北北西の国・ウェイラント篇
第79話 カードはべんりでしゅ
国境を抜けた先は、相変わらず真っ白な世界だった。とはいえ、さっき抜けてきたミルヴェーデンよりも北寄りな国になるそうなので、雪深くなるらしい。
「くにのなまえはにゃんでしゅか?」
「ウェイラントというんだ」
「しょうなんでしゅね」
ウェイラントか。今度はちゃんと聞いたよ!
そのついでに商品チェックはどうしたのか聞くと。キャシーさんとスーお兄様が持っているマジックバッグの中に商品が入っていて、その中にあるスーお兄様の糸で織った布と宝石、皮製品と魔石を見せたらしい。いつの間に!
宝石などの高額商品を扱っている商人は、全部ではなく一部を見せるだけでいいそうだ。
どうして一部なのかというと、宝石類はただでさえ高価なものなのに、検品とはいえそれを堂々と見せるのは危険なんだって。腐った国だと門番たちがお金欲しさに襲ったり、悪徳商人だと前後にいる馬車の護衛たちが商品を見て主人に知らせ、その馬車を襲うことがあるから、らしい。
おおう、なんて物騒な話なんだ。
稀なこととはいえないわけではないから、一部の商品と何を扱っているかの一覧を見せるだけで通過可能になっているそうだ。だから、高額商品を扱っている商人の馬車は、それを誤魔化すために
あれか、要人を護っているSPみたいな感じなのか。なんか違う気もするが、あながち間違ってない気がする。
当然のことながら食材も検品するが、食材の場合は木箱や大きな麻布に詰められている関係で、蓋に釘代わりの小さな木の杭が打たれていたり、紐で結ばれていて密閉状態なので、箱や袋ごとの検品になる。
とはいえ、食材は途中の村や町で売買すればその分箱の増減があるので、取引証明書などを見せたうえで検品してもらうらしい。なので、食材は楽でもあり面倒でもあるという。
で、私たちの場合だが。まず、私以外はめっちゃ強い
その
そんでもって、身分証にもなっているカードだが。どこかの組織で発行してもらうと身分証明になるだけではなく、別の組織である「〇〇ギルド」に登録する際に、持っているカードに追加してくれるという。
たとえば、最初に冒険者ギルドに登録したとする。その後、怪我や老齢で引退したあと、冒険者として培った技術を元にして宿屋を開いたり、趣味が高じてレストランをひらいたりなどをする際、該当のギルドに冒険者カードを持っていくと、そこに料理人や商人になりましたよーと追加してくれんだそうだ。
要は冒険者だろうが商人だろうが鍛冶だろうが、いちいち別々にカードを作らなくていいってことらしい。便利だね。
もちろん、引退したらカードを返却しないといけないんだけど、例外もある。その場合のことはまた教えてくれるというので聞くことはなかった。
つーかさ、カードが一枚だけって……詐欺ができたりしそうなんだが。
そんな疑問をぶつけたら、あっさりと「できない」と言われた。なんでー?
「創造神であり主神でもあるバステト様のお名前が一番有名だが、職業ごとに担当している神がおられるからな」
「商人、鍛冶、薬師、医師。あとは料理や裁縫、宝飾や錬金術あたりは有名かしら」
「ほえ~。だいくしゃんとかもいるんでしゅか?」
「いるぞ。だから、詐欺を働こうものなら神罰が下るから、できないんだ」
なるほど。詐欺を働くと自動で神様に連絡が行くようになっているらしく、そこからどんな詐欺をしたのか調べて罰を下すそうな。
詐欺をするとどうなるかというと、ステータスの称号欄に「詐欺師」という感じで載るらしい。そんな称号がついたままだと国を跨げないし、町や村に入れない。入口にあった水晶球みたいなものは、それらを調べるためのものでもあるんだと。
そこで引っ掛かったら連行されて取り調べを受け、有罪となったら犯罪奴隷になってその国で罪を償う場所に移送され、刑期が終わるまで働かされることになる。そうなると、その情報もステータスに記載されてしまうので、本気で改心しないと町や村に入るのが難しくなるのだ。
詐欺だけじゃなく借金や殺人などの罪も称号欄に載るそうなんだけれど、罪を償っていれば新たにステータスに賞罰欄というのが増え、そこに記載されるんだとか。要は一度はこういう犯罪を犯しましたよー、でも改心してますよーという、注意喚起だそう。
「……おっかないでしゅね」
「そうだな。とはいえ、犯罪を犯さなければいいだけだ」
「ごもっとも」
どんな理由があろうとも――不作続きで貧困に喘ごうとも、盗賊のように商人を襲って人の命や荷物を奪った時点で、犯罪は犯罪だ。かの国のように救済措置で食料を出してくれるような国や領地ならいいが、腐っている国だとそういうのすらない。
しかも、上が腐っているからそれにならえと下も腐っていて、袖の下を渡せば取り締まりとは名ばかりで、簡単に国境を越えられてしまう。そうなると隣国に迷惑をかけたり、国境門がない森などを抜けて他国に逃げ、そこで犯罪を犯す。
そんな話を聞いて、日本でも似たような話があったなあと思い出した。
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