第4話「しかし上手くは変われない」

「百合音、お父さんの会社でもダメだったわ」

 数日後、柚葉はリビングのテーブルに突っ伏して項垂れていた。どうやら親のコネやら知り合いのツテを借りて仕事に就こうと思ったようだが、世の中そうは甘くない。きっと大人を舐めるなと、キツく言われたに違いない。やはり彼女は世間知らずだ。

「だから言ったじゃないですか。柚葉には難しかったんですよ」

 あの日、私は彼女に悲しい顔をさせてしまった。その上、今もこうして傷口に塩を塗る言葉をかけている。でも、私にとっては彼女がまだ一日中ここで私と過ごすということが、嬉しかったのだ。我ながら禁断の恋もいいところである。どうしたものか。

「どうしたら、仕事って出来るの?」

 柚葉が、為す術なく私の事を頼り、そんな質問をぶつけてくる。頼られる嬉しさを、私は初めて知った。

「そうですね、何より必要なのは、履歴書では無いでしょうか」

 次の瞬間、私は今までの柚葉を家に置いておこうという思いは失せ、手助けを始めていた。自立するという事は、最終的には頼られなくなるのに、その時の私を頼る柚葉の姿に、私は助けずにはいられなかった。

「履歴書、って、何?」

 柚葉は首を傾げながら、私に続けて質問をする。そうか、こういう形の愛もあるのか。と、自分の内に燻る想いに気付く。

 今度こそ、柚葉に好まれる愛し方をしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る