第54話 こっきょうのまちにとうちゃくでしゅ

 起きたらドラゴン形態のセバスさんに乗っていて、遠くに万里の長城のような、長く聳え立つ壁が見えた。雪は森の傍にいた時よりも少なく見える。

 何を言っているんだと思うかもしれないが、それが見たまんまの現状だ。

 寝起きでボーっとしているとセバスさんが下降し、地面に下りると同時に誰かが私を抱っこし、地面に飛び降りる。誰かな~と思って見上げたらテトさんだった。


「……テトしゃん?」

「おや、起きたのか。おはよう」

「おあよーごじゃいましゅ。ここはろこでしゅか?」

「お昼に話していた、国境の町の手前だよ」

「ほえ~」


 寝ている間に西の国境近くの町に来ていた衝撃に震える。

 あるぇ……? この町まで来るのに馬車で一週間、馬で駆けても五日、セバスさんたちでも約一日はかかるって言ってたような……?

 それがなんで二時間ほどで到着してるのかな……!?

 その事実に寒さとは違う震えがきたあと、冷や汗が流れる。


 神 獣 の 本 気 を 見 た !


 実際には見ていないけれど、短時間で到着するってことはそういうことでしょ?

 こえぇぇ! とガクブルしつつ、人型に変わったセバスさんとセレスさん、キャシーさんとバトラーさんと一緒に、降り立った場所から街道へむけて移動する。とはいえ、私はテトさんに抱っこされたままだ。

 そもそも、身長もだけれど足のコンパスも違うしな!

 五分も歩くと街道に出る。雪が少ないだけあり、街道自体にはほぼ雪がなかった。

 それでも五センチほど埋まったわだちがあることから、それなりに雪は降るんだろう。あとは晴れているからなのか少しだけ雪が融け、ところどころに小さな水たまりがあるくらい。

 つまり、地面はべちゃべちゃなわけだよ。しかもデコボコだから、幼児なら確実にコケる。

 それを考えたら、テトさんにしがみつくのはしかたないよね。

 十分ほど歩くと遠くに門と並んでいる人々が見える。その段階で近くにあった森の中に入ると、全員が見た目を変更した。

 バトラーさんとテトさんはお兄様から二十代後半か三十代前半の青年で剣士と魔術師のスタイルに、セバスさんとセレスさんは、セバスさんはハーフプレートの鎧を身に着けて槍を持ち、セレスさんは魔術師スタイルと杖。杖というか、棘がついているハンマー、かな。

 いわゆるひとつの、モーニングスターってやつ。かなり物騒だ。

 そして一番驚いたのがキャシーさん。今までずっと人型にならなかったんだけど、今回初お目見え! まあ、見た目はスキンヘッドの屈強なおっさんで背中には大剣、蜘蛛さんはなんと見た目十代後半の美少年になったのだ!

 ただし、男の娘だけど!

 髪は朱色で、前髪の一部が黄色のメッシュ。目は蜘蛛さんと同じ琥珀色だ。

 蜘蛛さんの時は他に赤と黒い目があるけれど、メインの大きな目が琥珀色だからこっちになったんだろう。

 スパッツのようなズボンを履き、上は紺色のワンピース。ベルトにはウエストポーチとベルトに沿うようにくっついている短剣、弓を背負っていて髪はツインテール。

 矢筒はなく、魔力を矢として使う弓だそうだ。

 つうか、キャシーさんがオネェだから、蜘蛛さんもそっち方向なのか!? 勿体ないと思いつつ、とりあえずお口チャック。

 私以外は冒険者パーティーのように見える格好になったんだが、蜘蛛さんのことはなんて呼べばいいんだ?


「くもしゃんのおにゃまえは、なんでしゅか?」

「アタシの一部だからスティーブではあるけれど……、どうしようかしら」

「お前がキャシーなんだから、そのままスティーブでいいだろ」

「そうだね。ギルドタグもそうなっているんじゃなかったっけ」

「ああ、そういえばそうだったわね」


 百年ぶりの人型で忘れてたわ~、なんて暢気なことを言うキャシーさん。

 おいおい、いくらなんでも、蜘蛛さんが可哀想すぎる!


「ですが、さすがにステラが呼ぶにはスティーブは呼びづらいでしょう」

「あい、むりでしゅ。おにゃまえをまちがえたくありまちぇん」

「ん~……。なら、セス、はどうかしら。いい?」

「ん。問題、ない」

「いぎあり! じぇったいにかみましゅ!」

「「「「「「ああ~……」」」」」」


 セスはカッコいいお名前だとわかるが、幼児の舌を舐めちゃいけない。さ行の連続なんて、絶対に噛むがな!

 結局、名前はスティーブのままで大人たちはそのまま、私はきちんと発音できるようになるまで、スーお兄様呼びになった。それはそれでどうなんだって話だけれど、蜘蛛さんがハートと花を背後に飛ばす勢いでスーお兄様を呼びを気に入ったらしく、満面の笑みを浮かべて返事をしたので、スーお兄様呼びに落ち着いた。

 彼らのスタイルチェンジが終わったら、私もスタイルチェンジ。といってもコートがキングブラックベオウルフという、神獣を除き、魔物では頂点になるウルフ種の毛皮を使った、真っ黒いコートになっただけだ。

 しかも、フードはデフォルメされたキングブラックベオウルフの顔と耳、尻尾がついているうえに、スーお兄様を除いたバトラーさんたち神獣の加護と防御系魔法がこれでもか! と付与されまくっている一品物★

 つまり、これから行く町は、それらが必要なほど状態や雰囲気が悪いか、犯罪者が跋扈しているんだね?

 あるいは犯罪者ホイホイにならないための対策なんだね?

 だって、付与された魔法の中に認識阻害なるものがあるって聞いたばかりだもの。その魔法が必要なほど犯罪者予備軍がいるか、私の容姿が問題になるってことなんだろうなあ。

 念のため聞いておいたほうがいいかと質問したら、スーお兄様込みでめっちゃイイ笑顔でサムズアップした。


 ……そうかい……そんな町なんかい、これから行く国境の町って。


 絶対に一人にならないようにしなくては! と決意しつつガクブルしていたら、バトラーさんに抱き上げられた。


「ステラ。国境の町の門に近づいたら、そして通りすぎても、セバスがいいと言うまで黙っていること」

「あい」

「フードもしっかり被っていてね。被っていれば認識阻害の魔法が発動して、顔の判別ができなくなるわ」

「あい。わかりまちた」


 バトラーさんとキャシーさんに注意され、しっかり頷く。だって彼らと――特にバトラーさんと離れたくないし、他の大人たちやスーお兄様ともっと一緒にいたい。

 そう言ったら、全員揃って肩をプルプル震わせていた。……できれば悶えていたんだと思っていたい。

 そんな話をしたあと森から出て、街道を歩く。門が近くなったところでコートのフードを被るように言われてしっかり被ると、セバスさんに黙っているように言われ、無言で頷く。

 そのまま列に並んで十五分もしたころ、門番とご対面~。

 身分証の確認と、幼児がいるからとバトラーさんが私を保護したという体を装い、門番にそう説明。実際にバトラーさんに保護されているから、嘘は言っていない。

 しかも、バトラーさんを含めて高ランクしかいない冒険者パーティーだと思ったようで、周囲の人や門番をしている兵士たちから尊敬やら畏怖やらの視線を集めていた。

 その後は私の入場料である鉄貨十枚を払い、中へと通される。


「ようこそ、キャドラングルの町へ」

「ありがとう」


 セバスさんが代表で答え、門をくぐる。パッと見た感じだと、かなり活気がある町に見える。


「とりあえず、宿を探しましょう」

「様子見と買い物はそれからね」


 セバスさんとセレスさんの言葉に、全員頷く。

 早くお話したいなあ。いろいろと気になることを門のところで話していたし。

 まだ許可が出ていないので、バトラーさんにしがみついたまま、周囲を見回した。


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