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百烏
第1話『変わった変わらぬ日常①』
「ヤッバーーイ!!」
ドタドタバタバタといった物音と共に少女は玄関を飛び出した。
急いでいる少女が視ているのは手首でもスマホでもない、目の前の空間を覗いている。
必死に走る少女を嘲笑うように車たちが横を通過し、衆は彼女に一切の興味も持たない。
いくら走ったか分からないが、だいたい通学路の中間といったところだろう。
突如、少女を取り巻く景色が一転する。それと共に彼女の見た目も変化があった。
「あーー!時間が無いのにー!!」
「見た感じ二時間コースだね。一時間、いや、四十分で終わらす。」
突然な深い森への転移、少女は楽しんでいた。
2018年、世界は変わった。
世界の革新は一つの小さな隕石から始まる。
『隕石』それは、宇宙からの郵便物、彼らが世界に与えた影響は膨大なものだ。
既に、人類の所有数は万を越えており、その隕石も倉庫の肥やしとなる筈……だった。
世界は第四次産業革命。人類は新たな力を手にいれたのだ!
その力が、人類を生き残らせる唯一のモノだと、まだ誰も知らない。
──2022年9月、
「おい、放課後ゲーセン行こーぜ」
「せんせーまだ~?」
「早くSTしろよ~。」
「食らえ!消し魔球!!」
「定規スイングだオラァ」
「痛ーー!」
「ちょっと~、そこの男子~。」
「委員長、どうにかしてくれ!」
先生が遅れているのを良いことに好き勝手している。特に一部の男子だが、消しゴムをボール代わりに、定規をバット代わりに野球をしている。彼らは所謂おちゃらけ小僧という奴だ。
こんな無法地帯だが、救いは有った。
このクラスにはどうしようもない行動をする人間は多いがイジメは無い。陰キャや陽キャ(暗い人や陽気な人)と言った壁は在っても対立は少なかったのだ。
委員長の存在も重要な役割を担っていた。委員長は真面目で優しく、そして顔も良いと言うので、クラスの全員から慕われている。その証拠はこの後の様子を見れば分かるだろう。
「静かにしてください。」
委員長がそう言った後数秒、クラス全員が委員長の言った事を完全に理解する程度の時間が経って、辺りは静まり返った。おちゃらけていた男子も、キチンと椅子に座り、話を聞こうとしている。美人な委員長に従うとか、現金な奴らだ。
委員長が教卓に出て一言。
「取り敢えずSTを始まめす。」
その瞬間、ガラガラっと黒板側の扉が開く、入って来たのは先生だろう。
「すまない、STもう始まっちゃった?」
登校完了時間から約15分、先生は何らかの用事で遅れてやって来た。しかし、誰も不満を漏らすことはないだろう。
「佐々木先生、今始まったばかりなので安心してください。」
「よし!点呼を始める。朝桐、足利、石田、…………橋本、萩原、……萩原休みか?」
教室、窓側の列の一番後ろ、多くの生徒がその席を獲ようと争った。教卓からも遠く、風通しが良い、そんな好条件詰まった席が今、空席と成っている。
この席の主は萩原 やn
──ダダダダダッ、バン──
血相を変え、息を切らし、制服の乱れた少女が、教室の後ろの引戸を引き抜く。
「お、く、れ、ま、したーーー!!。」
好条件の席の主、今しがたやって来た少女、彼女こそ
今日が始まって約8時間40分、段落にして約45段、やっと主人公の事に触れられる。
萩原 矢波、通称ヤッギー、男みたいなアダ名だが本人は結構気にいっている。そのヤッギーちゃんだが今日は寝坊をして急いで走ってきた。だから、メイクやヘアーアップなんかは一切出来ていない。まあ、そもそも髪はツインテールでメイクも普段からちゃんとしていないので変化が良く分からないのだが。
少女と言われる程度に幼な顔で身長も低めだ。そのため小動物の風格をかもし出しているが、その理由は顔と身長だけではないだろう。貧ny、ゲフンゲフン、貧相だからでもあろう。
「遅れた言い訳を聞こうか。」
佐々木先生はキツ目の声を萩原に掛ける。何て言ったって萩原は今月三回目の遅刻であるからだ。
「あれなんですよ先生!無差別クエストに逢ったんです。」
優しい佐々木先生も今回の件は渋面に成らざるおえない。
「萩原、無差別クエストって最長で五分だったよな」
「チャイム鳴って17分後にやって来たよなぁ。」
「どっちみちお前、遅刻してんじゃねぇか!」
佐々木先生は怒っているというより呆れている様な顔した。
取り敢えず、萩原は見事に学校に遅刻した訳だ。そして佐々木先生は公私を分ける。つまり、
「遅刻+1な。」
「そんな無慈悲なぁ!」
当然の結果だ。
佐々木先生は空中を指でなぞった後萩原に着席するように言った。
簡略化したSTを終え、普通の授業を始める。この普通は、君たち読者にとって普通じゃない。
授業に紙を使わない、机は在って無いような物。
そろそろお気づきだろうが、この世界にはホログラムの画面が存在する。いや、ホログラムだけではない。この世界の住人は、皆、拡張された世界の中を生きているのだ。
第四次産業革命が起こった、それが人類に対し善であるかは定かでない。
しかし、人類に有益な物では有ったようだ。実際に大半の教科書、筆記用具類を持ち運ぶ必要がなくなり、生徒の幸福度は上昇した。VR型のゲームはリアルを越しOR(オーバーリアリティー)と呼ばれ、ゲーマーに新たな熱を与えた。
そして、ここにも一人のゲーマーが居る。
「(ゲームしたいな……)」
3時限目が始まった頃、萩原は外を眺めていた。彼女はアホでもバカでもないがゲーマーで、今日遅れた理由もゲーム中の寝落ちだった。
「は~ぎ~は~ら~!余所見とは余裕じゃないか。この問題を解いてもらおう。」
この時丁度、佐々木先生担当の英語の授業だった。よりによって佐々木先生の授業の時に余所見をするなんて………アホでもバカでもあったようだ。
その後、佐々木先生による問題の嵐が彼女を襲ったのは言うまでもない。
今の佐々木先生は、かなり陰湿だがそれでも人気は揺らがない……はず。
──少し飛んで放課後──
「やっとお、終わった。」
萩原は、3時限目の設問ラッシュで、大体の体力を消費してしまっていた。そのためか、後の授業を集中出来ず、更に設問ラッシュを受けることに成ってしまった。なのでもう動けない。
既にクラスメートの殆どは帰路に着いている。
萩原は顔を机に突っ伏して、腕をだらーんと伸ばした状態で、燃え尽きていた。
「ヤッギー、お疲れ。」
「萩原らぁ、マジでドンマイだな。」
「やなみ、お疲れ様。」
萩原は三人のクラスメートに声を掛けられる。三人ともゲーマーなのだが、上から順に紹介していこう。
ちなみに、萩原がゲーマーに成った理由を作った張本人である。
兄がいて姉が居るので、家を継がず夢である保育士に成るつもりなのだ。ただ、周囲にゲーマーがたくさん居たのでオセロ方式でゲーマーに成ってしまったと言う悲しい令嬢である。
この三人の中で一番、萩原と対極な地点にいる人物でもある。何が在るとは言わんが、何が在るとは言わんが、何が在るとは言わんが!!(大切な事につき、三回言わせて頂いた)
「佐々木先生も大人気ないけど……」
出水が口を開く
「佐々木先生の授業で余所見していたヤッギーもヤッギーだよね。」
「てかぁ、萩原!お前なんで答えれたんだよ。」
坂上は萩原を小馬鹿にしつつも驚いているようだ。
坂上はこのクラスの中で比較的アホの分類で、萩原も自分と同類だと感じていた。なので、今回の問題の嵐を全て答えた萩原に『何か不正を働いた』と考えている。
「えっ、毎日四時間は勉強しているから?」
一瞬、衝撃が走る。
「俺と同じ、馬鹿族だと思って……た……のに…。」
「馬鹿族ってなんやねん。」
坂上は、目を見開き片足を上げ、両腕を上に揚げて荒ぶる鷹のポーズをし、自信が驚いているのを全力で表現している。
浅倉は、そもそも話の内容が脳に到達できてないようだ。
「リンリンは全然驚かないよね。」
出水は萩原にリンリンと呼ばれている。
「そりゃぁ、お前が勉強している事なんて知ってたからな。」
坂上と浅倉は完全にフリーズして固まっている。浅倉の場合、様子を変えずただひたすら瞬きをしている。
数秒待って、坂上が戻ってきた。浅倉は良く分かっていない風に瞬きを続けている。
「てっ、て、てか、いつゲームしてんだよ。萩原!」
「そりゃぁ、寝ないで。」
「ヤベーや。」
浅倉はポンっと手を叩く、なにやら今の状況を理解したようだ。
「え~っと、ようするに~ゲームセンターに行こうってって話よね。」
……………。
このクラスには学校のアイドル的存在がいる。一人目は委員長、真面目な美人黒髪ロングとして多くの男子に人気だ。そして二人目は浅倉、お嬢様であり、ブロンド髪であること、ホンワカした雰囲気が愛らしいと評判である。
だが実際には、ホンワカしているのではなく、頭のネジが緩いのである。天然なのである。
「確かにゲームの話はしていたが、ゲーセンに行こうとは言ってねぇよなぁ、出水。」
「確かに。」
『何を間違えたのだろう?』といった風に浅倉は、えっえ~っと言葉を漏らす。
「いいじゃん、どうせこの後ダベるだけならゲームしながらだダベろ。」
萩原の提案に一同賛成する。全員ゲーマーなので一切の躊躇がないのだ。
「そうと決まれば、さっさと行くぞ。出水、茉依、萩原。」
「は~い。」
「じゃあ、行こうかヤッギー。」
「荷物まとめるからちょっと先行ってて。」
三人が教室から出ていくとこを横目で見つつ、そそくさと荷物をまとめる萩原。その後、三人のあとを追って教室を飛び出した。
誰も居なくなった教室は、夕陽の灯で赤く染まっている。
──
ここは近辺のゲーマーと言うゲーマーが集まる遊技場。様々なアーケードゲームが設置され、約四十種類のゲーム機がフル稼働している。
そんな中で人々はスコアを競い、勝っただ、負けただ騒いでいる。それがここの全てあるかのように……。
彼女ら四人はそんな所に居る訳だが、どういう事か一向にゲームをしようとしない。ただ、隅の方にある機械の前で順番待ちをしているようだ。
「相変わらず、萩原はこれ好きだよなぁ。」
「いいじゃん、面白いんだから。」
「手短に出来てよいですからね。」
「リアルだしな。」
「でしょ~!」
「いや、ダメとは言ってないからな。」
周囲にアンティークからモダンなゲーム機があるが、萩原、出水、浅倉、坂上の前にあるこれは、その全てから逸脱している。何か良く分からないものだ。
黒の立方体そのものであるといえる、目の前の物体。唯一正面に時を刻むデジタル時計があるので、これが機械だと理解させる。
こいつの名前は
ワンオブレジェンズは元々PCゲームである。初めの頃はそのように販売されていた。しかし、四年前のある日、このゲームが世界の形を完全に変えてしまったのである。
世界では第四次産業革命だとか言われているが、実際にはこのゲームが世界をアップデートしたことに他ならない。
何を言っているか分からないだろうから、掻い摘んで言うと、ゲームがリアルに成ってしまったという訳だ。
我々人類の領分を越えて、世界にそのシステムの根を広げていった。第四次産業革命とは、その副作用たる恩恵を受けている事を指している。
朝方、萩原は無差別クエストと言った。それはそのシステムの弊害たる災害の事であり、拡張された裏の世界でこのゲームをする事であった。
そして、この箱は無差別クエストを任意で行うためのワープポイントと言ったところだ。まあ、ワンオブレジェンズは人の手から離れ、勝手に動く独立ゲームだが、世界初のORゲームとして世界は黙認しなければいけなかった。
「あと一分弱、で終わりそうだ。」
デジタル時計が00:53を示す。
このゲームは一時間を五分程で行える。ゲーム内の時間は現実世界、こちらの世界より何倍も早く進む。でも、何倍も早く歳をとると言う訳ではない。
そうこうしているうちに、数字がゼロに成った。黒箱が少し光り、ゲームをしてたであろう人物が現れる。中から出てきたというよりは、何処からか飛んできたといった感じだ。
「ヤベーよ、あれ無理ゲーだ。」
そう言って肩をすくめる男と。
「アホみたいなレベルだったぞ、ボスがよぉ~。」
そう言って天井を仰ぐ男が、四人の間を通りすぎていく。
「めっちゃムズいんだってさ。」
「ワクワクしますね。」
「ヨッシャァ、イッチョやったりますか!」
「ヘマすんなよ、友人。」
「わぁってるよ!」
四人は黒箱に手をかざす。周囲がフッと白くなって、景色が一転する。それと共に彼女らの見た目も変化していった。
──ブン、ギュィィィイイ──
さぁクエストの始まりだ。
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