バミューダの伝説
「所長さんとお似合いの、美しい黒髪。切れ目がちながらもヘーゼルナッツのように綺麗な瞳。小さくて可愛らしい口。しなやかな身体。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ、どんな男も悩殺できる
「自分、エイジャのことそんな目で見とったんか」
「おほん」と咳払いしたメルカトルが、ジト目になったタキシードに続ける。
「――彼女は箱入りで、生まれてこのかた、ほとんど外に出たことがなく、そう言った点で少々世間知らずかも知れません。しかしそのおかげもあってか、バミューダ全般に
するすると出てくるメルカトルの
「――あと、子供は最低でも六人は欲しいと言っておられましたね」
「んん……ちょっと多いなぁ」
タキシードは器用に腕を組んで悩んだ。聞く限り理想的ではないだろうか。特に強さ至上主義でないのがいい。もう強すぎる女たちはお腹いっぱいのタキシードなのだった。子供願望が強すぎるのがちょっとあれだが、まぁそこはロザリアンの女性ならば仕方のないこと。
目を閉じて唸るタキシードに向かってメルカトルが続ける。
「家柄も確かですよ。その方は貴族街に住む
「ほんなら、
二人が同時に声を出して、お互いに黙り、そしてメルカトルが先に口を開く。
「――猫です」
「猫かいっ! わざとぼかして言うとったな、自分……」
声を上げて笑うメルカトルと、途中からなんとなく予想していたタキシード。
「あっはははは! ……すみません、でもそういう話は確かにありましたよ。同じように正体をぼかして所長さんを話題に出したところ、その飼い主が是非にと」
「――猫はパスや。猫を愛せる奇特な女も、興味はあるが今はパス。とにかく
「バミューダの伝説ですね。僕はおとぎ話だと聞かされて育ちましたが……」
バミューダの伝説。
バミューダは南、北、東に市街地を
それぞれの市街地にある碇石はかなり大きいらしいが、それでもこれだけ広大な土地を留めるとなると、どう考えても三つの碇石だけでは足りていない。
そこでまことしやかに囁かれる噂があった――このバミューダは、その
その根も葉もない噂を補強する話があった。それはかつて〈
肝心の
――
「これまで長く探しましたが、ここまで手がかり無しとなると、地上は難しそうですねぇ……こうなると、あとは地下とか……」
メルカトルが
「――お、エイジャや。誰かを連れて帰って来たみたいやな」
「相変わらず耳がいいですねぇ、所長さん」
「おお、ワシの耳は今日もびんびんやで」
タキシードの耳がピコピコと揺れた。それを見たメルカトルの顔に、ちらりとダークサイドの色が浮かんだ。
「その力で、また今度よろしく頼みますよ」
「ふっふっ。任せておけ……ワシの耳にかかれば内緒話なんぞ筒抜けや」
タキシードとメルカトルは二人揃って悪そうな顔で含み笑いした。
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