第24話 地獄戻りの転生者と寿命の関係

 3日間のホーンラビット狩りが終わった。

 俺とセレーネは、ダンジョンの入り口で、クラン『ニューヨークファミリー』のケインにからまれ、ダンジョンで狩ったホーンラビットを安く売るように脅された。

 だが、師匠の名前を出して、なんとかハッタリで窮地を逃れた。


 俺とセレーネは、ギルドでホーンラビット30匹を渡すと、受付のジュリさんにニューヨークファミリーのケインに脅された事を報告した。


「……と言う事がありました」


 ジュリさんは俺の報告を黙って聞いていた。

 俺が話し終わると、ため息をついた。


「あいつらね~、ギルドでも評判悪いのよ」


「そうなんですか?」


「ゴロツキクラン! 犯罪クラン! とか言われてるわ」


「そんなにヤバイ連中なんですか?」


「噂だけどね。ダンジョンの中で、自分達に盾突く冒険者を、殺しちゃうらしいわよ」


「ええ!」

「ひどい!」


 そんなに悪い奴らなのか……。

 セレーネも驚いて両手で口を押えている。


「そんな悪徳クランが、なんで冒険者ギルドに認められているんですか?」


「証拠がないの」


「ダンジョンでは死体が残らない。ですか?」


「そうよ。でも、ニューヨークファミリーともめた冒険者は、ダンジョンで行方不明になる事が多いのよ」


「状況証拠はあるんですね……」


「おまけに、有力貴族の後ろ盾があるから、誰も手を出せないのよ」


「タチが悪いですね」


「あいつら地獄戻りの転生者なのよ! だから人を殺したがるんだわ!」


 ジュリさんは心底嫌そうな顔をして、吐き捨てるように言った。

 俺はジュリさんの言葉を聞いて、固まってしまった。


 地獄戻り、転生者、それは俺の事……。

 ジュリさんは何で地獄戻りとか、転生者とか知っているんだ?

 意外とこの世界では、有名な話なのか?


 俺が黙っているとセレーネが話し始めた。


「ジュリさ~ん、その転生者って何ですか?」


「死んだ後、生まれ変わった人の事よ」


「え? そんな人がいるんですか~?」


「多くはないけど、いるわよ。転生者はね、元々別の世界に住んでいたの。でもその世界で死んでしまって、私達の世界に生まれ変わったの」


「私の住んでいる山の近くには、いなかったですよ~」


「転生者は、都会に住みたがるのよ。王都には、沢山住んでいるらしいわよ」


 転生者が都会に住みたがる気持ちは、何となくわかる。

 この世界は田舎の方に行くと本当に何もない。

 ルート仕事で回っていたハイジ村なんて、自然以外に何もない。


 当然、ネットやテレビもない。

 前の世界に比べると退屈極まりない生活に感じる。

 だから、ちょっとでも刺激のありそうな都会に住みたくなるのだろう。


「ねえ、ジュリさ~ん。なんで、自分が転生者ってわかるの?」


「前の世界の記憶が残ってるらしいわよ」


「へえ~、面白そう!」


「色々役に立つ記憶もあるらしくて、商売で成功した人もいるわね」


 確かガチャのカード【前世記憶】は、シルバーガチャだったな。

 寿命1年分のガチャだ。

 シルバーガチャならやる人も多いだろうから、前世記憶がある転生者が多いのもうなずける。


 それより、ジュリさんの言葉で気になった事がある。


「あの……、地獄戻りで、人を殺したくなるって言うのは……」


「あのね。転生者は、天国経由で来た人と、地獄経由で来た人がいるのよ」


 天国経由!

 天国から転生する人もいるのか?


「へー」


「それでね。転生者は私達より寿命が短いらしいの。天国経由の人は、善行を積むと寿命が延びるらしいのよ」


「そうなんですか!」


「そう。だから天国経由の転生者は、良い人が多いの」


 なに?

 天国経由の転生者は、善行を積むと寿命が延びる?


 転生してからずっと気になっていたいた寿命を延ばす方法を、今ジュリさんが話している。

 だが、今の話は天国経由だ。


 俺は地獄経由の転生者……、善行を積んでも俺の寿命は延びない……。

 天国経由を知っているなら、地獄経由の方も知っているんじゃないか?


「じゃあ、地獄経由の人は?」


 ジュリさんは、嫌そうな顔をして答えた。


「生き物を殺すと寿命が延びるらしいわ」


「……え?」


「魔物でも良いらしいけど……。人を殺すと一番寿命が延びるらしいわ」


「……」


「だから、地獄経由の転生者は、犯罪者になる人が多いのよ」


 俺の心臓の音が聞こえる。

 もの凄くドキドキしている。


 やっと寿命の延ばし方が分かった。

 転生してから、今まで長かった。


 しかし……、その方法は……。

 平たく言うと、殺す相手から寿命を奪うって事だよな。

 それも、人を殺すと寿命が一番延びるなんて……。


 悪魔め!

 ロクでもない方法だ!




 あれ?




 でも、俺は、スライムやタミーマウスやホーンラビットを随分倒したよな。

 じゃあ、俺の寿命は延びているのか?


 それとステータス画面の裏面にある、寿命、と言う表示……。

 今の話は、関係があるのか?


 俺は、色々な事を考えながら、ジュリさんに当たり障りのない返事をした。


「そ、そうなんだ。怖いね」


「それで、あいつらは、地獄戻りって軽蔑されているの」


「えっと、地獄から戻って来たって意味?」


「ううん。この世界で死んでも地獄へ戻るって意味よ。どうせあいつら、ロクな死に方しないし、死んでからもロクでもないわよ!」


 ジュリさんは、心の底から地獄経由の転生者を軽蔑しているようだ。

 いつもニコニコしているジュリさんが、こんな態度をとるのは珍しい。


 だがこうなると、俺が転生者である事は、ますます知られちゃいけない気がする……。



 いや、天国経由だと嘘をつけば、バレないか?



 いやいや、嘘がバレた時は、もっと立場が悪くなる。



 やっぱり転生者って知られちゃダメだ!

 秘密にしておこう。


 だいたい転生者の事はわかった。

 やぶ蛇になる前に、話題を変えよう。


「あのー、ところでジュリさん。ホーンラビットの買取の精算は?」


「あー、ごめん! 話が長かったわね。2人には買取の清算とDランク冒険者の特典の説明をしなきゃいけないの」


「Dランク冒険者の特典?」


「そうよ~。冒険者ランクは、昇格すると特典が増えるのよ~。じゃあ先に、特典から話すわね……」


 ジュリさんが、話を続けようとした時に、ギルドの入り口のドアが物凄い音で開けられた。

 入り口の方を見ると、ニューヨークファミリーのケインがいた。

 仲間を5人連れている。

 ケインと俺の目が合った。

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