第21話 1日目の朝 ホーンラッビット狩り

 ダンジョンからギルドに着いたら、もう6の鐘(夕方6時)だった。

 ホーンラビットを倒して解体していたから、時間が掛かってしまった。


 スケアクロウの皆さんに、毛皮と肉の入った袋を運んでもらったから、最後は楽が出来た。

 5000ゴルドの出費は痛いが……。


「ヒロトくーん、セレーネちゃーん、がんばったね~」


 受付のジュリさんが、笑顔で俺達を迎えてくれた。


「これ、ホーンラビット10匹分の魔石です。毛皮と肉と合わせて、買い取りでお願いします」


「オッケー! ホーンラビットは、毛皮が3000ゴルド、肉が2000ゴルドよ。10匹分だから、5万ゴルドね。魔石は5個で100ゴルドだから、10個で200ゴルドよ。合計で、5万200ゴルドの買取です! やったね!」


 おお! 一日5万200ゴルド。セレーネと2人で割ると、1人2万5100ゴルドか!

 なかなかの稼ぎになった!


「ジュリさん、この10匹はセレーネが仕留めたので、セレーネの冒険者ランク昇格をお願いします」


「了解よ! あとね、ギルドマスターのハゲールさんがお話あるって、ちょっと待っててね」


 えっ! ハゲールが? 嫌な予感しかしないんだが……。


「わー、ヒロト、すご~い! ギルドマスターとも知り合いなんだ~」


 セレーネは、ポワンポワンモードで喜んでるけど、ハゲールに何を言われるか……。

 心配だな~。


 ジュリさんは、奥の方からハゲールを連れて、すぐ戻って来た。

 2人がカウンターに座ると、まずホーンラビットの買い取りの現金を渡された。

 続いて、セレーネのEランクの鉄のギルドカードが渡された。


 あれれ?

 また、何か意地悪されると思ったのだけれど、随分スンナリだね。


 ハゲールが話し出した。

 落ち着いた口調で、悪い雰囲気はない。


「ヒロト! ダグ先輩から話は聞いた。ダグ先輩がお出かけの間は、俺が面倒を見るから何かあったら、すぐ相談しろ。セレーネもだ」


 何だろう? 態度が改まってる。

 まあ、師匠とは初恋の相手の話でやりあっただけだから、もうシコリはないのかな?

 ここは、こちらも紳士的に振舞っておこう。


「はい、よろしくお願いします」

「よろしくお願いしま~す」


「それでだ。今日はホーンラビットを、10匹狩って来たな。もっと狩って来る事は出来るか?」


 何だろう?

 ハゲールの口調や態度は、ビジネスライクと言うか……。

 何かあるな。悪い感じじゃない。


「解体がネックになりますね。解体がなければ、もっとホーンラビットを狩れます。それと、運搬ですね。解体しても重いので、今日は他の冒険者に頼んで運んでもらいました」


「ふむ。解体と運搬、それが解消されれば、もっと行けるか?」


「はい。行けます」


「よし。なら、このマジックバッグを使え。ギルドの備品だ。オマエのパーティーへ貸し出そう」


 ハゲールは、小ぶりな布製の袋をカウンターの上に置いた。

 続けて、好条件を提示して来た。


「解体手数料は、無料にしてやる。ホーンラビットを狩ったら、マジックバッグに放り込んでそのまま持って来い。ギルドでブッチャーに解体させる」


 ブッチャー、解体担当のミルコさんの事だ。

 この前、解体の仕方を教わった人だ。


「昼頃、午前中に狩った分を、1回持って来てくれ。解体場も作業スケジュールがあるからな」


「すごくありがたいですけれど……。メチャクチャ好待遇ですよね? どうしたんですか?」


「詳しい事は、まだ言えん。ギルドとしては、公平に冒険者に情報を出さないと……。とにかく明日、朝一番にジュリの所に来い。それからホーンラビットを狩りまくれ」


「わかりました」


「よし! では頼むぞ!」


 俺とセレーネは、ギルドを出た。

 何か狐につままれたような、とでも言うのだろうか。

 いきなりマジックバッグを渡されて、ホーンラビットを狩りまくれ、解体は無料だ、だからどうしたものか。


「ヒロトって凄いね~! ギルドで好待遇なんだね~!」


「いや、違うよ。ちょっと前まで、俺の扱いは最悪だったんだよ」


「そうなの~?」


「だから、急に好待遇でビックリしているんだ」


 とにかく明日から、ホーンラビットを大量に狩る事だけは確定した。

 俺とセレーネは、今日の収入を明日の準備に当てる事にした。

 道具屋と武器屋を回って、大量のチーズレーションとセレーネの予備の矢や水筒などを確保した。


 残金は、俺のとあわせて2万5000ゴルドになった。


 セレーネには、俺の家に泊まってもらった。

 チアキママにセレーネの身の上を聞かせたら、快諾してくれた。

 1人で宿屋に泊まらせるのは、ちょっと心配だからね。



 夜、部屋で一人になった俺は、カードを消費する事にした。

 ホーンラビットのカードは何だ?



 -------------------


 ◆ステータスカード◆

【素早さ上昇(微量)】×10


 -------------------



 ホーンラビットは素早さか。

(微量)だから1枚0.01上昇だな。

 これを……、消費っと……。

 ステータスは、どうなった?



 -------------------


 ◆基本ステータス◆


 名前:ヒロト

 年齢:12才

 性別:男

 種族:人族


 LV: 1

 HP: 12.05/12.05

 MP: -

 パワー:0.77

 持久力:1.12

 素早さ:0.1 ↑up!

 魔力: -

 知力: 70

 器用: -


 ◆スキル◆

【鑑定(上級)】【マッピング】

【剣術(初級)】【罠作成】

【忍び足】【ドロップ率上昇(小)】

【夜目】

【パーティー編成】new!


 ◆装備◆

 なし


 ◆アイテム◆

 なし


 -------------------


 相変わらずレベルアップはなしか……。

 このチマチマ小数点刻みで上がっていくのも、何とかならないのかな?

 まあ、ボルツの鎧とコルセアの剣が手に入ったから、ステータスが低いのは装備でカバー出来る。

 とにかく、明日は朝一でギルドだ。



 *



 ギルドは8の鐘、朝8時にオープンする。

 俺とセレーネは、ギルドがオープンしたら、すぐに入れる様に早めに家を出た。

 ギルドの前に来ると、冒険者でごった返していた。


「ヒロト~、これじゃあ……」


「ああ、セレーネ、中に入れない……」


 凄い冒険者の数だ。

 通りに冒険者があふれている。

 おまけに殺気立っている。


 こんな中に12才のセレーネと俺が突っ込んでいったら、怪我をしてしまう。

 弓矢や装備品が壊れてしまう。


 俺達は少し離れた場所に立って、他の冒険者達の話に聞き耳を立てた。


「ホーンラビットが……」

「ウチはもうメンバーを潜らせて……」

「今日……だけ……」


 どうも、良くわからない。

 ただ、他の冒険者もホーンラビットを、狙っているらしい。


 8の鐘が鳴った!

 ギルドのドアが開いた!


 冒険者達が、一斉にギルドに突撃した。

 あちこちで怒鳴り声が聞こえる。


「ヒロト~、困ったね~」


「ああ、でも、怪我したら損だ。落ち着くまで少し待ってから行こう」


 結局、俺達がギルドに入れたのは、1時間過ぎた後だった。

 ギルドから冒険者たちはいなくなっているけれど、ゴミが散乱しているわ、テーブルや椅子は倒れているわで、激しく混み合っていたのがわかった。

 受付カウンターに、グッタリとしたジュリさんがいた。


「ジュリさん、すいません。中に入れませんでした」


「あー、ヒロト君、セレーネちゃん。いいのよ~、ひどい状態だったからね……」


「お疲れ様です……。それで、昨日、朝一に来いと言っていた件ですけど……」


「うん、それでさっきの大混乱よ。この依頼書見て」


 ジュリさんは、1枚の依頼書をカウンターに置いた。

 俺とセレーネは、その依頼書を覗き込んだ。


「依頼の内容は見ての通りよ。期間は、今日から3日間。内容は、ホーンラビットの毛皮を20匹分収集。報酬は、素材の買い取り金額とは別に1万ゴルドよ。冒険者ランクの指定は、なし。パーティーに対しての依頼になるわ」


「これって、ホーンラビット40匹狩って来たら、依頼2つクリアになるんですか?」


「なるわよ。ヒロト君は、ランク昇格でDランクよ」


「じゃあ、60匹狩ってきたら……」


「依頼3つクリアで、セレーネちゃんも、Dランクよ」


「やります! この依頼受けます!」


「じゃあ、手続きしておくわね。早く行かないと、他の冒険者に狩られちゃうわよ~」


「わかりました! 行ってきます!」


 俺とセレーネは、ギルドを飛び出してダンジョンに向かった。

 これは大チャンスだ。


 冒険者ランクEランクからDランクへの昇格条件は、ギルドからの依頼3つを連続で成功させる事だ。


 ルドルの街近辺は治安が良いし、魔物もほとんど出ない。

 ダンジョンも10階層なので、レアなダンジョンアイテムや素材もない。

 だから、ルドルの冒険者ギルドには、あまり依頼がない。


 依頼3件をこなすのは、ルドルでは結構ハードルが高い。


 けどホーンラビットなら、チーズレーショントラップで数を稼げる。

 3日間で60匹狩って、俺とセレーネがDランクになるのも夢じゃない。


 Dランクになれば、ギルドカードは、青銅、ブルーカードだ。

 確か特典もある。


「ねえ、ヒロト~、これってチャンス?」


「大チャンスだよ! つーか、ボーナスタイムだね」


「3日間で60匹って行ける?」


「行ける! 大丈夫!」


「やった~!」


 俺とセレーネは、ダンジョンまで小走りしながら、そんな会話をした。

 だが、ダンジョンの1階層に降りて、俺達は真っ青になった。


 2階層に続く通常ルートが冒険者で埋まっているのだ。

 入り口すぐの広場から、通路が冒険者でビッチビチだ。


「ヒロト~、どうしよ~」


 セレーネの泣きそうな声が聞こえた。

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