16.コミュ障少女とペンダント






「………っと言った風に、魔法は大きく分けて2つに分けられる訳だが、フリッド。その2つとは何かわかるか?」


「はい、属性魔法と無属性魔法です」


「正解だ。火、水、風など属性魔法と、その他の無属性魔法に分けられている」



指に込めた自らの魔力で文字を書くことができる特殊な黒板に、魔法のことについての基礎知識を分かりやすいように重要な単語に赤く丸をつけたり図解を交え、“先生“が生徒たちに問いかけながら授業を行なっている。



「では、ウィン。その属性魔法はいくつある?」


「はい!………えーっと、8つ?」


「その通りだ。では、ファイ。その8つ全部わかるか?」


「はい。火、風、地、氷………うーんと、あとなんだっけ」


「じゃあ、クラン。残りを言えるか?」


「………はい。水、雷、闇、光の4つ」


「正解だ。実は8つ以外にもウッドランド先生が使う木属性魔法もあるんだが、それはまた別な授業で教えてやる。では、次は無属性魔法についてだが………」




「ふぇぇええ〜〜………。疲れた〜〜………」


「アタシも………。頭使う授業は苦手だよ〜〜」



授業が終わって先生が教室を出た瞬間に、ファイとウィンが机に倒れ込んだ。

倒れ込んだと言っても座ったままの状態で、上体だけがうつ伏せの状態になってしまっただけなのだが、その姿はまるで1日の体力を使い切った後のような疲れ切った様子だが、今は午前中の授業が終わり、昼休憩に入っただけなのである。



「とりあえず、午後の授業のためにお昼食べないとね。行こう、ファイ」


「そうだね。また”あの場所“にする?」


「うん。そうだ!フリッドとクランも一緒に食べようよ!」


「僕は結構です。1人で勉強しながら食べますので」


「………わたしも、いつも1人で食べてるから、………いい」


「そっかぁ、じゃあ2人で食べよ」


「うん、それじゃ2人ともまたあとで」



実力試験の時に昼食を食べた中庭へと着いたファイとウィン。相変わらず昼時は賑わっていてベンチは埋まってしまっていたので、2人は空いている芝生のスペースにウィンが持ってきたシートを広げ、そこで昼食を取ることにしたのであった。



「まるで、ピクニックみたいだね♪」


「たまにはこう言うのもいいかもね」


「フリッドって頭いいのに、お昼の時間まで勉強してるんだね〜」


「すごいよね。俺には絶対真似できないな」


「クランって、あまり喋らないけど、いつも眠そうだしなんか不思議な子だよね〜」


「うん。でも、フリッドに負けないくらい頭いいし、魔法の実力だってすごいし、ああ言うのを天才って言うんだろうね」


「クラン、いつもどこでお昼食べてるんだろう。フリッドは教室で食べてるみたいだけど、いつの間にか居なくなってるんだよね〜」


「うーん、いつも1人みたいだから、きっと静かなところで食べてるんじゃないかな」







「………なぁ、クラン」


「ん?」


「いいのか?」


「………何が?」


「ファイたちと一緒に食べなくて」


「………いい」


「そっか」



こちらも実力試験の時と同じく、研究棟の屋上で今回も売店で買ってきたパンでクランと先生が昼食を取っていたところであった。

しかし、ファイとウィンのように会話は盛り上がらず、突然話し始まったと思えば、長続きはせずまた沈黙へと戻る、それを繰り返すのであった。



「クラスには馴染めたか?」


「………わかんない」


「なんだそれ。ウィンとか女同士で話しやすいんじゃないか?」


「………レイヴンが居ればいい」


「俺が居るのは授業の時だけだろ。それに、俺が全部の授業を教えられる訳じゃないから、居ない授業だってある」


「…………………」


「すぐじゃなくてもいい。ただ、ゆっくりでもいいからアイツらに興味を持ってくれ」


「………わかった」



強い風が屋上に設置されている落下防止の手摺りの間を吹き抜け、その度に寒々しい高い音を鳴らす。まるで2人の会話の間に生じた沈黙を埋める間奏曲のように、その場に流れていた。






どこからともなく綺麗な鐘の音色が聞こえてくる。これは、ようやく1日の授業全て終わり、帰れる時間となった事を告げる合図でもあった。



「終わったぁぁぁ〜〜………」


「つぅかれたぁぁぁ〜〜………」



鐘が鳴り始めた瞬間に、昼の時と全く同じようにファイとウィンが机に倒れ込んだ。

倒れ込んだと言っても座ったままの状態で、上体だけがうつ伏せの状態になってしまっただけなのだが。その姿はまるで1日の体力を使い切った後のような疲れ切った様子だが、今回はあながち間違ってはいなかった。



「まったく……、毎日そんなだが、お前ら本当に卒業までもつのか?」


「………自信ない」


「同じく!!」


「やれやれですね」


「………………」


「じゃあお前たち、気をつけて帰れよ」


「あ、待って先生!」


「ん?どうした、ファイ」


「ちょっと、相談があるんだけど……」





ファイ達の教室から歩くこと5分、実習棟と呼ばれる建物に隣接する演習場に木剣を持つファイと先生の姿があった。そう、ここはファイやウィンたちが木のゴーレムを使った実力試験を行った場所でもあった。



「戦闘訓練をつけてほしい、ね。だけどお前、授業で疲れてるのに大丈夫なのか?」


「頭使う授業と剣の鍛錬は別だよ。それに、先生が相手になってくれれば俺、もっと強くなれる気がするし!」


「まぁ、やるからには徹底的にシゴいてやる。覚悟しろ!」



レクリエーションの時と同じくくらい激しい鍛錬が始まる。

しかし、2人の顔はまるで好敵手との戦闘を楽しんでいるかのような表情で、特にファイに至っては先ほどまで机にへばり付いていた時とは別人のようであった。



「あんなに楽しそうに剣の鍛錬する人たち、初めて見たかも。放課後によくやるよね〜」


「…………そうだね」


「何か、アタシたち居てもしょうがないみたいだし帰ろっか」


「…………わたしはまだ残ってるから、先に帰っていい………」


「そう?じゃあ、また明日!バイバイ、クラン♪」


「バ………、また………」



ウィンが演習場をあとにして演習場の隅にあるベンチに1人取り残された形となったクラン。ファイたちは鍛錬に夢中で、ウィンが帰ったことなど気づいてもいない様子であった。

そんなちょっとした孤独感を抱えたクランの頭の中で、昼食の時に言われた言葉がふと浮かんできた。



『すぐじゃなくてもいい。ただ、ゆっくりでもいいからアイツらに興味を持ってくれ』



「………わかってる。そんな事、わかってるよ………」



わかっているのだ。昼食の時といい、先ほどといい、ウィンはきっと自分のことを気にかけてくれているのだ。だが、その厚意に素直に甘えられない自分がいる。

きっと、怖いのだ。

“また”失ってしまうのが、とても怖いのだ。

だから、勇気が持てず無関心を装いあしらってしまうのだろう。

でも、わかっているのだ。このままではダメだと言うことを。



「………お母さん………あ………コレは………」



先ほどまでウィンが座っていた場所に何か光る物が落ちている。それは、綺麗で鮮やかな緑色の羽根の形のペンダントであった。羽根の裏には、"愛する娘へ"と書かれていた。



「………明日、渡せばいいよね。………でも、今頃探し回っていたら、どうしよう………」



クランは正直迷っていた。本当は今すぐでも届けてあげたいのだが、余計なお世話かもしれないと思う気持ちが邪魔をする。

しかも、このペンダントが本当にウィンの物とは限らないし、それにウィンの物だとして届けてしまえばきっと彼女は感謝するだろう。

わたしの気も知らないで、すごく感謝するだろう。



「……………もうっ!」




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