切り取り共同生活。5
小学二年生の夏。
菘は、涼が母を憧憬の眼差しで見ていることに気づいた。
たしかに、母は友達の母親たちよりも綺麗だと、血縁者ながらに思っていた。
「涼はお母さんのこと好きなの?」
「は、なんで俺が葵さんのこと」
「だって、ずっと見てたから」
鏡で見れば、自分は母にそっくりだ。お陰様で、我ながら結構可愛いと自覚していた。
だけど、涼は母を見ている。それが、幼いながらに無性に腹が立った。
しかし、当時の菘に涼が自分を見てくれるようになる方策は思いつかない。だから、思い切って母に直接聞いてみた。
すると、
「あー、そしたら菘も髪伸ばしたら?」
母は腰まで伸びた髪を指しながら言った。
もっとマシな回答を期待していた菘としては、ガッカリだった。だけど、何もしないよりは良いかと思い母の言う通りにした。
とは言っても、髪が伸びるスピードは一定だ。すぐに母と同じ長さとはいかない。
それでも、髪が肩口あたりにつくぐらいになった頃。
「……菘、髪伸ばすのか?」
涼が唐突に聞いてきた。今まで短髪だったから、気になったのだろう。
「うん。……似合ってない?」
「ううん、そっちのほうがいいと思う」
女の子を褒めるというのはやはり恥ずかしいのか、小学生の涼はそっぽを向きながら答えた。しかし、むしろその反応で確信した。涼は長髪の方が好きなんだと。
きっと母は適当なことを言ったのだろう。だけど、実は遠からず正解だったのだ。
それから、菘は今日まで髪を伸ばし続けていた。
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