第66話 たきだしでしゅ
一回外に出たテトさんは、なぜか慌てて戻ってくると、「忘れ物!」と言ってミルクティーの入ったポットを五つほど亜空間にしまい、また外に出て鍵をかけた。それに苦笑して、また窓の外を眺める。
すげぇ! とはしゃぎつつ大人たちの無双を見ていると、徐々に魔物たちの数が減ってきたことに気づく。とはいえまだまだ油断できない多さなので、攻撃の手は緩めていない。
ぶん投げられたオコサマたちは、あとから合流した冒険者に助け出され、テトさんが張った結界の近くに放り出されている。もちろん彼らは呆然としているけれど、その顔面は蒼白だし、震えているようにみえる。
何があったか知らんけど、自分の力が通用しなかったのが悔しいか、助け出された冒険者に何か言われたに違いない。あとで最初から戦っている冒険者や神獣たちにしっかり説教されろや! とドライなことを考え、また戦況を見る。
安定した戦いっぷりだし、彼らにしてみたら雑魚なので、怪我の心配はしていなかった。なので一旦彼らから視線を外し、反対側の窓に行くと、テトさんの様子を眺める。
「まだたくさんあるので、慌てないで食べてください。魔物はもうこちらには来ないし、街道は塞がれたままなので、落ち着いたら一旦町に戻ってくださいね」
自分の器を差し出している、行商人の格好をした人にシチューとパン、ミルクティーを渡しつつ、座って食べている人に話しかけているテトさん。彼の前には大きな鍋がひとつとミルクティーが入っているポットが五つあり、シチューとパン、ミルクティーをもらおうと並んでいる人が見える。
私からははっきりと見えるけれど、どうやら本当に外から中が見えない仕様になっているらしく、私が見ていることに気づく人はいなかった。
結界に入れなかった人とバカ者冒険者たちに対しては、結界の中に入れた人に配り終わったあと、彼らに配っている。結界の中に入れなかった人だけど、内容はわからないものの怒っている顔を見るに、文句を言っている人がいるようだ。
が、テトさんに一刀両断されたみたいで一気に顔面蒼白となった。
……いったい何を言われたのやら。
そして、顔面蒼白ながらも文句を垂れているのはバカ者冒険者たちにも言えることで、テトさんが何か言うたびにオコサマたちは顔色を失くしていく。アホやなーとは思うものの、状況を見極めずに邪魔をしまくった結果なので、自業自得ともいえる。
一通りのことを終えたらしいテトさんは、またコンロの前に戻ると、おかわりに来たらしき人にシチューやパン、ミルクティーを配っている。こっちは心配ないかともう一度戦闘中のほうに行くと、神獣たちとベテラン冒険者らしき人たちは、さっきよりも奥のほうへと移動していた。
地面を見れば、神獣たちは亜空間にしまっているのか魔物の姿はないけれど、ベテランたちのほうはそのままになっている。戦闘しながらしまうのって凄いことなんだろうし、神獣にしかできない芸当なのかもしれない。
そんな余裕がないっていうのが一番だろうね。つまり、神獣たちが規格外なだけ。
数もかなり減り、終わりが見えてきている。そろそろメインを焼き始めないといけないかなあ……なんて考えてから、ハタと気づく。
神獣たちがしまった魔物やベテランが放置している魔物の処理って、どうするんだろう。もしかして、こっちが放出しなくても、あそこにある肉を使えばいいんじゃないか、と。
そんなことを考えていたらテトさんが戻ってきたので、窓の外を指さしてお肉をどうするか聞いてみたら。
「……あ~、確かに肉はいっぱいあるね。ただ、使った残りを持って帰るにしても、マジックバッグを持ってないと、彼らも僕たちも困ることになる」
「でしゅよねー」
「まあ、ベテランともなれば、個人とパーティーでマジックバッグを持っていることも多いから、あまり心配はしていないけど……」
念のために作るかと呟いてから溜息をひとつつき、亜空間から魔物の皮を取り出したテトさんは、その皮を使って何やら作り上げる。見た目は斜め掛けの鞄だ。
「テトしゃん、しょれはにゃんでしゅか?」
「マジックバッグだよ。重量軽減と拡張をつけている」
「ほえ~。わたちのかばんみたいに、じかんていしはちゅけなかったんでしゅか?」
「つけたらとんでもない値段になるからね。もし、こちらが提示した金額を彼らが払えるのであれば、あとから付与してもいいし」
サラっととんでもないことを暴露したテトさんに呆気にとられるも、「そのうちステラにも錬金術を教えてあげる」と言われてしまうと、つい遠い目になってしまう。
そうかい……人間にもできることなんかい……。
とはいえ、時間停止に関しては時空間魔法が使えないと付与できないそうなので、持っていない私はインベントリ状態のマジックバッグは作れないらしい。それでも、重量軽減と拡張なら錬金術だけでも付与できるので、冒険者にしてみればそれだけでもありがたいという。
まあ、詳しいことは落ち着いてからと言われたので、今は質問をすまい。
で、話を戻して、メインに関してだが。
「戦闘が終わってから、セバスやバトラーに聞いてみようか。一緒に戦っている冒険者がいるから、どのように分配するかわからないし」
「しょうでしゅね」
「だから、とりあえず持っている分を焼こう」
「あい」
テトさんが方針を固めてくれたから、その指示に従う。
さすがに幼児の力では大きな塊肉を切ることができなかった。なので、テトさんが切っている間に、私はコンロにフライパンをのせ、温める。
温まったら油を入れ、テトさんが味付けまでしてくれたウルフ肉をフライパンに入れる。ジュワ~っと音がして、お肉を焼いている時の匂いが漂い始める。
「ステラ、お肉を切ったから、片面に塩コショウしてくれるかい?」
「あい」
入れることはできても、ちょっと高さがあるから、幼児の身長だとさすがに菜箸で引っくり返すのは難しい。それを察してくれたテトさんが変わってくれた。
つーか、切るの早いな! いくつも並べられたバットの中には、切られたウルフ肉が鎮座していた。こっちはコンロがない分低いので、両面を塩コショウしておく。
焼き上がったものは大きなお皿に入れ、どんどん積み上げていくテトさん。ある程度積みあがったら、亜空間にしまっていた。
それを繰り返していると外から歓声が聞こえてきた。何事かと窓の外を見ると、セバスさんやバトラーさんたちが戻ってくるのが見えた。
ベテランたちは放置していた魔物を鞄の中にしまいつつ、こっちに移動をしている。
「終わったみたいだね。とはいえ、スタンピードの原因を探らないといけないのがなあ……」
「あ~……」
「まあ、そこは話し合いで決めるだろうし、いいか。セバスたちに丸投げしよう」
「しょうでしゅね」
丸投げするんかーいっ!
そう思いつつも、お口はチャック。
歓声をあげていた人たちは安心したのか、ホッとした顔して町に戻っていく。もちろん結界に入れなかった人も一緒だ。
そしてオコサマたちは、セバスさんやバトラーさんたちをキラキラと輝いた目で見ていたけれど、彼ら全員の表情を見て固まり、一気に顔色は真っ白にさせた。しかもそこにベテラン冒険者たちも来て、彼らがぶん投げたオコサマたちを集め、邪魔をしたオコサマたち全員を正座させ、がっつり説教を始めたではないか。
姿は見えるけど、かなり遠い場所にいるから声は聞こえない。が、ベテランたちが何か話すたびに、オコサマたちは顔色を失っていく。
どんな話をされてるんだろうねぇ。何度も言うけど、自業自得だからしょうがないね。
神獣たちは話をするつもりはないらしく、腕を組んだままずーーっと睨みつけてるし、それが怖いのかオコサマたちは顔色を失くしたまま、俯いている。
十分くらい説教されていただろうか。どうやら説教は終わったらしく、彼らは肩を落としたまま、町があるほうへと歩いて行った。途中で彼らを助けた冒険者を付き添いにして。
避難していた人もオコサマたちもいなくなり、最初から戦っていた人たちだけが残る。さて、これから彼らのご飯だねぇ。
「ステラはここにいなさい」
「あい」
何があるかわからないもんね。
さすがに疲れただろう? そう言うと、テトさんは座席の一部を戻し、そこに座らせてくれた。
「もし眠くなったら、寝てていい。行ってくるね」
「わかりまちた。いってらっちゃい」
残っていたシチューの鍋とパン、ミルクティーのポットを亜空間にしまい、外に出るテトさんを見送る。
ぞわぞわしていた背中と嫌な予感は、いつの間にかなくなっていた。
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