悪夢の少女
下川科文
王都の悪夢
第1話 旅立ち
「父さん!父さん!...」
自分の泣き叫ぶ声が細く響く。騎士の一人が言う。
「ウォゼフ夫人、申し訳ない…私がついていながら。」
父さんの旧友で、騎士団の団長であった父を支えていたトゥーティさんだ。
「いいえ、謝らないでください。副長であるあなたのことを、主人はよく申しておりました。あなたと共に闘い、国の為に死ねるのが私の本望だ。と。」
俺は不意にもわなわなしていた。拳を握り、力強く言った。
「母さん、トゥーティさん、俺も、俺も騎士になる…!」
母さんとトゥーティさん、一緒に居合わせた騎士の数人にどう思われたのかは察しがつかないが、驚かれたことは確かだろう。
「アタッカ。あんなに騎士になることを拒んでいたのに。」
母さんは落ち着いた様子で、又、安堵するような声音で言った。
そう、俺は今迄 父さんに言われ続けてきた。「お前もいずれは父さんと同じ騎士団に入団するんだ。王国の平和と繁栄に身を捧げ、強い人間になるんだ。大切なものを守る為に。」と。それに対して俺は反抗し続けていた。「人を殺してなにが平和だ!語るなよ…この人殺し。…!」___俺は後悔した。自分の命を賭してまで多くの命を守うとした父さんの覚悟に、勇気に、気づけなかった。
「トゥーティさん、俺を騎士にしてください!俺も父さんみたいになりたいです...!」
俺は真っ直ぐに、トゥーティさんに告げた。トゥーティさんは面喰らったような顔をしたが、いつもの勇ましい顔に戻って俺にこう言った。
「分かった。来年、入団試験を受けるんだ。待ってるぞ!」
「はい!」
あれから1年程の月日が経った。
「母さん、行ってくる。」
16歳になった俺は、生家を離れ、王都グラディオソへ向かうことにした。そこでトゥーティさんは俺を待っている。
「気をつけて。いつでも帰ってきていいのよ。」
「ありがとう、母さん。でも騎士になるまでは帰らない。父さんにも顔向け出来ないし。」
母さんは暫く沈黙した後に言った。
「分かったわ。でも体は大切にね。」
「うん…じゃあ。」
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