなくして同じベッドで寝た。
タキシードはベロベロになったイノライダーの宿泊を渋々許可する羽目になったが、彼女はエイジャに潰されていたので静かなものだった。ソファーをひとつ占有して寝ている。ワインの瓶を大事そうに抱えて。
さすがカシスは体力があった。なかなかお酒にも強い。自宅にライチの外泊を知らせに往復してから、夜遅くまでタキシードの話し相手になった。レストレイドはカシスを気に入ったらしく、彼に撫でられたりしながら、チラチラとタキシードに視線を送っていた。
仕方がないのでタキシードはレストレイドの頭の上で垂れて通訳となり、カシスに彼の声を教えてやると、カシスは初めは動物の声を聞かされるという珍事に唖然としつつも、興味深そうにレストレイドの愚痴を聞いていた。曰く、「カシス、行き遅れる前にイノライダーを貰ってくれ」だそうだ。
思わぬ結論に「にゃはははは!」というタキシードの笑い声が事務所に響いた。レストレイドも苦労人だ。
黒猫探偵のオフ日は、こうして平和に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます