第86話 東の狩場へ
俺たちは、第三冒険者ギルドへ寄ってから狩場へと向かった。
王者のた魂リーダーのスコットさんから教わった『東の狩場』だ。
サクラとセレーネは、ご立腹だ。
二人が怒っている原因は、もちろんマチルダ。
『新人なのに態度がデカイ』
『口が悪い』
まあ、その通りなんだけどさ。
でも、魔法使いで、俺たちと年が近くて、さらに白銀の魔導士フランチェスカさんのお墨付きだからねえ。
貴重な人材だと思う。
これから王都の魔の森近辺で活動するのに必要なメンバーだ。
ただ……、やっぱりマチルダの性格はきっついな~。
第三冒険者ギルドでの事だけれど、ジュリさんにマチルダを紹介して俺のスキル【パーティー編成】でパーティーに入れようと思った。
ところがマチルダに断られた。
『あら! 私は正式にパーティーに加入するとは言ってないでしょ?』
『えっ!? まあ、そうだけど……。パーティーに加入しないと、魔物を倒した経験値が――』
『それは、お互い自分が倒した分だけ得られれば良いでしょ? どうせ私の方が沢山の魔物をたおすのだから、私は困らないわ』
『……』
と言う訳で、しばらくはパーティーメンバーでなく『一緒に活動する冒険者』と言う事になった。
マチルダとしては――
・一緒に戦闘して様子を見る。
・自分が加入するのにふさわしいパーティーか見極める。
――と言う事らしい。
(まあ、ただ……。それはこっちも同じだから、それほど都合が悪い訳じゃないからな……)
俺としては、マチルダにパーティー加入して欲しいと思っている。
とは言え、まだ、マチルダの魔法の腕前は見ていない。
超一流クラン『銀翼』で一時的とは言え活動していたのだから『ヘボ』って事はないだろうが、冒険者パーティーは少人数で戦うから相性とか、呼吸が合うとか、パーティー内のバランスとか色々あるからな。
マチルダの様子を見てから正式メンバーにするかどうか決められるのは、悪い事じゃない。
第三冒険者ギルドの東側にある野原を、まっすぐ東へ進む。
なぜか先頭はマチルダ、続いて俺、サクラが俺の頭の上を飛び、後ろがセレーネと言う隊列だ。
マチルダは、なぜかはわからないが、くるぶしまで届くロングドレスを着ている。
貴族でもないし、野外戦闘するのにその服装チョイスは謎だ。
後ろからマチルダを観察していると、マチルダが振り向いた。
「ねえ。こっちで良いの?」
「ああ、まだ真っ直ぐだと思う」
「思う?」
「俺も来るのは初めてなんだ。昨日、『王者の魂』のスコットさんに教わって――」
「まったく頼りないリーダーね!」
話しを全部聞いてくれない。
これがマチルダクオリティ……。
まあ、良いや。
(ヒロトさん!)
サクラが【意識潜入】で話しかけて来た。
機嫌が悪いのがビンビン伝わって来る。
(本気であんなのを入れるつもりですか?)
(魔法の腕前次第では、本気で考えるよ)
(……)
サクラは、プイっとよその方を向いてしまった。
後ろを歩くセレーネも無言だし、無茶苦茶空気が悪い。
早く、戦闘が始まってくれないかな……。
第三冒険者ギルドから三十分ほど歩いた。
風景が変わって来て、ゴツゴツした岩が増えて来た。
草の上を歩いていたが、今は砂地の上を歩いている。
もう、そろそろ目的のポイント『東の狩場』につくはずだ。
「しばらく行くと、歌う木があるらしい。そこから北上すると初心者向けの狩場だよ」
「「「歌う木?」」」
「スコットさんに聞いた話だと、一日中歌っている木らしいよ」
マチルダが、眉根を寄せる。
「おかしな木ね! 魔物かしら?」
「うん、魔物の一種らしい。歌う木は道しるべになっているから、倒すなって。人を襲う事はないってさ」
「そう。わかったわ」
岩だらけの荒れ地を歩く事十分。
歌声が聞こえて来た。
「Hey♪ Rock’n Roll Kids♪」
「あれだな」
荒れ地の先にポツンと一本の低木が立っている。
高さは一メートルちょい。
歌いながら体、いや幹を左右にゆらしている。
ロックンロールキッズって……これ、転生した人が面白がって教えただろ!
「変な木ね!」
歌う木から荒れ地を北へ進路をとる。
五分程歩くと、岩だらけの小さな丘や谷が入り組んだ場所に出た。
スコットさんに聞いた通りの地形だ。この辺りが『東の狩場』だろう。
「東の狩場へ着いたよ! この辺りは、魔物は出るけど2、3匹のグループがほとんどらしい。まずは、この辺りで腕ならしをしよう」
「了解!」
「はーい」
サクラとセレーネがいつも通りのトーンで返事をする。
狩場に入ったので、さすがに気持ちは切り替えてくれたみたいだ。
だが、マチルダはあまり雰囲気が変わらない。
挑戦的だ。
「私はもっと魔物が大量に湧くところでも構わないわよ」
「頼もしい言葉は嬉しいけれど、パーティー内の連携もあるし、最初は軽めの敵にしよう」
「堅実な判断をするのね。まあ、良いわ」
マチルダは、一応納得してくれたらしい。
腰にぶら下げた小さなポーチから、長い杖を取り出しグルリと一回転させた。
マジックバッグも持っているのか。さすがは元『銀翼』。
「良さそうな杖だね」
「ええ! 姉がプレゼントしてくれたのよ!」
マチルダは嬉しそうに自分の杖の事、姉のフランチェスカさんの事を話し始めた。
俺はマチルダの話しに適当に相槌を打ちながら、マチルダを観察する。
どうやらマチルダは、お姉さん大好きっ子みたいだ。
マチルダの笑顔を初めて見た。
「へえ~。そんな良い杖なんだ」
「まあ、等級は『レア』だけどね。私に合った杖を姉が選んでくれたのよ」
「レアだって凄いじゃないか! 俺たちの年でレアアイテムを持っているヤツはそうはいないよ」
「そ、そう? そうかしら?」
「フランチェスカさんは、マチルダを大事に思ってるんだね」
「ふふん♪」
おろろ。
マチルダのご機嫌が良くなったよ。
マチルダの気持ちはわかる。
俺も師匠からコルセアの剣をプレゼントしてもらった時は、とても嬉しかった。
そのアイテムが持つ価値以上に、リスペクトする相手から贈られた事が嬉しいんだ。
そうだな。
プロ野球選手からグローブをプレゼントされるとか、そんな感じだ。
俺はマチルダとほんの少しだけれど気持ちを通わせられた事が嬉しかった。
こうして一緒にいる時間を重ね、少しずつ分かり合えたら良いな。
俺が思いを巡らしていると、空中のサクラが警戒を鳴らした。
「ヒロトさん! オーク2! 北から来ます!」
「戦闘準備!」
「「「了解!」」」
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