第75話 ストーブでしゅ
まずは電気ストーブもどきを馬車の中で使うことになり、石油ストーブもどきは黒猫のバッグにしまう。それから電気ストーブもどきの給水口に水を入れ、スイッチオン!
ストーブの熱線は三本あって、日本でもよく見るタイプのものだ。つまみをひとつ動かすごとに熱線が一本ずつ熱を発するやつ。
大人たちが温かさの確認をしたいというので、まずは一本から。
「これだと、そこまで温かく感じないな」
「そうね」
「じょうきがではじめると、くうきがじゅんかんしゅるから、かなりちがいましゅよ」
「へえ……」
そんな話をしているうちに水が温まり、蒸気が出始める。すると、ほんの少しだけ温かさが増した。
それを皮切りに二本、三本と増やしていくと、どんどん温かくなっていくのがわかる。その結果、満場一致で三本を稼働しっぱなしにすることになる。
ただ、気になる点がいくつかある。
まずは水。どれくらい稼働すると水がなくなるかわからない。日本で売っていた加湿機能付きの電気ストーブですら、メーカーによって時間が様々だった。平均すると四時間くらいが多いだろうか。
バステト様からいただいたものなだけに、水分の減り具合がわからないのが怖い。
次に、電気代わりの魔石がどれくらいの時間保ってくれるかもわからない。魔石は魔道具の燃料として使うけれど、使用後は魔力を込めることで再び使用可能となる、エコな燃料だ。
だからこそ、魔道具を使用する際は予備も含め最低でも三個の魔石が必要。魔道具の種類によっては魔石を二個や三個使用する場合もあるので、倍の魔石が必要になってくるのだ。
確認するとこのストーブの魔石は一個だけなので、もしスタンピードで狩った魔物を全部売ったとしても、途中で魔物を狩ればいいという結論に。それに、死の森で狩りまくった魔物の素材の大半と魔石はまだまだ残っている状態だし、私も初めて倒したベヒーモスの魔石や皮などの素材をもらっているので、それもあるしね。
他にもいろいろもらっているけれど……総額でかる~く精霊金貨二十枚はいくよと、
それはともかく、とりあえず水や魔石の使用量などの確認をするのに、稼働実験というか試験をしつつ、お昼を食べるため休憩所に向かう。お昼は朝ご飯の用意をしている時にテトさんが作っていた、野菜とお肉がたっぷり入ったスープとロールパン。
パンにはくるみが練り込んであるものとないものが用意されている。ないものはスープに浸して食べるもよし、バターやジャムを塗って食べるものよし。好きなように食べてもらうスタイルだ。
あとは温野菜サラダと、ホットミルクであ~る。
早く食べたいなあ……なんて考えているうちに、休憩所に辿り着く。そこには馬車が二台と、冒険者と思しき人たちが多数いた。
バトラーさんいわく、一台は定期便の馬車で、もう一台は商人の馬車だろうとのこと。何で見分けているかというと、馬車についている紋章なんだって。
定期便には馬車と馭者と馬の絵が描かれていて、商人は自分の商会のマークが描かれているとのこと。なるほどー。
とりあえずご飯を食べる、といっても外ではなく、馬車の中でだ。
外だとヤバイんだよね、特に私の容姿。あと、大人たちの容姿も。
何せ、変態ホイホイだからね! ついでに違法な奴隷商人とか貴族ホイホイだからね、全員!
関わりたくないよね~!
てなわけで、馬車の中でのご飯となったのだ。
誰もいなかったり定期便や問題のない商人の馬車なら外でもよかったんだけれど、隊商を組んでいる商人の紋章が、一番最初に大人たちが確認しに行って違法な奴隷商人が潜伏していた町のものだったらしいのだ。
その商店に問題がなければいいが、私たちはあの国の者でもなければ、あの町の者でもないから、人柄がわからない。なので安全パイを取ってこうなった。
「見てるな、あの商人」
「見てるわねぇ」
「まあ、ゴーレム馬車だからしょうがないね」
セバスさんとセレスさん、テトさんが冷ややかな目と声を出して、外を見て話している。
食事も終わり、片付けをしている時に窓から外を見たら彼らの会話が聞こえ、馬車とお馬さんをめっちゃ凝視していた小太りなおっさん。遠目で見ると馬にしか見えないけれど、距離が近づくにつれ、木目が見えるからね。
しかも、テトさんいわくここまで綺麗なゴーレム馬は滅多にないらしいので、大枚はたいてでも欲しいと願う王侯貴族や商人がいるという。
とはいえ、私はともかく、神獣たちの現在の姿は、超有名な冒険者パーティーの姿になっているし、彼らが使用している馬車やゴーレム馬を売ってくれというおバカさんはいないらしい。
馬車にも、それとなく彼らが使用している紋章が描かれているしね。
そんな話をしていたら、小太りのおっさんが立ち上がった。こっちに来ようとしていたが、護衛らしき冒険者たちに慌てて止められている。
顔を真っ赤にして護衛を怒鳴ったようだが、護衛がこっちの馬車を指さして商人に何かを告げると、一気に顔色が青から白になったのには唖然とした。
「商人なんだから、俺らが使用している紋章くらい知っておけよ」
「ほんとよねぇ」
「アホ」
今度はバトラーさんとキャシーさん、スーお兄様が呆れたような声で頷いている。
確かに、商品と一緒に情報も集めるという商人なのに、超有名な高位ランク冒険者が使う紋章を知らないのは致命的ともいえる。
まあ、うちらには関係ないから、放置するみたいだけどね!
ご飯も食べ終わってお茶を飲んで休憩。そうこうするうちに私たちの馬車は出発する。
休憩所を出る時、未練がましく馬と馬車を見ていた小太りのおっさんだが、再び護衛に何か言われて体を震わせたおっさんは、ガックリと項垂れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます