猿回し
――そして。
「ううーん……」
レストレイドに連れられていたエイジャもまた、唸ることになった。
ここはステファンの家。すなわちマリーの家だ。これにて一同、スタート地点までUターンしてきたことになる。
「なにこれ?」
タキシードが首をひねった。レストレイドがエイジャを玄関まで引っ張っていく。エイジャが促されるままに玄関をノックすると、すぐにステファンが出てきた。
「――っ! 娘は、マリーは見つかったんですか⁉」
「いえ、それが……」
口
すぐにタキシードが不審な音のするドアの前で立ち止まると、後ろから追いついてきたイノライダーが「ここッスね」と言いつつドアを開いた。すると、中には手足を縛られ、猿ぐつわを噛まされた状態の少女が。
「――マリー!」
そう言って部屋に飛び込んだのはステファンだ。そこにエイジャが続いていき、マリーの手足の拘束紐を腕力に任せて引きちぎってやった。
なにがなんだか分からないタキシード。
「――ま、まぁ、一件落着……なんかな?」
一瞬、父のステファンが黒幕なのではという推理が浮かんだが、抱き合って泣いている二人を見るとその可能性は皆無に思えた。その時、レストレイドがタキシードの隣に座り、鼻をぶつけてきた。
レストレイド曰く、マリーの追跡中に別の匂いも混じっていたらしく、この部屋にもその匂いがある。廊下は臭わないので、誰かが窓からマリーを運び込んだのだろう。とのことだった。
「――なぁ、自分、誰に助けられたん?」
マリーは喋る猫を見て一度だけ小さく肩を震わせたが、すぐに「白い鳥さんが……助けてくれました」と言った。タキシードとエイジャは顔を見合わせて、はてなと首をひねった。
結局マリーは、タキシード達が何もしなくても助かったということになる。タキシード達はただ犯人と謎の第三者の影を追って街をぐるぐる回っただけ。
「これじゃあ猿回しの猿やんか、ワシら……」
そう独りごちて、タキシードは天を仰いだ。
マリーはまだ気が動転していたので、残りはイノライダーに任せることにしてタキシードとエイジャはその場を後にした。案外、イノライダーは仕事を始めるとテキパキと手際よくやっていた。
そうして夜の街を歩くエイジャと、彼女をエスコートするタキシード。
「白い鳥さんって、誰だろうね。兄ぃ」
「鳥さんねぇ……」
翼が生えている人間は、たまにいる。先祖返りなのだが、彼らは空を飛ぶことはできない。タキシード同様、大変目立つのですぐに特定できるだろう。ただし、エイジャが使う変装用の
その人物はどこでマリーの事件を知ったのか。なぜマリーを助けたのか。謎のヒーロー像は全くの霧の中だった。
あの犯人達の目的も不明だ。バミューダにしては珍しい悪党な雰囲気が感じられたが。人
――これはきっと、どこかの街から流れてきた犯罪者集団と、それを追ってきた名もなきヒーローが秘かにバミューダで抗争を開始したに違いない。
世の謎を解明する探偵タキシード、苦し紛れの推理だ。
――まぁ、あとはイノライダーに任せておこう。
こうなると完全に事件なので、いくらなんでも警察も本腰を入れるだろう。
「――今日はレストレイドとあんまり喧嘩しなかったね、兄ぃ」
「仕事やからな」
「ふふふー。またまた〜。途中から息ぴったりだったよ」
ニヤニヤと含み笑いするエイジャ。タキシードが慌てた様子で彼女を見上げて声を上げる。
「なんか誤解しとるみたいやけど……レストレイドのこと、ほんまに嫌いやからな、ワシ!」
「はいはい」
「ちょ、ちょっとまってエイジャ。ほんまに――」
「そういうの、ツンデレって言うんだって」
イライラとしっぽを振り出したタキシードを、謎の単語で遮ったエイジャ。
「ツンデレ……意味は分からんけど、そう言われるのがなんか腹立たしい……」
「あ、ご飯食べて帰ろうよ。あそこあそこ。外で食べれそう」
そう言ってタキシードをひょいと抱えたエイジャ。彼女の腕の中で美味しそうな匂いにクンクン鼻をひくつかせたタキシード。
彼の探偵としての真面目な思索は、今晩のメニューを想像する作業で上塗りされていった。
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