第64話 銀色のガチャカードを持つ転生者

 俺達は冒険者ギルドで、ウォールに出会った。

 ウォールは頭がイカレていて、奴隷を目の前で殺して見せた。


 サクラがウォールに【意識潜入】してわかったが、ウォールは俺と同じ地獄からの転生者だった。


 俺はウォールを【鑑定】したが、ウォールに気が付かれてしまった。

 ウォールは、ニコニコと笑いながら周りを囲む人を眺めている。


「さあ、誰かなぁ? 僕を【鑑定】したのはぁ?」


 冒険者やギルドの職員は、目を伏せている。

 ウォールは、楽しそうに犯人捜しを始めた。


「君かなぁ? それとも、君かなぁ?」


 一人一人の前に立って顔を近づける。

 ウォールは、侯爵家の長男だ。


 不敬罪で殺されては堪らない。

 みんな、ジッと耐えている。


 何人かが、チラッ、チラッと俺の方を見ている。

 ウォールが、それに気が付いた。


「なーんだぁ。君か!」


 ウォールが人をかき分け、俺の方に近づいて来た。

 手には血の付いた剣が握られている。


 俺は、いつでも【神速】で逃げられるように身構える。


「ああ、いやいや。緊張しないでくれたまえ。【鑑定】したからって、怒っている訳じゃないんだよぉ」


 ウォールは、俺の目の前にやって来た。


「君ぃ、名前はぁ?」


「……ヒロトです」


「そう。ヒロト君ね! 僕はね。君にお願いしたいんだよぉ! 僕の素晴らしい能力! ステータスをね! みんなに伝えて欲しいんだ!」


「……」


 ウォールの言葉は、本当っぽかった。

 だけど、俺は警戒して無言を貫いた。


「ねえ、ヒロトく~ん。今も僕のステータスを見てるんでしょう? この辺かな? ここかなぁ?」


 ウォールは、俺の体の周りに手をかざしたり、指をさしたりし始めた。

 俺だけにしか見えないが、確かに、そこにはウォールの【鑑定】結果が、表示されている。



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 ◆基本ステータス◆


 名前:ウォール・オーランド・アビン

 年齢:24才

 性別:男

 種族:人族

 ジョブ:聖剣士


 LV:  20

 HP: 255/255

 MP: 100/100

 パワー:310

 持久力:260(312)+20%↑by job

 素早さ:210(252)+20%↑by job

 魔力: 120

 知力: 180

 器用: 170


 ◆スキル◆

【剣術(中級)】

 -【スラッシュ】

 -【2段突き】

 -【受け流し】


【格闘術(初級)】

 -【手刀】

 -【鉄拳】

 -【背負い投げ】


【投擲術(中級)】

 -【片手投げ】

 -【遠方投擲】


【鞭術(初級)】

 -【いたぶり】


【加速】

【身体強化】


【無属性魔法】

 -【ライト】

 -【クリーン】


【闇属性魔法】

 -【幻惑】


(続く)


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 あんなに惨(むごた)たらしく人を殺したのに、ジョブが聖剣士なんて、悪い冗談だ。

 あまりにもウォールがしつこくするので、俺は、【鑑定】結果を話し始めた。


「まず、ステータスが、全体的に高いですね。Lv自体は20ですが……。例えば……、パワーは310です」


 周りがざわついた。

 パワー310は、Lv30~40の値だ。


 初期値が高かったのかもしれないが……。

 Lv20にしては、かなり高い値だ。


 ウォールは、嬉しそうに、うなずいている。


「うんうん。その年で【鑑定】スキル持ちなんて、素晴らしいねぇ。さあ! 続けて、続けて!」


 俺は、ウォールの右手の剣に注意する。

 右手はダラリと下がっている。


 とりあえず、俺を斬る気は無さそうだ。

 あくまで、今のところは、だが。


 俺は、【鑑定】結果に目を戻す。


「それから……、スキルが非常に多いです。例えば……、戦闘系だと【剣術(中級)】、【スラッシュ】……、これは剣術のスキルで斬撃強化ですね。【格闘術(初級)】なんかもあります」


「そうそう! 僕は、強いんだよ! 他には? 他には?」


「戦闘系は、他にも沢山あります。それから、戦闘補助のスキルもお持ちで……、強化系で【身体強化】、加速系の【加速】、魔法も闇魔法の【幻惑】が使えて、えーと、それから……」


 とにかくウォールのスキルは、異常に多い。

【鑑定】結果が、表示エリアに収まらない。


 これ、表示エリアに収まらない分は、どう表示するのだろう?

 スクロールとかするのか?


 俺は手を、【鑑定】結果の表示に伸ばした。

 手が【鑑定】結果の表示に触れた。



【鑑定】結果の表示が、クルッと回転した。



 裏画面だ!

 俺の【鑑定】スキルのレベルを(超)に、アップグレードしたからか?


 俺は、動揺を顔に出さない様に、澄ました表情を作った。

 ウォールの裏画面を見る。



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 ◆裏スキル◆

【シルバー】


 ◆シルバーガチャ獲得カード◆

【攻撃力上昇(30%・1時間)】

【防御力上昇(30%・1時間)】

【素早さ上昇(30%・1時間)】

【HP回復カード(30%)】


 ◆ゴールドガチャ・カード◆

【貴人転生】


 ◆シルバーガチャカード◆

【前世記憶】


 ◆寿命◆

 60年


 -------------------



 サクラが、【意識潜入】して来た。


(ヒロトさん?)


(サクラ、俺の視覚を共有しろ)


(わかりました。これは!?)


(この【シルバー】って、ガチャだよな?)


(獲得した寿命を使って、シルバーガチャが引けるカードですね)


 たぶん、ウォールも俺と同じような組み合わせで、地獄でガチャを引いたのだろう。

 それで、【シルバー】のカードをゲットした……。


(【貴人転生】は?)


(身分の高い人物、貴族や王族に、生まれ変われるカードです)


 なるほどな。

 おそらくウォールが、地獄で引いたガチャの組み合わせは、こうだ。


 ゴールドガチャ:【シルバー】

 ゴールドガチャ:【貴人転生】

 シルバーガチャ:【前世記憶】


(そうすると……。ウォールの持っているスキルは、転生後にシルバーガチャを回して、手に入れたのかな?)


(おそらく、そうだと思います)


(でも、こんなに沢山回せるか?)


(だから、盗賊狩りや戦争参加、不敬罪で冒険者殺しに、奴隷殺しですよ。目の前で見たでしょう?)


(あ……、そうか……)


(寿命を見てください。60年ぴったりです。これは、人しか殺していない、証拠ですよ)


 確かに、魔物ならもっと半端な数字になる。

 弱い魔物は、倒しても得られる寿命は1日とか、半日とかだ。


 寿命が10年単位になるのは……。

 人間だ。


 それに、転生してから回すガチャは、スキルの出が渋い。


 ブロンズガチャの10連を回したが、ステータスがアップするカードが多かった。

 ウォールのステータスが高めなのは、ガチャのカードで強化したからだろう。


 シルバーだからと言って、急にスキルが大量に出るとも思えない。

 とすると、どれだけの寿命を、ガチャに突っ込んだんだ?



「あれれれれ? ヒロト君は、どうしたのかなぁ? 黙り込んでしまったねぇ?」


 ウォールが俺の顔を、覗き込んで来た。


 危ない。

 サクラとの【意識潜入】の会話に、集中し過ぎた。


 俺は表示エリアを操作して、表のステータス画面に、【鑑定】結果を回転させた。

 指で表示を触ると、続きが表示された。



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【魔法察知】

【気配察知】

【毒殺】

【拷問】


【掃除】

【女たらし】

【奴隷いびり】


 ◆装備◆

 ウインストン王国軍服 防御力+5 魔法防御力+10

 ライトニング製ソード(ミスリル合金) 攻撃力+250

 乗馬鞭 攻撃力+5


 ◆アイテム◆

 マジックバッグ


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 俺は、ウォールの【鑑定】結果の続きを話す。


「装備も凄いです。剣はライトニング製ですね。ウインストン王国の王家御用達の、ブランド武器です」


「うんうん。僕は、母親がウインストン王国の王族だからね! 高貴な人間は、高貴な武器を持たなくちゃね!」


 ウォールは、満足した様だ。

 子供の様な笑顔を見せている。


 その笑顔が急に、威嚇する顔に変わった。

 冒険者達やギルド職員に対して、怒鳴り出した。


「わかったか! 僕が一番強いんだ! 一番凄いんだ! この国では、一番凄いヤツが王様になるんだ! だから! 僕が! 王様だ!」


 あまりの豹変ぶり。

 さっきの奴隷を殺した時も、酷かったが今の態度も酷い。

 ウォールは顔を真っ赤にして、髪を振り乱し怒鳴り続けた。


「平伏せよ! 馬鹿ども! 平伏せよ! カスども! 僕が一番なんだ!」


 訓練場は、シンと静まり返った。

 みんなが、ウォールに飲まれてしまった。


 最後にウォールは、優しく語り掛けた。


「ねえ、みんな。ニューヨークファミリーは、僕の応援しているクランだ。

 だから、ニューヨークファミリーのメンバーは、僕が応援してあげるよ。

 みんなもニューヨークファミリーに入ってね。

 そうすれば、殺さないから」

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