【第一幕】 大きくなれなかったダイヤモンド

幼馴染みというと、アニメ的かつマンガ的もしくはラノベ的な、いかにも自分の事をずっと好きで――または気に掛けていて、だけどもその想いは成就せず、一途なのに鈍感最低主人公のせいで可哀想な展開になる女の子を思い描く人が多いかもしれないが、それはやっぱアニメかマンガか、もしくはラノベだけの話であって、現実に於いては普通に……と言ってはなんだが、恋愛関係に発展し、成就し、結婚しちまう事だって往々にある。

 実際、俺の両親がそうだ。母親と父親は幼い頃から、それこそ家族ぐるみの付き合いがあって、高校生で交際を始め、成人を迎える頃にはもう結婚を決めていたという。

 だから、なのかは知らないが、両親が俺が生まれて少し経つと、近所の同い年で――しかも同じ苗字といういかにも運命的な女の子と仲良くさせ、いわゆる幼馴染みの関係を作らせたのは、不思議では無かった。いやむしろ、近所に同い年で同じ苗字の人間が居たら、そうしたい人が多いだろうか。とにもかくにも、そういった経緯で幼馴染みとなっていた彼女とは、幼稚園、小学校、中学校も近所故に同じで、はたまたクラスもやたらと同じで、苗字のせいで席も近くて、まさに典型的な腐れ縁となった訳だ。

 が。

 彼女とは性格的なところもあり、両親の期待している色恋のあれこれは無かった。気を使わず話せる互いだが、恥ずかしい事を言った事も、言われた事も――おそらく思った事も無かった。それこそ用がなくても連絡は取り合えるのに、そんな程度の関係でしかなかったのだ。別に両親が特殊だとも思わないが、同い年で同じ苗字でも、ただ単に、恋愛感情を抱かない者同士だった。男と女がいれば恋愛は起こり得るが、起こらない事――勝手に終わってしまう事も多く、今回はなんとなく後者であっただけだった。それだけだった。

 ――今のところは。


 さて、幼馴染みにはもう一つパターンがあるのは、ご存知だろうか。

 それは家族ぐるみの付き合いは無くとも、時系列的に純正の幼馴染みより後に出会った、幼少期をともにした人間との関係を言う――二次元のその界隈でいわゆる、セカンド幼馴染みとか言うやつだ。

 俺は別段、そういうアニメや恋愛ゲームとかに詳しい訳ではないが、ほどほど腐れ縁とか旧友的存在という認識で間違ってないだろうそれは、小学校の時の数年から中学まで一緒にいて、遊んで、いやはや、それなりの色恋らしき出来事があった女の子だった。だからまあ、純粋なセカンド"幼馴染み"とは言いにくいかもしれない。

 しかし交際経歴についてはお互いゼロである――半ば意図的に。要するに互いに好意はあるが付き合ってはいない。付き合えそうだが、"まだ"付き合っていない。そういう間柄。

 ……ほら言っただろう、現実じゃ幼馴染みとの恋もあり得ると。あれはつまり逆で(俺だけ?)恋ありきで幼馴染みになってるだけなのだ。お互い好きとか付き合おうとか言わずに離れられないから、なし崩し的に、勝手に、自然に、じれったい関係のままずっと過ごしてるのだ。だってそうだろ。好きでもない相手と、そんな長い期間一緒にいない――物理的に近くにいないといけない限り。そう、セカンド幼馴染みとは大義名分で、くっつきそうでくっつけない男女なだけだったのだ(やっぱ俺だけ?)。

 まあ、でも、時間経過のせいか、なんか彼女とは恋慕の情が斜め上に吹っ切れて、本当ただの幼馴染み感あるけども、とにもかくにも、彼女とは恋愛的幼馴染みだったのであった。

 ――それは、今でも。

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