登徒子好色賦
田中紀峰
試訳
楚の襄王に仕えていた登徒子という大夫が、宋玉を
楚王は登徒子が言ったことを宋玉に尋ねた。宋玉は言った。「
楚王は言った。「
宋玉は言った。「天下に、この楚国の女ほど美しい女はいません。楚国の女のうち、臣が住む
東氏の娘は一寸でも高ければ高すぎ、一寸でも低ければ低すぎます(ちょうど良い背の高さである)。白粉を付ければ白すぎるし、紅をさせば赤すぎます(化粧をするまでもない)。眉は
登徒子は私とはまったく違っています。その妻は、髪の毛はぼさぼさで、耳たぶはちぢこまって、出っ歯で歯並びが悪く、腰が曲がり瘤があり、足が悪くて、そのうえ痔持ちです。
しかしながら、登徒子はこの妻を愛し、五人も子を産ませました。
王はこのことをお察しになり、彼と私と、どちらが好色なのか、判断していただきたい。」
このとき、秦の大夫で章華というものが、襄王の側にいて、進み出て言った。「今、大夫宋玉は、彼の隣に住む娘を褒め称え、美色は男の心を迷わせる邪念を生じるものだと言いました。臣は自分が徳を守っているほうだと思っておりますが、宋玉ほどではありません。そのうえ、楚国という私にとって僻遠の地に生まれ育った女について、私から大王に何を申し上げることがありましょうか。もし私の見方が間違っていて、皆さんの意見が正しいとしたら、私は敢えて申し上げぬほうがよろしいでしょう。」
楚王は言った。「
章華は言った。「はい。臣はかつて年少の頃に、さまざまな国を遍歴しました。秦の
ここにおいて楚王は(宋玉は少年の頃の章華のようなものだと)納得し、結局、宋玉は罷免されなかった。
【註釈】
宋玉:戦国末期の楚の文人。屈原の弟子とも後輩ともいわれ、「屈宋」と併称される。
登徒子:不詳。
楚の襄王:頃襄王。
短:短所を指摘して批判する。
陽城:不明。楚の首都・郢のことか。楚は首都を転々と遷し、郢と呼んだので郢がどこかはわからない。
下蔡:もとは蔡という国の首都。蔡は楚に滅ぼされ、楚の一都市となった。
章華:楚の地名。この地に住んでいたのでそう呼ばれたらしい。
咸陽:秦の都。
邯鄲:趙の都。
鄭・衛:洛陽の南。現在の河南省
溱 ・洧:鄭国内に流れる川
寡人:王の一人称
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます