第84話 白銀の魔導士
俺たちは、王都第三冒険者ギルドで納品と手続きを済ませた。
今日は夜に予定があるので、これで引き上げだ。
ギルドマスターのハゲールとジュリさんは、スコットさんたち『王者の魂』と色々今後の事を打ち合わせするとか。
ハゲールは、復活したからな。
いつまでも落ち込んでいても仕方ない。
働いて貰わないとね。
王都街区へ続く道を三人で歩く。
セレーネがのんびりとした声を上げる。
「オークのお肉、美味しそうだったねぇ~」
ギルドの裏は解体場になっていた。
セレーネは、『王者の魂』のボーナムさんにオークの解体方法を教わっていた。
さすがスキル【解体】持ちで、大きなオークが手際よく切り分けられ、あっと言う間にロース、もも、バラと部位別のブロック肉になった。
俺も話しにのる。
「ロースが美味しそうだったな」
オーク肉は、パッと見で豚肉と変わらなかった。
生姜焼き丼が食べたくなったな。
ルドルの街には醤油や米はなかったけれど、王都はどうかな?
転生者が多いっていうから、ひょっとしたらあるかも。
「ねえ、ヒロト~、オークは買い取りいくらだった?」
「えっとね。肉が2万ゴルド、皮が6千ゴルドだね」
「大きいから買い取り価格も良いね!」
そうなのだ。
例えばルドルの街のダンジョンで狩っていたホーンラビットは、肉が2千ゴルド、毛皮が3千ゴルドだった。
オークは過食部位が多いので、肉の買い取り価格は10倍だ。
皮も初心者向けの革鎧に加工したりするので買い取ってもらえる。
それに討伐報酬もつく。
魔の森にいるオークやゴブリンは、魔の森の外に出て来て人を襲う。
そこで王国から魔の森の魔物を倒すと討伐報酬が出るのだ。
「それから討伐報酬が3万ゴルド。魔石が千ゴルドだったよ。これジュリさんからもらった明細ね」
ジュリさん手書きの明細をセレーネに渡す。
横からサクラが覗き込む。
「一匹5万7千ゴルドですか。稼ぎとしては、悪くないですね」
「うん」
「ゴブリンが安いですね~。討伐報酬が一匹あたり千ゴルドですか!?」
第三冒険者ギルドに行くまでに倒したゴブリンの分も討伐報酬が出た。
「そう。ただ、数がまとまっているから、32匹で3万2千ゴルドになった」
ゴブリンは素材の買い取りもないし、魔石も小さいので買い取ってもらえない。
討伐報酬も千ゴルドと低い。
サクラとセレーネが歓声を上げる。
「おお! そうすると王都初日の稼ぎは、8万9千ゴルドですね!」
「凄いね~。王都良いんじゃなーい!」
二人のテンション高めの声を聞きながらも、俺の心はスッキリしなかった。
一人当たり三万ゴルド弱を稼ぎだしたのは、悪くない結果だと思う。
しかし、最後のオークはスコットさんたち『王者の魂』のサポートをしてあげた戦果だ。
どうやら魔の森近辺のフィールドでは魔物が集団で出て来るらしい。
それも『オーガとオークとゴブリン』のように混成でだ。
俺たちヒロトのパーティー単独で戦ったら……果たして勝てたかな?
仮にオークが三匹とゴブリン十匹が出たとする。
サクラがオーク一匹をタイマン。
俺がオーク一匹を引き付け、もう一匹をセレーネが矢で牽制する。
するとゴブリンがセレーネに襲い掛かり……。
戦線崩壊だ。
フィールドの敵は数が多い上に、オークやオーガみたいにタフなのもいる。
肉が分厚いオーク相手では、セレーネの矢も足止めにはなるが致命傷にはならない。
――火力不足。
前々から感じていたけれど、パーティーの課題を突き付けられた気がした。
*
暗くなってから、俺は家から出掛けた。
王都の聖堂から鐘の音が響く。
六時だ。
今日は師匠と待ち合わせている。
市内を巡回する馬車に乗り、エスポワル通りへ。
通りは仕事上がりの冒険者で溢れている。
人波をかき分け師匠が待つ居酒屋『夕日亭』へ入った。
「広いな……」
夕日亭は、かなり大きな店で木製の頑丈そうなテーブルと椅子がこれでもかと言わんばかりに並べられていた。
灯は天井から吊るされた蝋燭とテーブルに置かれたオイルランプだ。
結構、明るい。
天井が高く、二階席もある。
二階席を見上げていると、二階席から師匠が身を乗り出し手を振った。
「オーイ! ヒロト! ここだ!」
早くも出来上がったイカツイ冒険者がつかみ合いの喧嘩を始めたのを横目に、俺はスルスルと階段を上る。
もう、こう言う荒っぽいのに慣れてしまった。
二階は六人掛けのボックス席になっていて、一階よりも落ち着いている。
一階を見下ろせる席に師匠とライトグレーのローブを来た女性が座っていた。
「お待たせしました」
「俺たちも今来たとこだよ。さあ、座れ! 腹減ってないか? 何食う? あ、ヒロトは酒飲めるっけ? 飲むよな?」
師匠の隣に腰を下ろしながら、俺は対面に座るライトグレーのローブを着た女性から目が離せなかった。
彼女こそは、師匠が所属する冒険者クラン『銀翼』のリーダー、魔導士フランチェスカ。
――白銀の魔導士と呼ばれる凄腕魔法使いだ。
長い白銀の髪をかき上げながら、フランチェスカさんが微笑んだ。
「フッ……。ダグが、そのようにかいがいしく息子の世話を焼くとはな。良い物を見せてもらった」
「おいおい、フランチェスカ。そう言うなよ。照れるじゃないか!」
フランチェスカさんは清楚な美人だ。
微笑んだフランチェスカさんを、周囲のテーブルに座る男たちがチラチラ見ている。
この人は、結構年上のハズだけど。
確か、師匠と同い年だから三十路だよな。
白銀の魔女と言うか、美魔女だな。
だが、この人はおっかない!
あらゆる魔法に精通しているS級冒険者で、特に氷魔法と石化魔法を得意としている。
噂では、『目が合った瞬間、魔物が石にされた』とか。
それを聞いたある冒険者が『あんな美人と目が合ったら固くなっちまうよ!』と言ったそうだ。
運悪くフランチェスカさんが近くにいて、その冒険者の冗談口が聞こえてしまったらしい。その冒険者は生きたまま氷柱に閉じ込められて、大事な所が『しもやけ』になったとか。
きれいな女性だからと言って甘く見てはいけない。
この人は師匠と同じく『生ける伝説』の一人なのだ。
俺はフランチェスカさんのご機嫌を損ねないように丁寧に挨拶をした。
「はじめまして。ヒロトです。父がいつも大変お世話になっております」
「フランチェスカだ。こちらこそダグに世話になっている」
「今日はお時間をありがとうございます」
「構わぬ。こちらも聞きたい事があったからな」
「私でお答えできる事でしたらなんなりと」
俺とフランチェスカさんのビジネスライクな言葉のやり取りに、師匠がしびれを切らした。
「さあ! さあ! 硬い挨拶はそこまで! 乾杯だ! ヒロトもエールなら良いだろ?」
ちょうど店の女の子が、エールと美味しそうな料理を持ってやって来た。
この異世界では、俺くらいの年齢だともう酒を飲んでいる。
エールくらいなら良いだろう。
「じゃあ、一口だけ」
「よしっ! そう来なくちゃ! 乾杯!」
「「乾杯!」」
木のジョッキに入ったエールを流し込む。
おっ……冷えてる……。
何か日本でのサラリーマン時代を思い出すな。
グビ……グビ……グビ……。
「ぷああ~!」
「おっ! ヒロト! 良い飲みっぷりだな!」
しまった!
ジョッキ半分以上いっちまった!
ま、まあいっか。
さて……横に座るは神速のダグ、目の前にいるのは白銀の魔導士。
有意義な時間にしよう。
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