何て言うスキルをもらったんだっけ?
石室を出るとすぐに上へと向かう階段があり、その先には外界のものと思われる光が見える。
「……この部屋は地下にあったんだなぁ」
長くない石段を登りながら、俺はそう独り言ちた。
実際、ここを訪れる冒険者なんて何人いる事だろう。
やたらに高いお布施と言う名目の登録料を考えれば、「ゴッデウス教会での記録」と言う
そしてその難易度を考えれば、記録出来た冒険者なんて極々僅か……いや、ひょっとすれば、今までで俺だけかもしれない。
それにこんな始まりの街で、駆け出し冒険者が大枚はたいて「記録」なんてするわけがないよな。
そんな事を考えていると、すぐに石段の最上部まで辿り着いた。
「ふぅ―――……」
たった二十数段の石段を上がっただけでも、俺は大きな溜息を吐いてしまった。
明らかに筋力が落ちてる……。それに持久力もだ。
まだ試してはいないけれど、恐らくは俊敏性も低くなっているだろう。
俺の感覚では、ほぼ間違いなく身体能力全般が大きく落ちていると自覚せざるを得なかった。
「若返れば、体は軽くなる」なんてのは、老人たちが口にしている嘘っぱちだな。
体力も筋力すら衰えた老人とすれば、若返る事で体も軽くなる事だろう。それまでの運動機能が著しく低下してるんだから、それは当然と言える。
でも俺がここに戻されるまで、30歳でレベル85の、正しく脂の乗った一線級冒険者だったんだ。
筋力……体力……瞬発力。
どれをとっても衰えるどころか、人間が人生で一番充実した刻を迎えていたと言っても過言じゃない。
それに比べれば、ただ単に年が若いだけの身体なんて歯がゆいぐらいに未熟以外の何ものでもなかった。
「……当分は適度なレベル上げと、宿屋での鍛錬。これの繰り返しだなぁ」
地味だが、それを愚直に繰り返す以外に強くなる方法は思いつかなかった。
パーティを組んでいれば、自分のレベルよりも少し上の魔物と渡り合う事が出来る。
それにより必要な筋力や体力を底上げする事が出来るだろう。その内レベルも上がり、全体的な能力も高まる筈だ。
でも、パーティを組むまでの最初の頃だけはそうもいかない。
弱い敵を只管倒し、時間をかけてレベルを上げるか。
時にそこそこの敵と戦い、決して無理はせず、多くの時間を安全な街中で筋力や体力をつける事に使うか。
今俺の採れる手段は、その2つに1つしかない。そして俺は、後者を考えていた。
パーティを組んでもらう為には、こちらもある程度の強さを身に付けなければ話にならないし、強さとはレベルそのものなんだからな。
「……それと同時に、パーティを組んでくれそうなメンバーを見繕っておかないとな」
パーティを組みたくても、面子が揃っていないんじゃあ意味がない。
最悪、当分は
それに、パーティを組むと言った処で、その構成にも注意が必要だ。
バランスのとれた
理想を言えばこんな所だな。
もしもこう言ったメンバーでパーティを構成できたなら、さぞかし今後の冒険も楽になるだろう。
ちなみに効率重視……と言う意味では、以前のパーティメンバーは正しく最適だと言えた。
前衛中衛後衛とバランスよく、攻撃魔法に長けた者、回復に特化した者と、何処をとっても隙が無いと言えるだろう。
……でも、それだけだ。
グローイヤやシラヌス達と冒険をして、楽しいと感じた事なんて一度としてなかった。
まるで機械の様に正確に、そして黙々と与えられた仕事を熟してゆく。
確かに、安全かつ効率よく冒険を進める事は出来た。それについては、彼等に感謝している。
でも今思い返せば、折角世界を渡る冒険をしていると言うのに何ら心躍る事が無かったと言うのは、どこかもったいないと感じていたんだ。
「そうだな……。次にパーティを組むメンバーは、俺好みの面子にしよう」
意図せずとは言え、折角二度目の冒険者人生なんだ。多少編成にバラツキがあったとしても、そこは大目に見よう。
それよりも出来るだけ面白く、楽しく冒険出来るメンバーを募りたいところだな。
―――その為にも……。
フィーナに授けて貰ったスキル……。これを有効活用するしかない。
彼女から告げられた、俺に授けられたスキルは確か……何だっけ?
スキル対象者の「近い将来の姿」を見る事が可能となるもの……ってのは覚えてるんだけどな……。
確か、俺がパーティに誘いたいと思った相手へこのスキルを使えば、そいつがどんな成長をしどんな
本当に最初しか役に立たないけれど、これでメンバー選びに躓くって可能性をかなり軽減出来る。
「……とりあえず……試してみるかな」
地下石室から出た所は、通りより随分と外れた余り人の近寄らない場所だった。
この石室自体に礼拝堂の用途がない以上、ここを訪れるのは俺みたいに
何故ならここから出て来ると言う事は……何らかの事情で「戦闘不能」となった者だけだからだ。
それが強いモンスターとの戦闘であろうと、うっかり足を滑らせて打ち所が悪かったと言う理由であろうが、兎に角それ以上冒険を続けられなかったからに他ならないんだ。
俺も初めて石室から出て来て分かったんだが……これは結構情けない。
やたらと周囲の目が気になってしまうのだ。
まして俺などは、人間界でも屈指の強さを手に入れておきながらこの死に戻りである。
情けない事この上なかった。
そう考えれば、ここの出口が人目の付きにくい場所に設置されているのは有難かった。
ただ、俺が今から試そうかって言うスキルには、相手が居ないとどうしようもない。
俺はその場をゆっくりと離れて、大通りの方へと向かった。
久しぶりに見たジャスティアの街の大通りは、以前の記憶と寸分変わらない賑わいを見せていた。
この大陸最大……いや、世界有数と言われる賑わいを見せているこの街の大通りは、毎日がお祭り騒ぎかと思う程に人の往来は激しく、その活気は熱を帯びている。
魔王との戦いが激しさを増して数十年……。
多くの冒険者が魔王討伐に挑み、そして倒れて逝った……。
そしてそれと同等以上に、新たに冒険者を目指す若者が後を絶たず、結果として「始まりの街」であるこのジャスティアは盛況を極めていたのだ。
俺は早速自らのスキルを試してみる為に、誰か目ぼしい相手はいないかと周囲を見渡した。
人通りは多いから人選に困らないが、どうせなら今の俺と同年代くらいが良いな。
そこに都合よく、今の俺と同世代と思しき少女が目の前を横切った。
白いシャツに茶色い麻のスカート、頭に付けたブリムから察するに、何処かの下働きをしているんだろう。元気のある歩調で、颯爽と人混みを躱して歩いていた。
彼女が冒険者となる事なんて、恐らくは無いだろう。
それに万一、彼女が俺の想像を超える様な冒険者になると分かったとしても、俺の仲間になってくれる保証もない。
そう……これはあくまでも、新しい
もしも彼女が冒険者となったなら、一体どんな強さを発揮してどんなジョブに付くのが最適なのか? ただそれを知るだけの能力テストである。
「……早速、使ってみよう」
兎も角、まずは試してみない事には何とも言えない。俺は即座に精神を集中させた。
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