第13話 新型パワードスーツ・スタールビー

 大会開催まで残り10日、参加者たちは最後の準備を進めていた。あるパーティーは一つでもレベルを上げるために経験値稼ぎに励み、またあるパーティーは希少なアイテムを求めてダンジョンに潜り続けた。クロスポイントも同じく、最後の追い込みをかけていた。

 ピジョンブラッドたちクロスポイントは浮遊都市カルリシアンにいた。


 全盛時代に作られた空に浮くその都市は、ゴーストタウンと化した今でも墜落することなく第三地球の空を漂っている。

 カルリシアンに挑戦する上で推奨となるレベルは70以上。現時点で最も難易度の高いダンジョンの一つだ。当然、出てくる敵を倒せば多量の経験値を獲得でき、手に入るアイテムの質も良い。それでも、ここはプレイヤーに人気であるとはいい難い。

 理由は一つ。ここが空にあるということだ。


「きゃぁ!」

「あぶない!」


 足を滑らせて落ちそうになった白桃の腕をグラントがとっさに掴む。宙吊り状態になった白桃は眼下にある雲海を見て表情を引きつらせる。


「グ、グラントさん、早く引っ張って!」

「落ち着いて。大丈夫、ちゃんと掴んでいるから」


 グラントは白桃を引き上げて足場に戻した。

 現実でないので落ちたところで死ぬことはないが、真に迫るリアリティはプレイヤーに恐怖を想起させる。

 カルリシアンの最下層は老朽化によって床のあちこちに穴が空いているので、プレイヤーは落下しないように注意する必要がある。


 もし落ちてしまったのならば即座に戦闘不能となった上に、復活のチャンスもないまま即座にリタイアとなる。

 ミスの取り戻しがやりにくいということで、経験値稼ぎにせよレアアイテム探しにせよ、ほとんどのプレイヤーは別の高難易度ダンジョンに挑戦している。

 それでもなおクロスポイントがカルリシアンに挑戦しているのは、ここでしか手に入らないアイテムを手に入れるためだ


「悪いわね、みんな私のために」


 ピジョンブラッドが気まずそうに言う。

 手に入れようとしているアイテムは、ピジョンブラッドの新しい装備を作るために必要なものなのだ。だから最初は自分ひとりで挑戦しようと思った。


「別にそんな気にしなくていいわよ。だってピジョンブラッドのおかげで、みんな新しい装備が手に入ったんだから」


 白桃の言葉は事実だ。R.I.O.T.ラボラトリーで防御力無視の効果を持つブルーセーバーを手に入れたピジョンブラッドは、その性能を十二分に生かした。

 それによってクロスポイントは高難易度ダンジョンを次々と攻略し、そこから強力な装備を手に入れた。

 

 今となってはピジョンブラッド以外の全員が、大会に望むにあたってこれ以上ないというほどの装備を持っている。

 一方で、ピジョンブラッドはというとブルーセーバー以外の装備はベストとはいえなかった。どちらかというと装備を良くするよりも自らの腕前を鍛える方を優先していたからだ。

 そこでクロスポイントのメンバーたちは、最後にピジョンブラッドのための装備を手に入れようと動き始めたのだ。


「持ちつ持たれつ。人間、そのほうがちょうどいいのよ。私だけじゃなくてみんなそう思ってるわ、ね?」


 白桃の言葉に皆がうなずく。特にスティールフィストは強く同意していた。


「白桃の言うとおりさ。俺なんかいつも稽古をつけてもらっているんだから、いつだってお前の役に立ちたいと思ってる」


 スティールフィストの言葉にピジョンブラッドは胸が暖かくなるのを感じた。

 あの事件によって知ってしまった残酷な真実のせいで、鳩美は自分がいても良いのかと疑ってしまう心が芽生えていた。ありもしない他人からの殺意に怯えてしまうのは、不純物である自分を社会が排除しようとするのではないかという恐れも含まれていた。

 でもそれは思い込みだったとようやく納得できる。オンラインゲームの上の関係であったとしても、こうしてと言えるつながりがあるのならば、自分はいても良いのだと認められる。

 母は自分を娘であると認めて愛していると言ってくれた。目の前の友人たちはこうして善意を注いでくれている。


「ありがとう」


 きっと自分はあの事件から立ち直れる。ピジョンブラッドの内側にいる鳩美は心からそう思った。

 改めてクロスポイントはカルリシアンの内部を進む。

 そうしてたどり着いた最深部で待っていたのは巨大な繊維の塊であった。

 それこそがこの都市の浮力の源。物体を浮かす力を発揮する魔法の繊維は、かつての全盛時代において航空技術の要であったという。

 そして、この浮力繊維こそ目的のものであるのだが、もちろん簡単に手に入るわけではない。

 床を突き破って何かが現れる。


 それは悪魔を模したロボットであった。全身が鋼で作られて入るが、コウモリのような羽の部分に限っては布張りになっている。薄っすらと魔力の光を放っているので、その布が浮力繊維で織られているのがわかる。

 プレイヤーたちの視界にメカ・ガーゴイル・レベル75と表示されているその敵は、カルリシアンの防衛兵器として作られたという世界観設定を持つ。

 他の全盛時代の遺跡同様、メカ・ガーゴイルもまた暴走状態にあり、侵入してきたものを誰であろうと排除する。


 メカ・ガーゴイルは腰の両脇に装着された拡散ビーム砲を撃ってきた。上から放たれるそれはまさにビームの雨だ。

 定石として白桃が防御魔法を予め使ってくれたおかげで、直撃を受けても倒れるものはいない。

 しかし、その攻撃が厄介なのは拡散するゆえの回避困難ではなかった。


「みんな、足元に気をつけるんだ!」


 権兵衛が注意を促す。今の攻撃で床の一部が崩落した。戦いが長引くほどに足場が小さくなり、やがて床全体が崩落してパーティーは全滅するだろう。

 遠距離攻撃が出来る者達が一斉に上空のメカ・ガーゴイルを攻撃する。しかし、手の甲に装着されたエネルギーシールドがすべてを塞ぐ。


「わたしが!」


 ピジョンブラッドがスラスターを吹かしながら床を蹴る。ブルーセーバーなら敵のエネルギーシールドを貫通してダメージを与えられる!

 しかし、メカ・ガーゴイルはあっさりとピジョンブラッドの刺突を回避した。

 反撃が来た。メカ・ガーゴイルの指先から出たレーザー爪がピジョンブラッドを引き裂こうとする。地上での戦いだったらこのタイミングでもピジョンブラッドは反撃をさばけただろう。しかし、不安定な空中では回避がいま一歩間に合わず、胸を浅く引っかかれてしまった。


 サイバースペースにおいて痛覚は発生しないが、しかしダメージ表現としての衝撃は生じる。そのせいでスラスターの制御が一瞬途切れ、ピジョンブラッドは落下してしまった。しかも、真下には拡散ビームで空いた穴がある。

 すんでのところでスラスターの制御を再開して穴に落ちてしまうのを防ぐ。とっさのことだったので満足に受け身も取れないまま床に叩きつけられてしまった。

 メカ・ガーゴイルが再び拡散ビームを発射する。倒れたままのピジョンブラッドは頭を腕でかばうのが精一杯だった。全身のあちこちにビームを受け、HPが瀕死状態になる。


「早くこっちに!」


 白桃が叫ぶ。ピジョンブラッドが回復の魔法の射程外にいるからだ。

 ピジョンブラッドは跳ね起きて白桃の元へと跳ぶ。

 同時にメカ・ガーゴイルが拡散ビームを撃った。盾役のグラントはヒーラーの白桃を守るために動けない。このままではピジョンブラッドのHPがゼロになる!


「させるか!」


 スティールフィストがピジョンブラッドをかばう。


「よし!」


 ピジョンブラッドが範囲内に入ると同時に白桃は回復の魔法を使う。範囲内にいる全プレイヤーが回復するので、スティールフィストもかばったときに失ったHPを取り戻せた。


「手強いっ……」


 ピジョンブラッドは歯噛みする。おそらく、今の自分では真っ向勝負でメカ・ガーゴイルを倒せないだろう。スラスターで強引に空を飛ぶ者と、完全な浮力を得ている者の決定的な違いがある。ピジョンブラッドは空中において単調で直線的な動きしかとれないが、メカ・ガーゴイルは柔軟で細かな動きを取れる。

 相手が地上にいるならばと思いたくもなるが、そのような不毛な願いをしたところでメカ・ガーゴイルがわざわざ降りてきてくれたりなどしない。


「みんな、タイミングを合わせて同時にメカ・ガーゴイルを攻撃するんだ! ピジョンブラッドはその直後に後ろから攻撃してくれ!」


 権兵衛はすかさず対策を編み出して指示を出す。


「了解!」


 メンバーたちとともにピジョンブラッドも応答する。

 ピジョンブラッドはスラスターを使いながら床を蹴って突進する。それに反応したメカ・ガーゴイルは拡散ビームを連射した。度重なる攻撃でもはや床はスイスチーズのように穴だらけだ。いつ床が崩落してもおかしくない。


「今だ!」


 権兵衛の号令とともにメカ・ガーゴイルへ一斉攻撃が繰り出される。当然敵はエネルギーシールドですべて防御した。

 後ろに回り込んだピジョンブラッドは上空へ飛び上がる。メカ・ガーゴイルはメンバーたちの攻撃を防御するのに夢中でこちらを振り向こうともしない。


「ヤーッ!」


 下から振り上げられた青いレーザー刃がメカ・ガーゴイルの中心線を切り抜ける!

 体内にある動力炉、すなわち致命的弱点を攻撃されたメカ・ガーゴイルは力尽き、そのまま床に空いた穴に落ちていった。

 僅かに残った足場に着地したピジョンブラッドは残心する。そして、下から敵が爆散した音を聞いて倒したと確信を得てから構えを解いた。


「やったな、ピジョンブラッド」


 真っ先に駆け寄ってきたのはスティールフィストだった。


「ええ、いつも通りみんなのおかげよ」


 他のメンバーが敵の注意をひきつけている間にピジョンブラッドが必殺の一撃を与える。ここ最近のクロスポイントでは、それがボス敵を相手とした必勝法になりつつあった。


「それじゃ、早速浮力繊維を採取するね」


 ステンレスが巨大繊維の塊に近づいてその一部を採取する。


「必要な数は取れた?」


 ピジョンブラッドが採取量を訪ねたのは、採集ポイントからのアイテムの入手数には振れ幅があるからだ。もし必要とする数に届かないのであれば、このダンジョンに再挑戦する必要がある。当然、メカ・ガーゴイルとも戦わなければならない。


「うん、大丈夫。運良くぴったりの数が手に入ったわ」

「なら!」


 ピジョンブラッドの表情が明るくなる。


「ええ。あなた専用のパワードスーツが作れるわ」


 浮遊都市カルリシアンからギルドホームへ戻ったピジョンブラッドは、早速ステンレスにパワードスーツの制作をお願いした。


「こうして並べてみるとなかなか壮観ね」


 作業机の上にはこれまで集めた素材アイテムが置かれていた。

 プレイヤーオリジナル装備を制作するとき、完成品の性能は使用した素材アイテムの品質と製作者の制作技能レベルに依存する。

 ピジョンブラッド専用のパワードスーツを作るにあたって、最高の素材が集められた。ミスリル・オリハルコン合金、ヒヒイロカネ魔力コンバータ、強化魔法ケプラー、SS-X99スラスター、第5世代パワードスーツフレーム、そして浮遊都市カルリシアンで手に入れた浮力繊維だ。その全てが伝説等級の品質であり、単体では意味をなさない素材アイテムでありながら、それ自体がレアアイテムとして扱われる程の希少価値を持つ。


「デザイン図は用意してある?」

「ここにあるわ」


 ピジョンブラッドがステンレスに差し出したのは、装備品の外見を決定するための素材アイテムだ。一からデザインを決められ、また素人でも出来るよう、予め決められたデザインも複数用意されている。

 用意されたデザインを使う場合は、複数のデザインを組み合わせて全体像を決められる。パワードスーツの場合は、頭部、胴体、腕、足の4箇所をそれぞれ個別にデザインを選べる。

 ピジョンブラッドは決められたデザインの中から自分が良いと思う組み合わせをデザイン図におこしてある。


「それじゃ、早速作り始めるね」


 ステンレスがデザイン図と素材アイテムをアイテム製造機に投入し、制作を開始する。

 制作は数秒で終わるが、その僅かな時間ですらピジョンブラッドはかなり緊張した面持ちだった。制作に失敗することはゲーム仕様上ありえないと理解しつつも、待ち望んでいたものがこれから手に入るという段になれば胸の鼓動も早まるというものだ。

 アイテム完成のを知らせる電子音が製造機から鳴り響いた。


「さ、出来たわよ」


 ステンレスがアイテム製造機の扉を開ける。そこには待ち望んだものがあった。

 紅白に塗り分けられたボディは手足の動きを阻害しないようにしつつも、急所はしっかりと防御するようになっている。各所のスラスターもこれまでのよりも小型化している。

 今まで使っていたシャドウツバキと異なりヘルメットはない。僅かとはいえ視界が制限されてしまうからだ。それは接近戦で紙一重だが決定的な差を生み出す。

 代わりに極限環境適応をもつ魔法使いの三角帽を別途用意してある。これならば視界を広く確保しつつ、水中や真空中でも戦える。


 帽子はNPCから買ったものだが、デザインがとても気に入っていて、新しいパワードスーツが手に入ったら合わせて装備しようと思っていたものだ。

 そして、なんといっても首元から伸びている白いマフラーだ。浮力繊維で編み上げたそれは、長時間の飛行能力をもたらす。これで安定した空中戦ができるはずだ

 一度自分のインベントリに格納したあと、装備管理から新型パワードスーツを装着する。

 近くにあった姿見を見る。紅白の装甲に身を包んだ自分がそこにいた。まるできらびやかなドレスをまとったかのように気持ちが高揚した。


「これが私のパワードスーツ、スタールビー……」


 自らが名付けた新型パワードスーツの名を呟く。


「ありがとう、ステンレス」

「例には及ばないわ。私もあなたに色々助けてもらったからね。それより、試運転してみたら?」

「ええ!」


 ピジョンブラッドはギルドホームの庭へと向かった。気持ちが抑えきれずに思わず早足になってしまう。

 庭では他のメンバーたちが新型パワードスーツのお披露目を待っていた。


「お、ついに完成したんだな」


 真っ先に反応したのはスティールフィストだった。


「どうかな?」

「ああ。すごくかっこいいと思う。使っているところを見せてくれ」


 スティールフィストに褒められて、これ以上ないと思っていた心の高揚が更に舞い上がった。


「もちろん。スタールビーの性能をお披露目するね」


 ピジョンブラッドが意識を集中するとマフラーが薄っすらと発光しだした。


「えいっ!」


 真上へ飛び上がったピジョンブラッドはそのまま空を飛ぶ。今までの瞬間的なものではない、完全な飛行能力だ。

 ピジョンブラッドはこのパワードスーツの能力にはすぐに使いこなせた。今までも飛行そのものは何度もやってきたからだ。それが一瞬か長時間かの違いでしかない。急降下してから地面スレスレで上昇したり、宙返りをうったりと、アクロバットな飛行をやってのける。

 更にはスラスターを使った空中機動も行う。スタールビーに使っているSS-X99スラスターは従来のものよりもかなり小型だが、推力は一歩も劣っていない。ピジョンブラッドはまるで稲妻のような軌道を空に描いた。


「権兵衛さん!」


 一通り慣れたピジョンブラッドは地上にいるギルドマスターに呼びかける。


「この間、ギルドホームに練習用の敵を呼び出す機能を追加しましたよね? それを使って空を飛ぶ敵を呼び出してください」


 練習用の敵は倒しても経験値は得られないが、ボスに挑むための予行練習や、魔法や技能、装備の組み合わせの検証に利用するプレイヤーは多い。


「わかった。どいつにするかい?」

「さっき戦ったメカ・ガーゴイルを、レベル100にまで上げて出してください」


 ピジョンブラッドは迷わず言った。


「わかった。少し待っていてくれ」


 権兵衛が庭に設置された操作パネルを使って模擬戦を設定すると、ピジョンブラッドの目の前に再びメカ・ガーゴイルが現れた。

 先程戦ったよりもレベルが大きく上がっている。それでもピジョンブラッドは勝つつもりでいた。自分自身の腕前やブルーセーバーがあるからではない。皆が素材を集め、ステンレスが作ってくれたスタールビーがあるからだ。

 メカ・ガーゴイルが腰の拡散ビーム砲を向けるが、発射される前にピジョンブラッドはすでに間合いを詰めていた。

 メカ・ガーゴイルは即座に発砲をキャンセルしてレーザー爪の迎撃に切り替える。

 敵の鋭い連続攻撃をピジョンブラッドは最小限の動きで弾き続ける。その間、ピジョンブラッドの位置は全く動いていない。浮力繊維で編まれたマフラーのおかげで、空中にもかかわらず地に足をつけているかのように静止している。

 連続攻撃の最後、メカ・ガーゴイルが大きく振りかぶった瞬間、静から動へと変わる。

 次の瞬間、ピジョンブラッドはメカ・ガーゴイルの背後にいた。

 メカ・ガーゴイルは振り向くこともなく、腕を振り上げた姿勢のまま力尽きて地面に叩きつけられた。

 


「すごい」


 それを地上で見ていたスティールフィストは思わず声を漏らした。ピジョンブラッドは目にも留まらぬ速さですれ違いざまいメカ・ガーゴイルの胴を薙ぎ払い、腹部にある動力を破壊していたのだ。

 つい先程まで、空中戦ではメカ・ガーゴイルに対して後れを取っていたというのに、ああもあっさりと倒してしまう。それはスタールビーの性能によるものが大きいのだが、それはしっかりと装備を使いこなしているからこそだ。

 ここしばらくの間はピジョンブラッドの技を間近で見続けていたが、何度見てもそのたびに感嘆で心が動かされる。まるで優れた芸術を目の当たりにしているかのようだ。


 そして何より美しいのはいつもピジョンブラッドは成長しているということだ。初めて出会ったあの日、スラスターを使おうとした彼女は盛大に失敗したが、次に会ったときには見事に使いこなしていた。

 彼女は常勝不敗というわけではなく、強敵に挑んで返り討ちにあったことは何度もあった。そのたびに、敵の動きを学びそれを糧として再び挑んだときは勝利をもぎ取った。

 成長こそピジョンブラッドの才能であり魅力だとスティールフィストは思っていた。自分にとって彼女は輝きを決して失わない一番星だ。


 そんな彼女と共にいられるのはとても嬉しい。ともすれば別世界の住民、決して手の届かない高嶺の花かもしれない人が、この世界では共に肩を並べ、背中を預け合う。たかがゲームの中の出来事かもしれないが、しかし間違いなく幸福と言える喜びがスティールフィストの胸の内にあった。

 だからこそ、奮起しようとする気持ちがあった。自分はピジョンブラッドを追い越せるような男ではないが、彼女においていかれないように努力しなければならない。

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